第22話 王親子のミッション

 朝の気配に目が覚めたが、

 「ん……」

 今1つ頭がはっきりしないゲツレイだった。

 絶対に危険のない場所で、心行くまで眠ったのに?

 とは言え、眠りについたのは遅かった。

 スイリョウの誘いを断り、誰もいない状態になってから湯あみした。

 脇腹の傷をバレたくなかった。

 それでも、襲われる可能性の少ない1人部屋で、誰に遠慮することなく眠りにつけた。

 ゲツレイのこれまでは眠る時すら安心できず、野生動物のような睡眠だった。

 短めだし、何かあればすぐ目覚める浅い眠り。

 少女は絶対的に寝足りないのだ。

 「ご飯だよ、ゲツレイ」と、スイリョウに呼ばれた。

 新しい服で朝食をとる。

 食堂には一同が揃っていた。

 朝食はご飯と漬物、そこに小さめの魚がついていた。

 「うまい‼」は、ジュンケン。

 「少年、君は僧堂育ちなのに生臭もいいのかい?」

 「うん‼俺は出家してないから‼」

 「そうか。」

 食べ終わり、お腹が膨れたらまた眠くなる。

 ウトウトと舟をこぎだした少女に、

 「ゲツレイ。部屋で寝てきな」と、スイリョウが促す。

 「うん」と素直に従って、彼女は自室に戻って行った。

 起きたばっかりなのにと、不思議そうな顔はスウトウとジュンケン。

 上海マフィア、孫一家の一人娘、ゲツレイがどんな生活だったか?

 おそらく心休まる瞬間など無かったろうと想像出来て……

 大使とスイリョウは温かく見守る。

 昨日と違い、今朝は一行に張り付いていた宗近が、

 「彼女は具合でも悪いのですか?」と、訊く。

 好奇心をそそられたのだろう。

 「うん、まあね。」

 気のない返事で躱したスイリョウは、

 「で、えーっと、平良さんだっけ?あなたはあたしに付き合ってよ」と、真っ直ぐに目を見る。

 そばに控えた、中野が言葉を通訳した。

 「酒買いたい。」

 「は?」


 いきなり酒屋への案内を求められ、宗近は戸惑う。

 女性の酔っぱらいが今までいなかった訳ではないが、昨日からのべつ間もなく飲んでいる。

 大使の娘といったが、こんな女性は初めてだった。

 港の中の酒屋に行った。

 さほど遠くないが、歩く間ずっと観察されている気がする。

 好意的な視線ではない。

 なぜか怒られているようで、宗近は居心地が悪かった。

 「まだ何日かいるんでしょ、ここに?」

 「あ、はい。」

 「じゃ、これくらい飲んじゃうか。」

 彼女が買ったのは樽酒だ。

 洋酒がないのを残念がったが、試飲して『日本酒もよし』と言う判断になった。

 ついでに持ち歩き用の瓢箪型の水筒も買う。

 呆気にとられていると、

 「結構重いなぁ」と言いながら、自分で持ち上げようとする。

 さすがに放っておくことも出来ず、宿舎までは宗近が運んだ。

 戻ると、昨日の少年は出かけたのかその場にいない。

 「ああ、平良殿。少し聞きたいことがあるのだが」と、大使が手招きした。

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