第9話 酔っぱらいお嬢様、日本へ

 初代駐日大使、オウコウウン(王弘雲)の娘、オウスイリョウ(王翠涼)は、基本いつでも酔っている。

 日本への船旅が、1週間余りかかると聞いて、

 「大変だ」と、街で買い求めたのは、お気に入りの洋酒(ウイスキー)の瓶、しかもダースでだ。

 『1日1本飲むつもりか‼️』と思ったが、本気でそうなりそうである。

 出港した今も、

 「おーっ‼️船ぇーっ‼️動いてるよぉ‼️」と、酒瓶片手にひたすらハイテンションだ。

 陽気な酔い方なのがわずかな救い。

 完全なるアル中と言えるだろう。

 この酔っぱらいを事務官に任命した父である大使は、諌めるでもなく、怒るでもなく、静観している。

 と、なると、根っからの長男気質だ。

 放っておけないスウトウが、必死で面倒をみる羽目になる。

 酔っぱらっているから、甲板をフラフラ歩く。

 危ないこと、この上ない。

 「お嬢様‼️危ないです‼️船室に戻りましょう‼️」

 勉強勉強で、完全な運動不足だ。

 息が上がっているスウトウだが、相手が泥酔しフラフラだから、この鬼ごっこは成立する。

 「あはは‼️真面目だねぇ、カク君‼️」

 「何がです⁉️」

 「33の出戻りに、お嬢様って‼️」

 「33だろうが出戻りだろうが、あなたは大使のお嬢様です‼️」

 このヌルヌル逃げるお嬢様、実はかなり目の毒だ。

 酔っているから着崩れている。

 チャイナドレスの、太ももまで入ったスリットがガッツリ開いているし、あぁ、もう‼️

 実はスイリョウ、かなりの美人だ。

 8頭身美人。

 整った顔立ちに、大きめのバスト、腰はキュッと締まり、かなり扇情的だ。

 ただ……しかし……

 背が高すぎる。

 男性の平均より大きい(ただしヒョロヒョロだが)スウトウより、更に大きい。

 彼女はかなり晩婚と言える29歳で結婚し、32歳で返された。

 家柄は、科挙に通ったからこそ役人をしている、大使の娘で申し分ない。

 ならば、晩婚は体格のせいか?

 でも、なら背が高いことを承知で娶った後、返されたのはどうしてか?

 考えても仕方の無いことを思いつつ、スイリョウを追いかけていると、

 「?」

 その動きが不意に止まる。

 いきなり船縁から下を覗き込むから、

 「危ない‼️お嬢様‼️」

 慌てたスウトウが駆け寄ると、

 「きもち……わ……るい」

 吐いていた。

 船酔いだか、酒酔いだか、わかりゃしない。

 ……

 回復し、かろうじて動けるまでに数時間。

 日が西に傾きかけていた。


 そして、出港から数時間、事件が起こる。

 「密航者だ‼️」

 「え⁉️」

 バタバタと、甲板員達が走り出す。



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