第2話 広州碑林の捨て子です
「ああ‼大変だ‼」
今から14年前の寒い冬の朝だった。
広州にある、石碑で有名な寺。
その門の前を掃き掃除に出た小坊主が、小さなお包みを発見した。
寺社では時折ある。
育てられないと、面倒を見てくれる可能性のある場所に捨てる。
それでもこんな寒い朝に酷いじゃないか、と小坊主は思う。
抱き上げた乳児は、生きているやら死んでいるやらの真っ白な顔色、羽のように軽かった。
小さく呼吸はしているようだが、凍え切っている。
小坊主は僧堂に駆け戻って行った。
「お師匠様‼大変です‼」
乳児は、赤子なのにアバラが浮いて、折れそうに細い手足だった。
軽い、とにかく軽い。
男の子だ。
「3か月くらいか?」と、和尚は言ったが、誰も知ることのない事実としては、彼は生後半年だった。
6か月の子を3か月と誤認するくらい、酷い生活をしてきたのだ。
清は女真族が建国した国で、国内で力を持ったのは満州族と漢民族。
その他少数民族は差別待遇にあった。
捨て子は、その少数民族を母に持つ私生児だ。
出稼ぎ先の飯屋の主人の性暴力により妊娠、母子ともども捨てられた。
彼女は何とか育てようとし、しかし、どうにもならずに手放した。
父親のない乳飲み子を抱えては故郷にさえも戻れなかった。
コウジュンケンの名は、拾った小坊主の俗世での家名が『黄』、和尚の名が順仁だから『順』、そこに賢くさとく生きるように『賢』を付けた。
寺で養うからと最初から僧名を付けず、一般の子として修行僧に紛れて育つ。
育たないかと思った細い体は、それでも少しずつ逞しくなる。
背はあまり伸びなかった。
14歳の今、130センチ程度と小柄なままだ。
黒髪の短髪、実年齢よりも下に見える、いたずら小僧そのままの顔立ちだが、意外とパーツは整っている。
寺で、僧侶の体力づくりのために行っている拳法に夢中になった。
寺には、古くからの文書を石碑にした『碑林』があった。
『林』と形容されるくらいの数がある。
子供とは、遊ぶなという場所で遊ぶものだ。
ジュンケンは石碑を踏みつけたり、飛び越えたり、独学で体を鍛え拳を磨いた。
もともとの素養がある彼の中に、気付いたらすべての石碑の文言が染みついてしまう。
広州は、上海とともにアヘン戦争で開港した街。
海外の文化、現状の把握も同時になされ……
面白がって僧の1人が、少年に科挙を受けさせる。
10歳で郷試に受かった。
この資格だけで地方役人ならいける。
11歳で会試も通った。
あとは、形式的ともいえる殿試(皇帝含む国の中枢との面接試験)のみで、11歳の国家公務員が誕生する寸前に‼
今いる役人達から横槍が入る。
若過ぎると尤もらしいことを言ったが、要は嫉妬だ。
自分たちが血の滲むような、それこそ血の涙を流しながら通過した試験を、子供などに汚されては堪らないという思いだ。
結果、後悔しても始まらない、WORSTな結論を生む。
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