第62話 入鉄砲に出女
『入鉄砲に出女』と言う言葉がある。
江戸期、庶民を含め旅を楽しむことも出来るようになったが、要所要所に関所がある。通行手形を確認し、不都合を起こさないための方策である。
特に幕府が神経をとがらせたのが、『江戸に武器が入ること』すなわち『入鉄砲』と、『江戸から女性が出ていくこと』すなわち『出女』だ。
日本は小国(藩)の集まりであり、適切に管理するため、幕府は大名の妻や子を江戸屋敷に住まわせた。
すなわち人質である。
人質を取った上で、大名に参勤交代を命じ、金子を使わせ国力を削いだ。
すなわち、江戸から女性が旅立つことは、人質の逃亡の可能性があり、厳重に管理されていたのだ。
「それも難しいんじゃない?」
知っていたジュンケンの問いに、
「大丈夫‼」と、請け合う宗近。
「超法規的措置を使います‼」
「なるほど、海運を使うのか。」
当時人口の多かった江戸の街に全国から物資を運び込むため、海運業が発達した。
特に『天下の台所』である大坂と江戸の間には『廻船』と呼ばれる定期便が就航しており、そこに紛れ込んでしまうという提案だった。
船乗りは荒い。
しかも地に足がついていない状況は危険でもあるのだが、メンバーにジュンケンとゲツレイがいる以上不安はない。
殺したがらないジュンケンも叩きのめすくらいお手の物だし、ゲツレイはむしろ殺さないようにしてくれている。
宗近はお忍びで身分を明かしていないから仕方がないが、数人が少年少女にノックアウトされ、今は誰も手を出そうとはしてこない。
今回の京都旅行、メンバーは宗近と中野、スイリョウ、ジュンケン、ゲツレイだ。
仕事があるから大使とスウトウ、ゆきは留守番。
「気を付けて行って来いよ」と言ったスウトウに、変な所だけマセているジュンケンが、
「そっちこそ、子供作るなよ」と言い捨て、青年を真っ赤にさせたのは数日前だ。
スウトウは、魔法使いを卒業したらしい。
今回の京都旅行は、見るべきところが多かった。
さすがに入ることは出来ないものの、
「あちらが御所です。天皇様が住まう場所です」と言われ、外から眺めた。
船が入った大坂は、さすが商人の街であり江戸とは違った趣で活気がある。
京都では神社仏閣を見て回り、江戸とは違う雰囲気を楽しめた。
ただ京の街を歩いていた時、
「あの連中外国人ですかね?奇妙な服装ですが。」
「殺っちゃいましょうか、副長」と、人を切りたい、強者でありたい衝動に口元を歪め薄ら笑いを浮かべる下っ端隊士に、
「いい加減にしておけ。俺達は無法者ではないぞ」と吐き捨てたのが、土方寿三(ヒジカタトシゾウ)。
「……」
その様子を黙ったまま微笑んで見守っていたのが、沖田総士(オキタソウジ)だ。
ほんの一瞬だけ、彼らは邂逅する。
京の治安維持にあたっていた新選組が、幕臣となり江戸に本拠地を移す、数日前の話だった。
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