第82話 冬が始まるよ
大政奉還が終わり、冬が始まった。
旧暦10月、新暦の12月だ。
まだ、これからの日本に関する正式な発表はないが……
大使とスウトウは、この先の日本を動かす可能性を持つ人物にあたりを付けて、会談したり文書を送ったりと忙しい。
ジュンケンとゲツレイも相変わらず町に出て、情報の収集に努めていた。
そう言えば、彼らがもたらした情報から、薄々わかってきたのは『江戸遷都』。
大政奉還以来、町のあちこちに手が入り始めた。
長屋が密集していた場所が取り壊されて、なにやら工事が始まったり、整備が進められることから……
この国は幕府は江戸、天皇は京都と住み分けてきたが、その幕府が一線を退く以上、中心となるのは京都のはずだ。
ただ、急ピッチで江戸に手を入れているということは……
遷都を行い、政治的中心は変えないと想像出来た。
少年少女のお手柄だった。
その日、義理堅いと言うか、らしいと言うか、ジュンケンは朝早くからさくの家に手伝いに行った。
残りのメンバーで朝食をとる。
ご飯と味噌汁。
お店にいる時覚えたと、ゆきがだし巻き玉子を作る。
優しい味で美味しかった。
その後大使とスウトウは、会合があると出掛けてしまい、
『さて、私はどうしようか?』と、ゲツレイは思った。
それが貰った役割だし、町に出るのは変わらない。
しかし、着飾ることにも食べることにも興味のない、ゲツレイの立ち回り先は限られる。
甘味処か鍜治屋くらい。
『これはないんじゃないか?』と、自分でも思った。
無口で無愛想なゲツレイの中身は、実際かなり生真面目だ。
いつもと違う場所に行こうと思い、しかし、ならばどこにと考えて、思い付く。
スイリョウとゆきに土産を買おう。
食べ物は除外、ならば手鏡やかんざし、櫛などの小物だ。
普段の通りを外れた場所に、露店が立ち並ぶ場所があった。
いつもより多めの金子を財布に入れて、ゲツレイが出掛けようとした時、
「ゲツレイちゃん。」
呼んだのはゆき。
スイリョウの部屋から手招きされた。
嫌な予感しかしない……
スイリョウの部屋には、大量の生地が散らばっていた。
ゆきと、勿論部屋の主もいて、
「はい」と、服を差し出してくる。
今ゲツレイは人生最大の『衣装持ち』だ。
「え……いら、いらない。」
ブンブン首を振る少女に、
「違ーう‼️」と、更に服を押し付けるスイリョウ。
「ゲツレイも‼️少年も‼️
なんでそう寒さに鈍いのよ⁉️」
言われてみれば、これまではチャイナドレスを着ていたスイリョウが、厚手の満州服を着ている。
ゆきも着物の上に綿入れを羽織っていたし、差し出された服も今風に言えばキルティングのような生地で暖かそうだ。
そう言えば、今は冬だと今更気付いた。
ゲツレイと、ジュンケンもだが、元々大して物のない状態で育っている。
それしかないのだから贅沢は言えず、2人共相対的に寒さに強い。
スイリョウが冬服を仕立て、
「スイリョウさんに習って作ってみました」と、ゆきが外套(コート)を作ってくれた。
「あと、これ、少年に届けて。
ったく、ペラペラの服で駆け出して。」
いつの間にか、パーソナルカラーみたいになってしまった。
赤い上衣、緑のズボン。
同じく緑の外套のゲツレイは、ジュンケン用の灰色の外套を預かった。
冬の町に駆けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます