美術館に誘われた弟の話。

御愛

誘い文句は普通だ。ノンフィクションなので。


 美術館に行かない?



 僕は絵画等、芸術作品が嫌いではない。高慢ちきな言い方をしてしまったが、普通に好きな方の人種であると思う。昔は美術館に家族連れ立って行ったとしても、一人だけ先に待合室でゲームをしているような子供だったが、今では絵を見る面白さというか、楽しむ視点というのか、そういうのが分かってきた年頃になった。


 僕は大概の場合、利己主義を通している。それは最低限損をしない為であるし、自分が傷つかない為であるし。無駄な事に時間を費やすと、ああ、勿体ないことをしたなと一人落ち込んでしまうのだ。だから美術館に行くというのは、かつては苦痛でしかなかったのだが、それらから得られるモノを見つけた瞬間、僕は美術館に行く事が楽しみになった。


 我ながら現金な性格をしていると思う。


 ようは、僕の美術館に行くという決められた設定の中で、どのように自分が損をしないように立ち回るかという発想力が欠けていたのだ。それが早い段階で分かれば、損をしたなどという失礼な思考にも至らなかった事だろう。まぁ、それ自体を悔やんでも仕方のない事だが。



「ねぇ、話聞いてる?」


 少しイライラしたように、若干語気を強めて姉が僕に問いかけて来る。しかし僕より20センチ程低い身長からは、迫力というものがまるで欠けていた。


 つい思考に耽ってしまっていた。僕の記憶には姉の最初の問いかけから先の記憶がなかった。ろくに話を聞いていなかったらしい。


「ごめん、聞いてなかった」


「美術館、行くの?行かないの?どっち?」


 姉は絵を描くのが好きだ。おそらく見るのも好きだ。本人は絵の勉強のためと言っているが、勿論趣味も多分に含んでいる事だろう。


 姉は今年で大学受験となる。そして高校最後の夏を今、過ごしている。


 姉が行く大学というのが、美術系の大学なのだ。姉は勉強ができる。スポーツも出来る。おまけに顔も良い。この前、学校のパンフレットに自分の顔が載る事を大層自慢気に話してきた。随分前にモデルさんに告白されたこともあると言っていたし、モテているのだろう。


 しかし、姉は自己中だ。それは肥大化した自信からなのか。おまけに言動も荒っぽい。僕からしたら、この猛獣のような姉と付き合いたいと思うような輩が世の中に多分に存在している事がとても信じられない。


 少し話が逸れた。


 そんな姉は、小さい頃から趣味で絵を描いていた。それは素人の僕から見ても上等なものだ。独学で描いていた絵は、二年の夏に入った美術系予備校の講師の人に絶賛される程だと言っていた。僕にその言葉を疑う余地はなかった。


 姉について大分語ったが、まぁ、そんな人なのだ。別に姉と行く事に不満は無い。二人でカラオケにもよく行くし、映画も見に行く。兄弟仲はそれほど悪くないのではと勝手に思っている。


「行くよ、行く。二人で行くの?」


「ねぇー!ハルもいくー?明日美術館行くんだけどー!」


 姉は僕の問いかけを無視して、妹のハルに問いかけた。妹も確か絵は好きだった筈だ。将来の夢は絵本作家だとか言っていた気がする。


 ハルは二段ベッドの上から顔を出し、感情のよく分からない表情で返事を返した。


「行くー!暇ー!」


 暇だそうだ。それなら明日、三人で美術館に行こうという事になった。


 僕に明日の予定は無かった。一日勉強やら執筆やら資料集めやら課題やらで忙しいのだが、それはいつも通りの事だ。差し迫った事もないし、気楽に絵を楽しもうと思う。




 ……そんな事を長々と書いていたら、既に夜の12時になっていた。最近は寝不足気味で疲れが溜まりやすい。まだ若い体だというのに、疲労感はなかなか抜けない。今日はこの辺にしておこう。


 


 僕の毎日はこんな感じ。兄妹仲良くとはあまりならないけど、楽しくやってる。妹オタクの部活仲間や、姉オタクの幼馴染から羨ましがられたりするが、そんな羨む程の事でもないだろう。だいたい僕はショタコンなのだ。出来れば可愛い弟が欲しかった。



 美術館に、可愛いショタの絵が飾ってあったり、しないかなぁ。



 なんて、日常。

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