第46話 雪の降る里の思い出
なんだか変わった方でした。
さんざん里見八犬伝で盛り上がった後、スウトウは電池切れで眠ってしまった。
勿論?やるべきこともせず。
まあ、彼も楽しそうだったし、自分も楽しかったから、まあいいか。
グッスリ眠りこける青年を見ながら、ゆきは思う。
ちなみに、『雪乃』はこの場だけの名前で、本名は『ゆき』。東北の寒村の子で、苗字はない。
銀髪をおろしたゆきは日本人離れして、それでいて風景に馴染む、妖精のようだ。
ゆきは日本海に面した村に生まれた。両親は間違いなく、黒髪黒目の日本人。
けれど、この村には黒船来航以前から、地理的要因なのだろう、ロシアからの難民が訪れていた。
帰りたいけど帰れない。
言葉は通じない。
鬼だなんだと、恐れられる。
時に、鍬や鎌で攻撃される。
彼らは山深く身を隠し、やがて死んでいく存在だった。
しかし、いつの時代か、記憶にも言い伝えにも残らぬ範囲で、ゆきの家系に彼らの血が混入した。
ゆきは完全な先祖返りである。
ゆきは7人兄弟の4番目、兄、姉、姉、自分、弟、妹、弟だ。
この時代家督は長男だけのものであり、ひとたび飢饉が訪れれば女の子は売り物になる、そういう時代だ。
ただ奇妙なことに、十分『女』になれる姉2人より早く、11歳の時ゆきは売られた。
先祖返りの白髪(銀髪だが里ではこう言われた)の娘など、何より価値がなかったのであろう。
全てはゆきのせいではなく、好きでそんな見た目になったわけもないし、恨んでも仕方がない話だったが、彼女は一向に恨まなかった。
最初から違い過ぎる見た目はある種の諦念を抱かせ、またそんな育ちであるにも関わらず、ゆきは心根のきれいな子だった。
程度の悪い娼館に買われればその運命は悲惨だったが、銀髪銀目のマイナスポイントを上回るくらい、彼女は美しく優しかった。
結果藩主達が贔屓にするような高級娼館に買われ、下働きを経て14歳から体を売っている。
それこそトップの遊女にでもなれれば体を売る必要すらない、芸事で身を立てることさえできるのだが、見かけが奇異すぎてそこまでは無理だった。
高級店ゆえ日に何度も行為に及ぶ必要もなく、週に2、3度で十分なのだが……
『このままだと年季が明けるのに、あと10年くらいかかるかなぁ』と、暢気に構えるゆきは今19歳だ。
さりとてそのことに不満はなく、村の暮らしでも見た目が変な3女などこき使われるのみで、『今』にそこまで不満はない。
体を売って借金を返していることそのものを、哀れに思う人もいるかもしれない。
けれど本気で、ゆきにその自覚はない。
過ぎていく日々が……
ごく稀に、乱暴な客に当たる。
それは決していい気はしない。
それでも、
『何か面白くないことがあるのかな?』と考え方を変えれるくらい、彼女は白い人間である。
性根の優しい人間である。
今日も隣に眠り込む男性を見て、彼のお陰で『里見八犬伝』が4分の3くらいまで進んだと、喜ぶのだ。
女性の自分から見ても……
細く頼りない青年だった。
学問好きらしく、すぐ本の世界に夢中になった。
確か、隣の国の人と言っていた。
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