第6話 道場拳法と実践派の出会い

 「くそ親父……思ったより人望あるじゃないか。」

 包囲網が狭まって、追っ手に出会うのは時間の問題となった。

 熱を持っている右脇腹をさすりながら、路地裏で少女は1人笑う。

 まるで、父であるエイシュウの求心力を誇るような微笑だった。

 まあ、実際のところ、ここは魔都・上海。

 組織のトップが殺された今、その犯人であり血統でもあるゲツレイをうって、組織ごと手に入れたい、そんなところだろう。

 父親の元部下達に手をかけることに躊躇いはない。

 人間関係など信じない少女だが、問題は自分の身が持つか、と言うことだった。

 多分……

 10人以上、もしかして20人近くは沈めないといけない。

 結構な手負いの今、それが出来るか?

 感傷などない、実利的な意味で戦いたくはなかったが……

 「いたぞ‼」

 「お嬢だ‼」

 見つかってしまった。

 ならばゲツレイに取れる選択肢は1つだけ。

 戦うのみだ。


 「おとなしくしろ‼」

 「よくもボスを‼」

 細い路地の前後を部下達が塞ぐ。

 スペースが無いため前後左右から攻撃はされない。前後のみに絞れることだけが、ゲツレイにとって朗報だった。

 前に8人、後ろに8人。

 『体力が持つかな?』と思いながら、父親の血にまみれたナイフを構える。

 血のりで切れ味が悪そうだ。

 これで殺られるなんて気の毒にと思っていると、

 「なんだ、お前ら‼寄って集って女の子1人に‼」

 驚くような大声と共に、少年が1人降ってきた。

 ゲツレイと同じくらい、小さな体躯の少年が、何かの体術だろうか?後ろ8人の男達を飛び越えて、乱戦の真ん中に飛び込んだ。

 「コウジュンケン、助太刀いたす‼」

 嫌も応もないままに、ジュンケンと名乗る少年が後ろの男たちを蹴散らし始める。

 気になるが確認出来ない。

 ゲツレイも前にいる8人にナイフを振るい……


 『なるほど、道場拳法だ』と、少女は思う。

 ゲツレイは生きるため、自らを守るために戦うから、一切の手加減や容赦はない。

 手心を加えれば自らの命を縮めるから、確実に無力化する、それだけだ。

 少女の前側にいた8人は、4人が頸動脈を切られ失血死、1人は心臓を穿たれ苦しんで死に、残る3人は足の腱を断ち切られ動くこともままならない。

 殺されなかったことを喜ぶべきだと思った。

 対してジュンケンと名乗る少年も見事8人を倒して見せたが、彼らは全員生きている。骨が折れて泣き叫ぶ者や、腹部に1撃入ったのだろう、転がりまわって吐きまくる者。無力化はされていたが死んではいない。

 8対1を勝ち残った。

 常識外れに強いけど……

 自分とは違う種類の強さだと、少女は判断した。

 「強いな、お前」と屈託なく笑うから、

 「ありがとう」と、返すしかない。

 

 広州の少年と、上海の少女。 

 ジュンケンとゲツレイは、こうして出会った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る