第21話 姉(仮)と言う生き物

 自慢げな少年を思い出して……

「くそうっ‼何してくれるんじゃ、あの野郎は‼」

 あまり上流階級の娘らしからぬ呟きがもれるスイリョウ。

 夕食が終わり自室に分かれてからなので、問題ない。

 勿論洋酒をあおりながら。

 もう3分の2ほどしか残っていない。

 ちなみに日本側が用意してくれた夕食は、数多くのおかずがちょこちょこ配膳される、和食のコースだ。

 油を使う中華に対し、和食はさっぱりとしていたが素材の味が際立ち美味しかった。

 「うめえ‼」

 「おいしい……」

 ジュンケンとゲツレイの年少組もガツガツ食べていたし、

 「……」

 「うん、うまいな。」

 食自体に興味が薄いようなスウトウも、年齢からか昔より食べなくなったオウ大使も、箸が進んでいるようだった。

 勿論つまみとしても最高なので、スイリョウも満足している。

 話がそれた。

 今問題は、案内係だと言う平良とか言う男だった。

 彼は小さな藩の3男だと言った。

 武士としてはそこそこ偉い地位らしい。

 けれど……

 人当たりの良い笑顔の下に負の感情を感じる。

 こういうものは理屈じゃなく、証拠もいらない、直感だ。

 直感が大体当たる。

 あいつはあたし達を嫌っている。

 行き当たりばったり、勢いで日本に来た年少組と違い、スイリョウは調べられる限りは、父親が赴任する日本という国のことを調べている。

 身分制度もその1つ。

 士農工商と言われ、武士は身分制度の1番上の存在だが、その末端は悲惨なものだ。士官先がなければ内職でもするしかなく、商人よりも生活は下。借金まみれなこともある。

 肝心の『武』を披露する機会は太平の世(長く天下が落ち着いた、今は江戸幕府の末期)ゆえにほとんどなく、ジュンケンが憧れた正義の味方的役割は皆無だ。

 少年は地頭はいいのに脳筋だ。

 教えてもいいが、ゆっくり自ら見て学ばせて、この先のことを考えてもらおうと思っていた。

 少年は夢だけを見ている。

 夢が夢だと気付いてからが本番で、それには時間がかかるはずだが、不必要にあおられた。

 憧れの『武士』に形だけでも近付くことは、少年の気持ちをあげにあげる。

 そこから叩き落される未来を思うに、スイリョウは悔しくなるのだった。

 そして確実にそうなる。

 全部分かった上で、宗近がわざとそうしたのだと思うと、

 「くそうっ‼」

 苛立ちが止まらない。

 洋酒をあおる手も止まらない。

 「あ、やば……」

 気付いたら、もう底の方に微かに残るだけとなった。

 明日は酒を買いに出なければいけない……


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