operation 5.5 最強勇者と過去

 私は勇者が言った神という存在について生まれて初めて考える事になった。


「召喚した神ですか?」

「あぁ、俺はこの異世界に日本という島国から神の手によって転移させられた……その時の事を話そう」



 俺は、刺激のある人生を求めていた。

 学校は毎日必ず登校するし、門限や校則も周りよりか破る事も少なかった。

 しかし、そんな安定した生活を繰り返していると危険や刺激を知った時の快感や優越感が忘れられなくなる。


「……はぁ、退屈だな。神が俺に課した天罰なのか?」


 俺は高校に入ったこの頃から少しだけ痛い様な考え方や行動をする事があった。

 今思うと恥ずかしいが、漫画やラノベに載っている主人公のハーレムやチート能力に憧れていた。


「──コラ、またそんな事言ってると変な人だと誤解されちゃうぞ」


 俺の唯一の友達にして話し合える仲間である女子、星野楓ほしのかえでである。

 彼女は中学生の時に俺と漫画や好きなアニメの趣味が合って友達になれた女子であり、俺が話しても引かない理解者だった。


「そう言って……お前も別に目が悪いわけでも無いのに眼帯付けてんじゃねぇか」

「ふっふっふ! そう、私の片目には封印されし……etc」


 かなり長くなったから割愛するが、彼女自身も厨二気質な所もあり、何かとお互いを楽しんでいた。


「よぉ、そこの厨二オタクカップル! ちょっと邪魔だからそこ退いて貰えるかなぁ?」


 そう言って来るのはクラスで少し浮き気味かつ皆からも嫌われている嫌太けんたである。


「あぁ、ごめん嫌太──」


 その瞬間、俺の頭は嫌太に掴まれ机に叩き付けられる。

 掴まれて叩き付けられた顔から少量の鮮血が伝う。


「おい? 違うだろ、嫌太様だろが?」


 こちらをギロリとにらむ嫌太であったが正直いつも同じような事をされていたので対応には慣れていた。


「──許して下さい……嫌太様」


 これ以上無い様な棒読みであったが、嫌太はそれを指摘する事は無い。

 嫌太の言動や行動には問題があり、万引き等で補導された事もしばしばあった。

 しかし、彼は格闘技をしていて少し検索エンジンを使えば名前が出る程強かった為に行動や言動に対して異議を唱える事は出来る者はおらず、毎日自分が被食者にならない様に見て見ぬ振りをする者が大勢いた。

 

「チッ、さっさと言えよこのノロマ!!」


 俺は嫌太が自分の机の方へ戻った後、持っていたハンカチで顔に流れた血を拭いた。

 少しの痛みはあったものの、授業までにはある程度傷が塞がる筈と思った。


「ねぇ、ちょっと先生来るの遅く無い? てか、時計の針もずっと同じ所を指しているみたいだけど?」


 楓の厨二気質発言かと思ったが、確かに先生はいつも5分前には授業の準備をする。

 遅れる場合はクラスにクラスルームで伝えておく事が多かった。

 しかし、時計を見て確信した。

 教室の時計の長針は8時39分を指しているが、秒針は明らかに停止していた。


「時計の故障? いや、時計のランプは光っているからそれは無いな……」


 この時計は電池で動いており、故障や電池切れを起こすとランプが消える仕組みだ。

 しかし、ランプは消えておらず淡い光を少し出すばかりであった。


「ねぇ、やっぱりおかしいよ……」

「あぁ、時間停止なのか?」


 俺があれこれ心配しているうちに廊下からは靴の音が聞こえた。

 しかし、音からして明らかに先生では無い事が分かる。


──ガラッ


 教室に入って来たのは中性的な声をしている少年であった。

 少年は明らかにコスプレの様な格好と狐の仮面をしており、クラスの全員は困惑を隠せずにいた。


「なんだ、コイツ? おい、誰かこのガキの事知らないのか?」


 嫌太は教室の扉側にある席であった為、直ぐに少年の腕を掴み、この事を知っているクラスの人間を探した。


「──人間よ、手を離せ……」

「はぁ? なんで意味も分からねぇガキがこの学校にいるんだよ? 俺はそれを確認してぇだけな──」

「──肉体分切カットパーツ

「えっ? なんれっ?」


 嫌太は一瞬の間に細切れとなり辺り一面に肉片と血が飛散した。

 しかし、バラバラになった本人は意識があるようだった。

 周りは、何が起こったのか分からず沈黙をしているがそれも限界が来た。


『キャアアアアーー!! 助けて!』

『おい!? 誰か、廊下に先生はいないのか!?』

『窓だ!! 窓から逃げるぞ!!』


 人間はパニックになると、正常な判断が出来なくなるとはこの事だと確信した。

 俺達のクラスがあるのは3階であり、地上からの高さは15mを軽く超えていた。

 俺と楓は、逃げ道が無い事を確信してその場で少年が何をするのかを待った。


「──待て、人間ども」


 パニックになったクラスの生徒達は窓から身を投げて助かろうとした。

 しかし、下のコンクリートに体を打ち付けられ、窓際にいた者や身投げした者は全員即死した。


「──クソ、だから人間は嫌いだ……」


 狐の仮面を被った少年は鋭い爪で自分の指を切り、鮮血を地面に垂れ流す。


「──代償蘇生クロンレチル


 少年が唱えると、血が滴った地面から魔法陣が展開される。

 魔法陣からは先程死亡した筈の生徒合計13名が出て来た。


『あれ? 俺はさっき死んだはずじゃ……』

『えっ? なんで私生きてるの?』


 皆が困惑と疑問を口にするが、それを他所に少年はまた別の事を始めた。


「──時間が惜しい。大規模な召喚だから早々にせねば」


 少年は自らの取り出した短剣を首に刺す。

 少年からは大量の鮮血が飛散し、教室中を血で埋め尽くした。


「──コヒュ、我が神パンドラ様この身この命を捧げまつる……世界線移動オープンワールド!!」


 少年は大量の出血の果てに絶命し、その命が散る間際に何かの呪文を唱えた。

 クラスの全員からは白色の光が現れながら消えていった。

 

『なんだ!? 体が光って!?』

『どうなってるの!?』

『ウソだろ!? 体が消えてくぞ!!』


 皆の反応は様々であったが、楓を見ると顔が赤くワクワクしている様に見えた。

 恐らく、この境遇を楽しんでいたのは楓と俺だけだろう。

 しかし、俺と楓は生粋のオタクであった為、これが異世界転移や転生のテンプレ展開に近いと踏みこれから起こる冒険と仲間に高まっていた。


「──よし、夢の異世界ライフだ!!」


 

「あら〜? なんで人間が此処にいるのかしら〜?」


 俺は異世界に来たと思い、声のする方を見つめこの場所を確認しようとした。

 日本語はこちらでも通じるのだろうか?

 声は聞けたが、こちらに異世界人とのコミュニケーションが出来るのか等色々考えていた。


「えっと、初めましてかな? 俺は瞳……高崎瞳、異世界人だ──あれ?」


 俺が後ろを振り向くと、そこには巨大な女が座って居た。


「あら〜そうなの? 高崎瞳だっけ〜? 貴方の言う異世界は此処じゃ無いわよ〜?」


 俺は先程のテンプレ展開を見て異世界に来たと言う確証を持って居たがそう思っていた自分が今考えると一番恥ずかしく感じた。


「えっと、すみません……此処って何処でしょうか?」


 俺は状況確認の為、目の前にいる大きい女に話しかける。

 

「何処って〜? 私がいるのだからに決まっているじゃない〜」


 俺は絶望した。

 異世界でチート能力やハーレム、ラノベ知識を活かして異世界を楽しむつもりが自称神様のいる神界なんて場所に来てしまったのだから。


「─えっと、貴方は異世界に行きたいようね〜」

「──は、はい!!」


 まるで心を読まれたようにこちらを見透かしてくるのは神の権能なのだろう。

 俺の本心を言い当てる力があるのならもしかするととんでもスキルやチート能力をくれるかも知れない……


「とりあえず〜貴方の言う異世界に飛ばすには条件があるわ〜」

「条件?」

「そう〜、このまま生身の人間をあの世界に送ったらまず間違いなく死んでしまうの〜。

だから、私からを貴方に送らせて貰うわ〜」


 厨二センス満載のネーミングに俺の心は絶頂を軽く超えた。

 他の皆が持っていない、正真正銘神から渡される最強の能力だ。


「じゃあね〜貴方に神の祝福を渡すから目を瞑っていてくれる〜?」


 正直ドキドキした。

 神から祝福を受ける際にどの様な事をしてもらえるのだろうか。

 光に包まれるのか、それともお互いを抱き合うのか、まさか口付けを──


──ズブッ!!


「ギャアアアア!!! 目が、目がぁ!」


 神からの祝福、それはダブルピースからの目潰しであった。

 目はボンボンに腫れた前が見えない、神からの祝福と言うよりか悪魔の嘲笑が聞こえてくる。


「よし、神からの祝福は完了したから〜異世界に飛ばすね〜」


 俺の異世界ライフはボンボンに腫れた目と泣き顔で始まったのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 いや〜、勇者の過去今のところ神を殺す程の恨みがあるのか分からないような過去ですね〜(女神様リスペクト)

 さて、次回こそ勇者が神を殺す事を選んだ理由が分かるのでしょうか?

 次回もお楽しみに〜(๑╹ω╹๑ )

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