第49話 1両・4分・16朱・4000文

 姉(仮)からの溺愛付き絶対安静?1週間が過ぎ、やっとゲツレイが復帰したタイミングを見計らって、大使が一同を部屋に集めた。

 「日本に来て3週間ほど、準備期間を入れれば1か月が過ぎたことだし、今後は月末を皆の給料日に充てようと思う。」

 突然の発言に、当たり前の顔で頷けるのはスイリョウのみ。

 衣食住が保証されているし、この場にいるだけで幸せな年少組はキョトンとするだけだし、前金と成功報酬に分けて給料をもらう話だった、スウトウだって意味が分からない。

 いや、『衣』まで保証されているのはゲツレイのみか?

 今回の動けなかった1週間で、スイリョウに思う存分遊ばれた。普段着にはきれいすぎる服が、両手の指の数ほど増えている。

 今彼女が着ているのもその1つで、瞳の色に合わせた緑地に髪の毛の赤で模様が入っている。

 襟や合わせは濃紺で、恒例のリバーシブル仕様だが、裏で着る勇気はゲツレイにはない。

 「あの、大使」と、スウトウが質問する。

 「なんだい?」

 「僕はその……家に前金を入れてもらっておりますし、あとは成功報酬という話でしたが?」

 「ああ、そのことか。」

 大使は1つ頷いて、悪戯っぽくにんまり笑う。

 「?」

 「君は秘書官に格上げされたじゃないか。」

 大使が懐から取り出したのは、いわゆる小判、それが3枚で3両だ。

 「これが今の君の月給だ。」

 ちなみに、1両は20万円と言われている。

 月給60万。かなりの高給取りだが、それだけ他国での外交官業務が大変だという意味である。

 「君の家にはこのうちの1枚を24か月分、最長赴任期間が2年なので、置いてきてある。成功報酬も同じ、この国の通貨で24両。ここまでが通訳の契約だ。」

 「は、はあ……」

 「ならばこれから秘書官としての差額、毎月1両を君に払うこととなる。」

 そう説明した後、ただ庶民の間ではこの『両』という通貨は、単位が大きすぎて流通していないと話した。

 次に出てきたのが、小ぶりな四角い金貨(分)。

 これが4枚。

 「小判1枚は4分と同じだ。これを君に」と、大使はスウトウに1分金、4枚を手渡した。

 説明に使った小判3枚は、そのまま『事務官』である娘に渡す。

 「流通して無いって言いながら、そのままあたしに渡すかね。まあ、次からあたしもそっちにしてね。」

 文句を言いながらスイリョウも受け取った。

 「で、通訳のジュンケンと、事務官補佐のゲツレイは、月給2両だ。」

 「ふーん。」

 金の価値も分かりかねる、自分のことなのに興味がなさそうなジュンケン。

 慌てたのはゲツレイだ。

 「えっ‼ちょっと‼」

 『事務官補佐』なんて聞いていない。

 無学な上海路地裏非合法育ちで、事務なんて出来るはずもない。

 「私に事務は無理だ。」

 「いいんだよ」と、大使に頭を撫でられた。

 「自分の体を傷付けてまで、私達を守ってくれた。その恩に報いさせておくれ」と言われ、今までなら受け入れない少女が、戸惑いながら、それでもコクンと頷いた。

 ゲツレイがまた変わってきている。

 一方、

 『これ、どのくらい価値なんだ?』と、戸惑うスウトウ。

 いや、大金であることはわかる。

 大使の説明からすれば、贅沢さえしなければ清の家族が1か月暮らせるくらいの金額なのだ。

 ???

 「その金貨1枚で、この前の店なら1泊して、少しのお釣りがくるよ。」

 大使が青年にだけ聴こえる声で言った。

 瞬間白い、雪のような女性が頭をよぎって。

 心臓がギュッと締め付けられる。






 注)1両=20万円は通説です。幕末間際だと質の悪い通貨が乱発され、ひどい時は1両=3、

4千円になったらしいのですが、本作では20万円でいきます。

     1両=20万円

     1分=5万円

     1朱=1万2500円

     1文=50円      です。

 本来なら1分の2倍の『2分金』とか、銀貨での1分、『1分銀』とか、実際はごちゃごちゃしているようですが、本作では1分は金、1朱は銀で統一します。

 1枚で100文と同じ価値になる100文銭とかもあるようですが……

 出さない予定です。





 

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