第48話 チャラ系次期藩主と酔っぱらいお嬢様

 気になったら、すぐに確かめに行く。

 こう言うフットワークの軽さを、後の世では『チャラい』と言う。

 チャラい宗近が、清国大使館を訪問したのはあの吉原から5日目だった。

 暇なようで、一応は平良藩江戸屋敷の主である宗近は、国元から使いが来たり、幕府から使いが来たりで、ここまで時間がとれなかったのだ。

 「こんにちは」と、玄関を開けると、訪問の気配に気付いていたらしい、仁王立ちのスイリョウとジュンケンがいた。

 なにやら2人で清の言葉で話し、急に向き直った彼女の第一声が、

 「何しに来た⁉️」だった。

 わざわざ日本語を使ってまで。

 うん、大使。娘さんは全然弱くない。

 『死ぬ』つもりなんか、絶対無いよ。

 「嫌だなぁ、スイリョウさん。一応私は清国一行の案内人ですよ。」

 「知らないよ。」

 「ほら、借りは返したし。」

 「なら、あんたは、」

 「貸し借りがなければ、考えなしで行動する、いけすかない野郎だ」と、切り捨てる。

 うん、かなりキツイ……

 大使が言う、『おっとりした優しい娘』からは天と地ほども離れていた。

 さて、どう入り込もうか考える耳に、キイキイと階段が軋む、小さく軽い音がする。

 スイリョウが、ハッとして顔を向けた。

 階段から忍び足で下りてきたのは、夜着のままのゲツレイ。

 「あー‼️動いちゃ駄目じゃない、ゲツレイ‼️」

 大声をあげるスイリョウに、少女はしどろもどろだ。

 「いや、でももう治ったから。痛いところ無いし。」

 「駄目だよ‼️1週間は安静‼️」

 「お腹すいたし、喉乾いたし。」

 「今持ってくから‼️上で待ってて‼️」

 押し問答の後、少女はスゴスゴと戻って行った。

 スイリョウは台所に駆け込むと、10分程で美味しそうなたまご粥とお茶を、盆にのせて戻ってくる。

 呆然と成り行きを見守っていた宗近に、

 「じゃあ」と声をかけ、2階に上がっていくのだった。

 取り残された宗近に、

 「はは、姉さん、面倒見いいから」と、ジュンケンが笑う。

 確かに、想像以上にマメで優しい。

 意外と世話焼きな彼女だった。

 やはり、大使が不安がるような、『死』を望む絶望は見えない。

 おっとりは、していない。

 でも、真っ直ぐ頑張る、年少者を必死で守ろうとする筋のとおった強さを感じた。

 不思議な人だ。

 スイリョウは、宗近が初めて会うタイプの人間だった。



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