眠れる竜の日本紀行(ドリーミングドラコン イン ジャパン)
@ju-n-ko
第1章 臥竜、眠ったままで国を出る
第1話 始まりは北京
鉄は熱いうちに打て、と言う言葉がある。
何事もタイミングが大事で、機を誤ると同じ材料、同じ職人でも出来栄えが違う。
BESTの結果が得たいなら、チャンスを逃すなと言うことだろう。
そういう意味では、今回は完全な失策だった。
現代日本で例えれば、キャリア官僚のそのトップクラス、長官候補が集まっていながらの体たらくだ。
彼らは少年を読み切れなかった。
つまらない常識や嫉妬にとらわれた結果である。
大人にとっての3年はたかが3年。
しかし、11歳から14歳への3年は、思春期を迎え体も心も大きく変わる、人生のうちでもっとも重要な3年の1つである。
BESTどころじゃない、BETTERですらない、GOODの結果も導けなかった。
国家的損失となる……
科挙の試験は相変わらずだ。
清王朝末期の時代だが、頭の奥が白くなりチカチカ熱を持つような、猛勉強の末に手に入れた学力のみですべてが決まる。
ある意味公平、ある意味非常に馬鹿げていた。
世の中には、その他すべてが欠落しても、勉強しかできない人間もいるのだから。
画一化された綱渡り……
そして少年は、勉強もできたがその他の方を好むタイプ。
14歳になり、文字通りの厨2病も発症している。
「ああ‼もう暇だぁ‼」
少年が大声を上げたのは、試験用の小部屋だった。
筆記で結果を導く、科挙試験はカンニングとの戦いとなる。
受かれば薔薇色の未来が待っているとあって、危険を冒してでも子を、夫を(実に30歳を超えてなお受験し続ける者もある)、なんとか合格させたいと願うのだろう。
試験は2日連続で行われ、受験者たちは『ウナギの寝床』もかくやという、このためだけに作られた狭い1室に隔離された。
1人1室。
厳重で人の出入りを拒む。
衛兵さえも立っている。
10歳で郷試(地方予選?)を通り、11歳で会試(本選)を通り抜けて、しかし若過ぎるからと3年後の再試を言い渡された天才は、半日で試験を終えていた。
100パーセント合格する答案。
でも……
こんなことに意味があるのかと思っている。
すでに国には絶望している。
「行くか、やっぱり。」
独り言ちて少年は立ち上がる。
カンニング防止のための個室は、簡単に抜けられてはかなわない、丈夫に作ってあるのだが……
巨大な建物の中を厚い壁で間仕切りし、受験生を分けている。
いまだ試験は1日目、他の受験生は眠気と闘いながら答案を埋めている最中だろう。
まったく付き合いきれない。
ドーン‼と、爆発音(?)がした。
一応他の受験生への配慮はある。
巻き添えで、カンニングでも疑われれば気の毒だ。
少年の部屋は幸い、3方の壁の内(4つ目は厳重にカギをかわれた出入り口だ)1つが外部に続いている。
小さな窓から月が見える。
その壁を今、少年が蹴り一閃で突き崩した。
勉強よりこっちが得意だ。
少年の拳法は達人レベルだった。
「何だ‼」
「何が起こったんだ‼」
慌てて駆け寄る衛兵5人をノックアウトし、少年は北京の街へと消えた。
目指すは上海、船出の街だ。
少年の名はコウジュンケン(黄順賢)。
話は少しさかのぼる。
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