第14話 亭主関白の成れの果て
オウコウウンは、ある意味平均的男性だったと言える。
現代の欧州社会のように、女性進出など夢のまた夢、
『女子供は俺の言うことを訊いておけばいい』の人だ。
彼は科挙に受かり文官をしていた。
妻は良家のお嬢様だったが、言われた仕事も妻の役目も普通にこなせ、不満はなかった。
ただ1人娘が背が高すぎたせいか、いつまでも嫁にいけない。
有能な官吏である自分の子がこれでは外聞が悪いと、無理やり縁談を決めたのがスイリョウ29歳の時だった。
相手は新進気鋭の商家で、
「お役人様と縁が持てるなら」と、喜んだ。
コウウンも年々売り上げが上がる商家との縁を喜び、当時はおとなしかった、スイリョウは諦めたように嫁に行った。
そしてその日から、妻が一切話さなくなる。
後で考えれば、彼女は夫を見限ったのだが、分からないから時に手を挙げてまで従わせようとして……
意味が分かったのは3年後、娘が返された時だった。
「子供ができないなら」と返されたが、驚くほどにやつれ果て、瞳はどこを映しているかわからない。
ただ黙り込む娘を見て駆け出してきた妻が、自分より頭1つ分以上大きなその体を抱き締めながら、
「‼」
やはり言葉にはせず、刺し殺すような目でコウウンを睨んだ。
以来妻はコウウンの給与さえ手を付けず、実家に無心しているらしい。
恐らくオウ家の現状を聞き及んでいたのだろう、妻の実家もそれに応え……
彼女は夫のための家事は放棄した。
コウウンの家庭は、1人と、母子の、家庭内別居状態となる。
「なんてことだ。」
その後、今更な事実が次々と出た。
商家は新進気鋭だけに非合法なことにも手を染める性悪な家庭で、娘を貰ったのも役人に恩が売れるから、それだけだ。
3年で2回流産している。
妻と言うより奴隷扱い。
安定する前にこき使われた結果である。
「くそうっ‼」
腹を立てた。
商家は潰した。
これまでの罪を全て白日の下にさらし、娘の元・義両親、元・旦那は刑務所に送る。
『もう1度娶ってやるから』と世迷言を言われたが、強制労働付きの刑務所だ、おそらく数年で死ぬだろう。
いい気味だ……
いや……
本当にどうしようもない、それで許されるなら今すぐにでも死んでしまいたいのは大使自身だ。
彼は妻も娘も、愛していないわけではない。
ただ、それを表現しなくていいと思ったし、妻も娘も、自分に従って当然と思った。
自分に間違いはないと、調べもせずにその判断を押し付けた。
平均的な『男』だった。
ただ、浅慮過ぎたのだ。
娘は半年ほど引きこもった後、浴びるように酒を飲み、フラフラ街を出歩くようになった。
外聞が悪い……なんて、言う資格がない。
しかし危なくもあるので口を出すと、
「別にあたしはあなたを恨んでなどいない」と言う。
「恨むなら、あなたの言うことを聞いた昔の自分だ。」
以来スイリョウは、父親の意見は後悔するだけだと一切訊かず、己の意見だけ押し付けるようになる。
自分がしてきたことをやり返されているだけで、コウウンも何も言えず……
駐日大使の仕事が回った父親に、
「付いていく」と娘が言った。
死に場所を探しに行くのかと思ったが……
コウウンに異論は挟めない。
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