第40話 寝てみる夢と、少年の夢

 さっきから同じような夢ばかり見ている。

 クラクラする頭でゲツレイは思う。

 体調が悪いと、自室で早々に横になった。布団を被っているのに、寒い。

 熱が上がっているのかもしれない。

 「ああ、そうか。」

 これがつまり、

 「うなされているのか、私は。」

 7歳の日のチンピラ男から父に脇腹を裂かれるまで、その間にはマフィア同士の争いに巻き込まれ拉致されかかったり、数え切れぬほどの危機があった。

 夢でそれを繰り返す。

 実際には愛用の小刀を振るい、そのほとんどを容赦なく刺し殺し、生き残ったゲツレイだったが、夢の中では何故か小刀がない。

 懐にも、物入れにもない。

 だからって黙ってやられるわけにはいかないと、決死の覚悟で戦いを挑む。

 目が覚める。

 その繰り返しだ。

 寒い、寒い、寒い。

 体に布団を巻き付けても寒い。

 悲しいわけでもないのに、目が潤んだ状態になり視界が悪い。

 思わず打った寝返りで、

 「うぅ……」

 脇腹が痛い、うめき声が漏れる。

 上海で父親に裂かれた右脇腹は、出血は完全に治まってはいるものの痛む。

 傷の周囲が赤く腫れ、熱を持ってしまっていた。

 いわゆる『炎症』を起こしていたのだ。

 そこからの熱が全身に伝わり、今少女を苦しめていた。

 痛い、痛い、寒い……

 頭がうまく回らない。

 ふうふうと荒い呼吸をするゲツレイの耳に響くのは、

 「おーい‼姉ちゃん‼開けてくれぇ‼俺だよぉ‼」と叫ぶ子供じみた声と、ドンドンと玄関をたたく音。

 『ジュンケン?』と思ったが、体は動かせなかった。


 「何をしているのかな、少年?」

 すでに酒が入っている、大騒ぎされて玄関まで来たスイリョウは、面倒そうに顔をしかめた。

 父親から、今晩は戻らない旨訊いていた。

 33の出戻り娘に、行き先が想像できないはずはない。

 アホかと思いつつ鍵をかけて、1人酒と洒落込んでいたのだ。

 機嫌もそれは、悪くなる⤵

 だが、

 「はあ、はあ。姉ちゃん……」と荒い息で、困り顔のジュンケンに事態を察した。

 大体が『天才の体力馬鹿』な少年が、息を切らしているだけでもう珍しいのだ。

 よく見えれば裸足だ。

 とるものもとりあえず脱走したとわかるし、全く、子供相手に何やってんだか、うちの親父と、馬鹿案内人は。

 「ちょっと待ってて。」

 スイリョウは台所に行って、水場で手ぬぐいを濡らした。

 「ほら。これで足を拭いて、それからお風呂場で洗っておいで。ご飯は?」

 「あ、食ったけど……走ったら……」

 手ぬぐいを受け取ったジュンケンが、腹に手をやる。

 グーっと音が鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る