第33話 初めてのお使い(江戸編)
翌日から、オウコウウン初代駐日大使とその秘書官であるカクスウトウは忙しくなった。
清国から外交官一行が訪れることは、国同士の話し合いで決まっている。
しかし、分かっているからと言ってそのままと言うわけにもいかず、取り急ぎ幕府に挨拶に出向く必要があった。
案内役の平良四郎宗近も加え、日程を調整中だ。
ちなみに言葉は、本来通訳だったスウトウが達者な上、宗近の家臣である中野もいける。
そういう意味でジュンケンに出番はなく、それよりもとスイリョウから重大?任務を言いつかる。
「あのアホ、真面目に米と調味料しかないのよ、ここ。」
藩主の跡継ぎ、アホ呼ばわりだ。
そんな中米を炊き、わずかにあった野菜で副菜を作り、ほぼ初めて使う味噌でスープもどきの朝食を作った、スイリョウは確かに料理上手だ。
「で、ジュンケンとゲツレイに重大任務。これで主菜になるもん買ってきて」と、真ん中の穴にひもを通した、お金の束を渡された。
「ここを出て左に行くと、お店が並んだ通りがあるらしいから。」
言われた通りに道を行くと、随分と賑わった場所に来た。
いや、江戸に着いてからは老若男女問わず人が溢れ、
『ここがこの国の中心なんだ』と、言わずもがなで理解させられたものだが……
スイリョウに言われた場所は所謂目抜き通り。
商人、町人、侍など、いろいろな人でごったがえしている。
ジュンケンとゲツレイは中華服で、ゲツレイの髪や瞳の色もあり、誰もが外国人だと分かっている。
遠巻きに……
ならともかく、結構遠慮なく見られているなと、ゲツレイは思った。
ちなみにジュンケンは、他人の好奇の眼など気にしない。
これだけ注目を集めると、面倒な奴らの視線も拾う。
さりげなくぶつかろうとする男を、自然な体さばきでスッと避ける。
「3人目。」
スリだった。
「ああ、そっちもか。俺は4人目だ。」
「うん。4人目。……5人目。」
大体が拳法の達人と、生存術?の達人相手に無謀な挑戦だ。
数が2桁に乗る寸前、それでもおかしいと気付けたのだろう、スリの猛攻は止まった。
あとはゆっくり買い物だが……
「あれ、なんだと思う?ゲツレイ。」
「さあ?」
「あれは?」
「さあ?」
まともに食べてこれなかった2人だから、食材と料理が結び付かず、選ぼうにも選べない。
完全な人選ミスだ。
それでもやがて米屋に着き、そこで脱穀したりしていたせいか、米粉があることに気がついた。
「小麦粉じゃないけど、あれ、できると思わないか?」
「ああ。」
2人は買って帰ったのは、米粉と、ちょうどつぶしたカシワがあったため鶏肉、葉物野菜だ。
戻ってスイリョウに手渡すと、
「ああ、なるほど。出来るかもね」と、笑ってくれた。
その夜は焼き餃子になった。
「最後の中華だって、船のみんなに言われたけど、もう食えた‼」と、少年が笑った。
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