第37話 男性陣の企み

 何度も繰り返すが、ジュンケンは人の容姿に興味がない。

 だから例えば、宗近が紅を引いて現れても華麗にスルーする(と言うか気付かない)自信はあるが、

 「え?何その恰好?」

 さすがにこれには気が付いた。

 全体的な色味や印象の違いは判る。

 謁見の翌日、昼過ぎに来た宗近はいわゆる遊び人スタイル、着流し姿だったのである。

 見ると後ろで待機する、中野まで着流しだ。

 なんだ、これ?

 「コウ君、大使は?」

 「ああ、奥の部屋でスウトウと話しているよ。」

 「仕事か。君は?」

 「俺は通訳が仕事だし、事務には関わっていないよ。さっき、姉ちゃんに頼まれて晩飯の買い物に行ってきた。」

 冷蔵技術が発達していない時代、生ものは特に毎日買いに出なければならない。

 今日は大きなスズキが手に入った。

 「アン掛けにすれば旨そうだ」と、スイリョウも笑ってくれたのだ。

 いつか買い物はジュンケンとゲツレイの仕事となった。

 2人とも僧堂育ちと裏路地育ちで、正式な食事のメニューを知らない。

 まともなものが買えるか不安で訴えてはみたものの、『それも勉強』とばかり押し付けられた。

 そう言えば、体調が悪いとかで今日はゲツレイは部屋から出ない。

 大丈夫なのだろうか?

 考えていると、

 「じゃ、ちょっと大使を誘いに行こう」と、手を引かれた。

 「は?何を?」

 「ま、いいからいいから。」

 そのまま宗近に引きずられるように、1階の奥の部屋……執務室と呼んでいる場所に向かった。

 台所から見ていたスイリョウが、

 「また、何をやるつもりやら」と、独り言ちる。

 思い切り引っ叩いて、多少はスッキリしたのかもしれない。

 苦笑いのような、以前よりは警戒を解いた表情で。


 悪だくみの要所要所が聞こえなくて。

 ……

 落ち着かない気分になる、スウトウとジュンケンだった。

 「で、……行こうよ思うんですよ、今夜。」

 「まあいいが……私は無理……」

 「いやいや、まだまだお若いのに……」

 「一応妻も子もいる身だよ。」

 「そうですか。……まあ、若い子ならいますし。」

 「だなぁ。」

 2人同時に、スウトウとジュンケンを振り返る。

 嫌な予感しかしない。

 「今晩は外食にしよう。私と、平良殿、中野さん、あとは君達2人の、男性のみで出かける」と、大使が言う。

 そこはさすがに28歳。

 『これもしかして?』と薄っすら分かり、

 『いやでもまさか』と胸の中で否定するスウトウと、

 「えーっ‼今晩白身魚のアン掛けなのに‼」と、これぞ育ちざかりな少年の発言をするジュンケン。

 「大丈夫だ。取っておいてもらうから。」

 大使が苦笑いした。

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