第41話 少年の夢と、無くした夢と

 「うまい‼やっぱ、姉ちゃんのメシ、最高‼」

 汚れた足を洗い落ち着いたのか、ガツガツとどんぶり飯を書き込む姿にあきれ顔のスイリョウ。

 メニューは少年自身が買い求め、楽しみにしていた白身魚のあんかけで、酢を使った酸っぱめのあん(野菜入り)が、揚げた魚にかかっている。

 この地で買って気に入っている大根の漬物や、アサリの味噌味のスープもついていて、ご飯が進む。

 「まったく……」

 ため息交じりでつぶやくものの、あまりに真っすぐ褒めてくれるから悪い気はしない、苦笑いとなった。

 14って言ってたな、ジュンケン。

 子供だ。

 本当にまだまだ子供な14歳。

 『子供をからかう悪い大人め』と思うものの、スイリョウ自身もいい大人、逆にいじりたい気持ちも痛いほどわかる。

 大体の状況は聞いたから、

 「でもさ。男に処女信仰はあっても、女に童貞崇拝は無いよ。ありがたくもなんともないし」と、水を向けた。

 会話から、少年が男と女の営みを知っていると分かっていた。

 「え?そうなの?」

 「そらそうだよ。思いやりが無くガツガツしてるほうがよっぽど辛いし。病気とかもってなければ、ある程度経験豊富な人のほうが楽。」

 いやいや、ぶっちゃけ過ぎでしょうな発言は、出戻りスイリョウの本音でもある。

 あの3年間は思い出したくもない。

 「で、でもさぁ‼」と、ジュンケン。

 「なに?」

 「そりゃ俺だって、いつかそういうこともしたいけどさぁ‼でも、その気もなくて連れていかれて、さあ、どうぞは違うだろ‼」

 「?『買う』のがダメ?」

 「違うよ‼えっと……」

 頭をガリガリ掻きながら言葉を探す。

 「俺がそうしたくて金貯めて、で、買うならありだと思う‼でも、想定できないところで奢られても、『ラッキー‼』とは思えないし、乗っかっちゃったら終わりと言うか……」

 うまく言えない中スイリョウに伝わるのは、14歳、まだ夢も希望もあるんだなと言うことだけだ。

 出戻りの自分も、からかっている大人軍団も、昔はそういうところにいた。

 大人になると、『愛』や『恋』にも『実務』や『実益』が絡んでくる。

 悲しいが事実で、

 「わかったよ、少年」と、まぶしいものを見るように目を細めたスイリョウが、ジュンケンの短髪頭を撫ぜた。

 瞬間驚いた顔の少年が、

 「何だよぉ……子ども扱いしやがって……」と唇を尖らせるから、余計かわいい。

 無言でグリグリ撫ぜ続けていると、

 「そう言えば、ゲツレイ大丈夫かなぁ?」と、急に2階を見上げて見せた。

 「ああ、体調悪いって、夕飯も食べずに寝てるよ、あの子。」

 「ダルそうだった。」

 「うん……」

 2人、無言のまま考え込んで、

 「よし、様子見てくる」と言ったジュンケンを、スイリョウが止めた。

 「待て待て、少年。」

 「え?」

 「今話してたでしょ?少年は男で、ゲツレイは女の子。あたしが見てくるから。」

 14歳。

 いろいろ言っても14歳で、性別に対する意識がブレブレだ。

 ゲツレイが女性であると、ほとんど気付いていないジュンケンだった(あんなキレイな娘なのに)。

 少年を階下に待たせ、スイリョウが少女の元へと向かう。

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