第50話 約10万円のお小遣いです

 「で、君達の給金は月額2両だけれど、こちらで4分の3は預からせて貰うよ。」

 大使の言葉に、『うんうん』と頷くジュンケンと、すでに『4分の3』という言葉に引っかかっているゲツレイ。

 学問らしき学問をしていない以上、当然と言えば当然だった。

 だから大使は、実際のお金を使って説明をする。

 「いいかい?2両とは……貸してくれ、スイリョウ。」

 「はい。」

 「これ2枚だ。この1枚がさっきスウトウに渡した四角い金貨、4枚に相当する。

 なら、君達の給料は?」

 必死で指を折るゲツレイと、とっくに答えは出ていたが、邪魔しないように珍しく気を使ったジュンケン。

 「8枚?」

 「そうだ。うち6枚はこっちで預かっておくよ。国に帰ってから渡すからね。」

 それが正解なのか、理不尽なのかもわからない。

 ただ必死でついていくゲツレイに、話はさらに難しくなる。

 「君達の月給は2分だけど、このお金も使い難い大きなお金だ。だから、これを。」

 年少組2人の前に置かれたのは、四角い銀貨、『朱』だった。

 「1分は4朱。8朱が君達の給料だよ」と言われ、貨幣価値がわからない、大体今までの人生であまりお金を使ったこともない2人は、どう反応していいかすらわからなかった。

 これまで数回、スイリョウに頼まれ買い出しに行った。

 その時使った、紐でまとめられた硬貨すらまだ出てこない。

 「父さん」と、スイリョウに言われ、

 「この1枚がこれと同じだ」と、2人がこの国の貨幣だと思っていた『文』が250枚出てきた。

 とりあえず、50枚ずつになっているらしい束が5つ。

 呆気にとられる。

 小さい声でゲツレイが訊いた。

 「ジュンケン、前に大きな魚、買ってきたよね?」

 「あれ、細かいの1本で買えたぞ。」

 「え?」

 ゆっくりゆっくり、結構な大金をもらったと気が付いた2人だった。

 「で、君達には課題がある」と、大使が笑う。

 「課題?」

 「そうだ。君達2人は圧倒的に社会経験が少ない。だから必ずお金を使いなさい。」

 本人はばれていないと思っているが、上海裏路地非合法育ちのゲツレイと、僧堂で集団生活、自分のお金を持たなかったジュンケンは、つまりどこかのお嬢様、お坊ちゃんなみに世間を知らない。

 「自分の欲しいものを探し、お金を払い、お釣りを貰う。そう言う世間一般の当り前を勉強しておいで。出来れば使い切って欲しいけど、結構な金額だしそこは拘らない。とにかく、街に出てみるんだ。」

 子供にお使いを頼むように、100円玉を握らせ駄菓子屋に走らせるように、優しい優しい大使の課題だ。

 ただ、まったく無垢な状態の2人からしてみれば……

 えらい宿題を出された格好であった。

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