operation 5 能力の取得

 あれから数日が過ぎたが、私は勇者を暗殺出来ていない。

 それは自分に感じたの理由を確かめる為であった。


「ぐおおぉぉぉ!!」


 数日が過ぎていても訓練の過酷さは変わらず……というよりか組織にいる時の方が生優しいまである程の辛さであった。


「よし、このくらいで良いか」


 勇者は息切れをしている私の方へと歩みを寄せてくる。

 やっと今日の訓練が終わるのかと思っていたがそうでは無かった。


「メスティス、お前もそろそろ動きが様になって来たし俺と手合わせでもするか?」

「────えっ!?」


 今このタイミングで最高の暗殺するポイントが発生した。

 組み手を本気ですれば怯んでいる勇者を暗殺することも容易いだろう。


「──分かりました。慎んでお受けいたします」

「そんな大人っぽい言葉どこで覚え──」


 私は勇者が言葉を発する前に懐に入れた短刀を勇者の頸動脈けいどうみゃく付近を狙って刺す。

 私は本気で武器を握った事は無かった。

 それは手加減や、武器の可動域が減るからでは無く、私の握る力によって武器を破壊してしまうからである。

 しかし、勇者の不意を突いたので本気の力を短剣に掛けて加速させても一発勝負のこの場所でなら次に武器を振るう前に相手を殺せるので躊躇ためらう必要など無かった。


「おっ、凄い力だ。そうだね、あの熊程度には余裕で勝てる様にはなったみたいかな?」

「えっ? 何で、頸動脈を狙ったはずじゃ」


 私は自らの力を掛けて粉砕された短剣が刺す刃先を見た。 


「届いて無い? それどころか当たっていない?」


 私が込めた本気の力を指だけで掴み傷ひとつすらついていない勇者に対して恐怖した。

 

 人は自らが絶対に敵わない強者を自覚した時、興奮するという者もいるそうだ。

 しかし、それはあくまで手の届く力と垣間見えた時である。

 私の目の前には【最強】という字を体現した様な人間が蟻の攻撃を受けて傷一つ付かない、当然の道理である。


「まっ、負けました。」

「えっ、もう負けを認めるの? 少なくとも君は強い。100年前の俺なら本気を出しても勝てなかったかもしれない……君は力を持つのに適している」


 私が負けを認めると勇者は負けた私に対して強いと言ったのだ。

 正直、強者からの余裕なのか弱者への慈悲なのかは分からないが私の持つ自尊心はこの任務を受けてから完全に崩れ去った。


「メスティス、君自身も感じているんじゃ無いか? 今までに無かった力の根幹を精神の形を」

「えっ、一応胸の中に光の様な物を感じ取っていますが……」


 確かに、勇者が言った力の根幹の様な物は私自身も感じ取っていた。

 しかし、私の中に新しい力が芽生えたとしてもこの怪物に勝てない事は先程の試合をしただけで分かっていた。


「そうか、それなら胸にある光に自分の神経を集中させろ……」

「は、はい! 分かりました」


 私は胸にある光の様な物に対して神経を集中させた。

 だが、そんな事をして何になるのだ──


「うっ、ゲハァッ!?」


 私は光から集中をそらし、この勇者に勝つ事など不可能だという卑屈な考えをしようとしたが、その瞬間に胸の光は赤くなり私の全身を駆け巡った。


「うぎ、ぐひゃはは!?」


 私の体を、通る血管や神経からは光が流れ込んだ。

 そして、私の中にある全ての考えが吹き飛び一つの回答が導き出される。


『勇者ヲ殺セ、勇者ヲ殺セ、勇者ヲ殺殺殺殺殺殺セセセセセ!?」


 私はその考えのまま体が動き、血管や神経と共に肥大化した腕を勇者に向けて叩きつけた。


「おっと、こりゃまずいな。本気でやったら殺してしまうし……折角手に入れた人材を捨てるのも勿体無い。最後の為に取っておく【神力】を一瞬使わなければいけないかも知れないな……」


 メスティスは何もかも忘れて暴走する。

 胸にある全ての光を破壊の為だけに使い、目の前にいる危険な存在を殺さなければならないという思いだけを込めた悲しい一撃である。


「くっ、すまない……」


 勇者ヒトミは自らが掛けた布の目隠しを少しだけずらす。

 目隠しから解かれた眼光は目の前の力に支配された悲しき暗殺者に向けられた。

 目隠しをずらして僅か0.8秒であったが、眼光の先にいた肥大化したメスティスの腕や足等は元の姿を取り戻した。


「はぁ、使っちまったけど恨まれねぇかな? まぁ仕方ないか、俺の目的を叶える為なら必要な事……か」



 私は何をしていたのだろう?

 あの胸の光は、痛みは、憎悪と殺意は何だったのだろうか。

 しかし、身体中のが大きくなったあの感触は何だったのだろうか?

 それに、私の胸あたりにあるこの重みと柔らかさは一体何なのだろうか。


「うっ、うう身体中が重い」


 あの謎の力を使ってしまった反動なのか体中の骨が成長したかの様に重くなっていた。


「とりあえず、鏡でどこに傷があるのかを確認しよう」


 私は唯一鏡のある脱衣室に行く。

 目の前がぼんやりして見えずらいが寝起き直後であったから無理も無かった。


「えっと、これは誰?」


 やっとの思いで脱衣室に着き鏡を見る。

 しかし、そこに私の姿は無くアリシアの様な高身長で豊乳の女性が包帯で治療されているとんでもない姿で写っていた。


「えっと、まずはごめんね」


 後ろから勇者ヒトミは私と同じ視点で謝罪して来た。

 私は今起こった事に対しての理解が追いつかず、その場で再び気絶した。



「えっと、説明しますと……俺の持つこの目は相手の寿命を少し削り取る事が出来る。よって貴女はその姿になったという訳です」


 私は自らの断崖絶壁に突如として現れてくれた肉の塊に夢中となっていた。


「私ノ胸、ヤット手ニ入レタ……コレデ断崖絶壁言ワレナイ……ハァッ、ハァッ」


 嬉しさのあまり、片言になってしまったが寿命が削られたとしても数ヵ月から数年だろう。

 人間にとっては問題である事だろうが無限に近い時間を生きるエルフにとっては関係の無い事であった。


「おーい? えっとメスティスさん大丈夫ですか?」

「あ、えっ!? あっ、はい大丈夫です」

「それで、話は少し変わりますが……俺を殺しに来たんだろ、君は今まで何人の人を殺して来たんだ?」

「────!!」


 私はこの勇者に自分を殺しに来た暗殺者という事がバレていた様だ。

 しかし、私はこの勇者に天と地が入れ替わったとしても勝つ事は出来ないだろう。

 一か八か、先程の力を再び使うしか生き残る道は無い様だ。


「それで、君の力を見込んでお願いしたい事がある」

「──えっ?」


 私よりも強いはずの勇者だが、自分を殺す暗殺者に依頼をするなど前代未聞かつ、意図が全くと言って良いほど分からなかった。


「これは、君にとっても利益になる筈だ……この依頼を終える事が出来たならばこの身この力全て君に明け渡そう」

「えっ、それって本気?」


 私は演技をする必要が無くなり、肩の荷が楽に……いや、少し肩は重くなってはいる。

 色々な事が起きていて全く理解が追いつかないが一番正気を疑うのは標的ターゲットが依頼の為に命を捧げるという事だ。


「あぁ、この依頼は俺だけでは絶対に叶う事が無いとの約束だ……」

「分かった、それでその依頼って言うのはどの様な内容なの?」


 私は金や保身の為だけに動く事が多かったが命は組織の利益の為だけに捧げている。

 組織にとって利益を得るならば勇者をこちら側へ引き込む事だ。

 それが不可能だから暗殺を選んだが、こちら側へ引き込む事が容易になったのなるのならばその依頼を完璧にこなしてみせよう。


「その依頼は──俺達を召喚した神、パンドラを殺す事だ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 メスティスちゃん、成長おめでとう٩( ᐛ )و


 はい、という事でようやく勇者の目的である『神殺し』と最強勇者の最強能力の一部が分かりましたね〜

 次回のお話は勇者の過去が少しだけ明らかになるそうですよ〜!!


──次回も楽しみに!!




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