第84話 アクセサリーは難易度高め

 さて一方、ゲツレイはと言えば……

 露店の前で固まっていた。

 かんざしやら、髪飾りやら、櫛やらを売っている店。

 「……」

 本当に見た目に反して、着飾ることに興味がない少女だ。

 土産を買おうと決意したものの、選択肢が多すぎて困っている。

 誰に何が似合うのか分からない。

 そして、無口で無表情だったことが嘘みたいに、戸惑いが顔に出るようになった。

 あんまり可愛かったものだから、

 「どうしたの、お嬢ちゃん?」と、中年の女性店主に声をかけてもらえた。

 「あの……お土産買いたくて、……どれ買っていいか、分からなくて……」

 しどろもどろがまた可愛い。

 困り果てていたから、結局店主が手伝ってくれた。

 「どんな方へ?」

 「えっと、……背が高い人と、優しそうな人。」

 「うーん、髪の色は?お嬢ちゃんと同じような赤?」

 「え?ううん」と、ゲツレイは首を振る。

 「1人は黒で、もう1人は銀?」

 「銀って?……白髪なの?」

 「ううん。キラキラしている。白じゃなくて、銀。」

 「そう。外国の人みたいね。」

 今店主と話している少女こそ外国人で、話題のゆきは日本人だという不思議。

 「なら」と店主は、2つのかんざしを手に取った。

 「髪の黒い人ならどれも似合うと思うけど、背が高いって言ってた人でしょ?」

 「そう。」

 「なら彼女にはこれを。」

 黄色というかオレンジと言うか、太陽みたいなかんざしだった。

 優しい、暖かみのある色だ。

 そして、ゆきのために選んだのは海のような青で。

 「し……銀の髪の人なら、この青が似合うと思うわ。優しそうな人って言ってたし、雰囲気を締める意味でもこれがいいわよ。」

 手渡され、宝物でも押し頂くように受け取ったゲツレイは、急に目についた白い石(実際は薄い緑が入った飾り玉だ)のかんざしを加え、

 「なら、この3つを」と、店主に渡す。

 『1個110文(5500円)』と書いてある。

 計算は苦手だ。

 指と脳をフル回転し、『3つで330文(16500円)』と当たりを導けた時、道に敷物を敷いただけの露店の隅に、奇妙な帽子を見つけた。

 毛足が長い、耳当て付きの灰色の帽子。

 「ああ、それは。」

 ゲツレイの視線に気付いた、店主が説明する。

 「ロシアからの輸入品らしいけど、半端だった分が露店に流れたんだよ。」

 暖かそうだし、今の恰好(厚手の満州服に外套)に丁度いいかと手に取る。

 髪色も隠せるし。

 気に入ったが、180文(9000円)とある。

 330文と、180文で……えーっと……

 「510文?」

 「そう。」

 「510文は……2朱10文(25500円)?」

 「そう。2朱(25000円)にまけとくよ。」

 店主は端数を切ってくれた。

 なんとか会計を済ませ、ミッションコンプリート。

 情報を探るどころではなかったが、とりあえず、

 『ロシアの帽子が江戸に入っているのは報告できそうだな』と、少女は買ったばかりの帽子を被った。

 外国人そのものだが……

 髪色が隠せるだけ、厚着で性別が隠せるだけ、いつもよりましと思う。

 慣れない買い物に少し疲れた。

 癒しのため?にゲツレイは鍛冶屋を目指し……

 「あれ?」

 辺りの風景が変化していることに気付く。

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