第28話 江戸目前の事件

 かごと呼ばれる乗り物を、ジュンケンは輿のようだと理解した。

 身分の高い人物が歩かないでも良いように、箱状の空間に入れられ担がれる。

 その日本版だ。

 5台のかごにばらばらに乗った。

 「えっさ‼ほいさ‼」と声がする。

 かごを担ぐ人足達の掛け声で、自らの足を使わないまま江戸に近付いているのは違和感以外無いのだが……

 ただの一般人である自分やゲツレイ、地方の役人の子らしいスウトウはともかく、大使親子には徒歩での移動はきついかもしれない。

 ならここは、合わすべきだと判断する。

 ジュンケンは、大使親子どころか運動不足の塊であるスウトウが、1番移動に耐えられないとは思わなかった。

 かごは外を透かして見える、御簾のような部分がある。

 最初はそこから覗き見ていた。

 『暇だから』だが、見えてくるのは田畑の広がる田舎の風景、それだけだ。

 早々に飽きる。

 やることもなくウトウトしていた、しかし事件が勃発する。


 「攘夷‼攘夷‼」の声が聞こえた。

 調子よく進んでいた、かごが怯えたように止まる。

 続く、『キーン‼』と言う金属を打ち合わせるような音。

 それが絶え間なく聞こえる。

 「おい‼何があった?」

 日本語で訊くジュンケンに、

 「ああぁぁぁ。」

 「お侍様が……」と、人足達は怯えるのみだ。

 昨日宗近が話していた、攘夷派が襲ってきたのだと理解した。

 少年は腰の刀(彼は今日も侍のコスプレだった)を握って飛び出していく。


 現れた攘夷派は9人だった。

 一瞬で情勢を把握した宗近は、内心『面倒な』と舌打ちする。

 宗近が金で雇った護衛は5人。

 いずれも手練れだったが、5対9で数の上で不利な上、誰かを守りながらの戦いだ。

 動きにくいことこの上ない。

 攘夷派の侍達も中の上くらいの腕前に見える。

 ならばこの集団戦は、数が多い方に流れるだろう。

 キン‼カン‼と、鍔迫り合いの音がする。

 1対1になっていた、味方が1人を袈裟懸けに切る。

 「ぐわぁっ‼」

 断末魔が響き相手が倒れたと同時に、視界の外から切りかかってきた敵に成すすべなく切り殺された。

 単に腕前の問題ではなく、刀での戦闘は『なんとかに刃物』の言葉通り、殺傷能力の高い獲物を振り回しているだけで危険なのだ。

 免許皆伝の宗近だって無双できるとは限らない。

 「う……」

 「無念……」

 気付けば護衛は倒れ伏し、立っているのは攘夷派のみ。

 敵の血を浴び力に酔った4人の敵が残っている。

 さて、どうするべきか……

 宗近は馬から降り、自らが戦う所存だった。

 中野も下馬し、刀に手をかけようとし……

 瞬間起こった想定外に目を見開く。

 清国一行のかごから飛び出してきたのは侍装束の少年と、赤髪、緑目の少女だった。


 

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