第20話 コスプレ少年、爆誕

 「うおーっ‼いろんな服があるぅ‼」

 宿舎から5分ほどのところに商店があった。

 この時代日本は鎖国が解かれたばかり。

 黄金の国ジパングを目指し一斉に諸外国が流入してくるのを、横浜を初め特定の港町を開港することでコントロールしていた。

 そこに海外との行き来が生まれ、日本独自の商品が土産物としての価値を見出され、また諸外国から流入してくる商品も日本で価値を生んでいく。

 絹などが代表的だが、浮世絵、根付けなどの芸術作品もしかり。

 港には目端の利く商人が開いた、外国人向けの土産物屋があった。

 そこには日本風の洋服(羽織袴や着物など)もあるが、海外から入った洋服(シャツやズボンやスカート類)もある。

 勿論彼らの清国からの服もあった。

 このあたりか……

 その見かけに反して(なにせ絶世の美少女なのだ)、ゲツレイは着飾ることに全く興味がなかった。

 店主の、出来れば色鮮やかな着物でも来て欲しい熱い視線を気にも留めず、清からの服……しかもチャイナドレスではなく、ゆったりした上着とズボンの男性用に近付いていく。

 常に緊張を強いられる状況に生きた、ゲツレイにとって動き易さが至上なのだ。

 当たり障りのない、汚れが目立たない深緑と濃紺のセットを購入。

 サイズは少し大きめだが、自分自身が小さいのだから仕方がない。

 ああでも、傷を押さえるさらしは替えを買っておこう。

 「ジュンケン、借りた。」

 きっちりした性格というより、他人に甘えたことが無い少女の言葉に、

 「おう」と、少年も笑顔を返す。

 ジュンケンも、当たり障りのない清国の服を2セット選んだ。

 濃い目の色のゲツレイと、明るめの色(と言っても生成りだったり白なのだが)のジュンケン。

 これもやはり、これまでの生活の影響だ。

 僧堂育ち、不自由はなくとも贅沢を知らないジュンケンは、その反動か浮き立つような色を好む。

 店主に金を払っていると、そこにはいかにも『日本』と言った、羽織袴のセットと、女性用の着物のセットが無造作に……

 と見せかけて、目立つように置いてある。

 現代風に言えばディスプレイだ。

 その羽織袴の方に、ジュンケンは目を奪われる。

 あれって、武士の服装だよな?

 そう言えば、案内役だって言った平良なんとかも着てたな。

 そうか、あれが……

 「あれに興味があるのですか?」

 突然ヌッと現れた宗近に、身長差もあり驚く2人。

 「いつの間に?」

 「えっ‼ムネチカ?」

 驚いた拍子とは言えいきなりの呼び捨てに、中野は顔をしかめ、ゲツレイは頭を抱える。

 「あ……いや、ムネチカ、殿?」

 「ああ、いいよいいよ、普通に呼んでくれて。」

 彼は破顔一笑する。

 「君は……コウ君だったか?武士に憧れているのかい?」

 「ああ‼俺は武士になるためにこの国に来たんだ‼」

 「ほう、なら……」

 宗近は懐から何かを出した。

 店主の反応からそれが貨幣と分かったが、ジュンケン達が持たされてきた物とは違う、煌びやかな……そう、小判だ。

 「店主、これで一式見繕ってあげてよ。着方も教えてあげてくれ。あと、土産用の鈍らじゃない、本物の刀もあるんだろう?それも少年に。」

 「え、でも、お侍様……」

 「足りなきゃ、まだまだあるからさ。」

 宗近が懐からさらに数枚小判を見せて、店主は慌てて立ち上がる。

 店の奥へと駆けて行った。


 夕刻、上から下まで日本の侍風……羽織袴で帯刀までして戻った少年に、

 「……」

 スイリョウは頭を抱え、大使とスウトウも呆気にとられる。

 自慢げなジュンケンの後ろで、ゲツレイがため息をつく。

 そして、

 「彼が武士に憧れていると聞いて、微力ながらお手伝いをさせて頂きました」と、何故か共に戻って来た宗近に。

 そこにある好意以外の何かに、今1度頭を抱えるスイリョウだった。

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