第51話 子供のお小遣い帳

 翌日。

 通訳としての仕事はないジュンケンと、最初からこれと言って仕事がないゲツレイは、連れ立って街に出てみることにした。

 もちろんお金を使ってみるためだ。

 「どのくらい持っていけばいい?」

 「魚が1本で買えたからな……これ1本持って行ってみようか。」

 2人は50文(2500円)ずつ持って出かけてみる。

 年少組が出かけた後、

 「父さん、これ。」

 「はは、教えないといけないな。」

 2人共自室に7朱200文(97500円)、見事に放り出していった。

 危機意識皆無の姿に、大使親子が苦笑いした。


 街に出て……

 恒例のすりを体捌きでかわしつつ、『欲しいもの』を探してみる2人だったが……

 「あっ‼饅頭売ってる‼」

 「……」

 「貝だ‼」

 「……」

 「でっかい魚だ‼」

 「……」

 基本食べ物しか興味がないジュンケン。

 街には現代と違い、雑貨屋やおしゃれな洋服屋などは、無い。

 娯楽といえば読み物や版画(浮世絵)などだが、清国人の2人がそこに飛びつくのはハードルが高かった。

 演劇も、まあ見ない。

 どうしよう、欲しいものがない。

 困り顔のゲツレイだが、

 「なあ、ゲツレイ。食ってかない?」と少年に誘われ、更に困り果てる。

 ジュンケンが誘ったのは蕎麦屋だった。

 時間的には昼と朝の間、おやつの時間でしかない。

 「ちょっと、君‼朝ごはん、食べたじゃない‼」

 「いや、もう全然食えるから。行こうぜ。」

 「いや、私は無理だ。」

 強引に手を引かれた。

 掛け蕎麦1杯、16文。

 思ったよりお金が減らない。

 と言うより、蕎麦も減らない。

 普通にお腹がすいていない。

 「うめぇっ‼」

 対するジュンケンはと言えば、朝食もお替りまでしていたのに、余裕で食べられるらしい。

 14歳、130センチ程度。

 小さな小さな少年だが、いくらでも食べられることから、

 『もしかしてジュンケン、まだまだ背が伸びるかもしれないな』と、ゲツレイは思う。

 自分は絶対無理だろうけど。

 「なあ、もう食わないの?」

 勢い込んで聞くから、

 「ん」と、器を押し渡す。

 「やったぁ‼」と、ゲツレイの残り物まで食らう姿に呆れていると、

 「こら、小僧」と、蕎麦屋の店主が江戸っ子らしい世話焼きで、ジュンケンの頭を小突いてくれた。

 「女の子を付き合わせて、残り物をとるとは何事だ。」

 店主の提案で、次に来たときはジュンケンが大盛で20文、ゲツレイが小盛で10文にしてくれるらしい。

 ありがたいが……

 お金がまた減らなくなる。

 痛し痒しのゲツレイだった。

 

 結局2人が買って帰ったのは財布だった。

 蕎麦屋で金を払い、1回紐を解いた小銭が持ちにくいことを知る。

 布をくるくると巻いた感じの財布、18文なり。

 あと、1つ2文だった蒸かした饅頭を人数分。

 ジュンケンと半分ずつ出して1人5文。

 11文余った。

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