operation 4 勇者と幼女と修行
私の目の前に現れたのは
◇
少しずつ目の前が明るくなっていき、気がつけば全く知らない部屋に寝かされていたのである。
横に私を助けた勇者タカサキ・ヒトミが座りながら寝ていた。
(ここは何処かしら……)
私は周りを見渡して状況を確認する。
部屋は、木を中心とした造りであり、床からは草に近い香りと柔らかさを感じさせるが見たことが無い造りであった。
「──痛っ!?」
私の小さな体は原生動物の熊にズタズタにされていたが、傷の箇所に治療を施した後があった。
少なくとも傷は化膿しておらず止血も済んでおり完璧な治療ではあった。
「おや、どうやら目が覚めたみたいだねエルフのお嬢さん」
目の前で座りながら寝ていたはずの目隠しをした勇者が縁側で日の出を見ながらこちらに話しかけた。
「貴方は、何の為にこんな事を!?」
「何って? そりゃ助けただけに決まってるじゃないか。それともお嬢さんはあのままズタズタのお肉になりたかったのかな?」
「ぐっ、分かった素直に感謝しておくとするわ」
痛い所を突かれ、私は反論出来なかったがこの場所へ来た目的を聞かれないだけでまだマシであった。
しかし、このまま引き下がっても埒が明かない為、ここで思い切った行動をする事も必要であった。
「ねぇ、ここは何処なの?」
「此処かい? 此処は俺の住処兼修行場とでも言っておくべきかな」
何という事だ、勇者はまだ強くなるつもりである。
しかし、勇者と同じ修行をすれば勇者を暗殺することも可能になるという訳であった。
「てか、嬢ちゃんは何でこんな何にもない所に来たんだい?」
「えっ、私? 私は……えっと」
ここで最悪な質問をされてしまった。
しかし、この質問は毒にもなれば薬にもなるほどの大切なものであり、慎重な解答選びが必要であった。
「その、私は……そう! 私の仇を探してここまで来たの! 私は昔住んでいた所を悪い奴に滅ぼされて、今では里親しかいなくて……だから私強くなりたいの! 強くなって住んでいた所を滅ぼした奴をギッタギタにしてやりたいの!! ここには強くてカッコいい勇者が居るって聞いたから!!」
棒読みで半分以上嘘であるが、多少の真実を嘘に混ぜ込む事でバレにくいという事をアリシアから教えて貰った。
特に嘘を使う機会が無いから忘れていたけど教えてもらっておいて良かったとアリシアに感謝している。
「へぇ、確かに俺は仮にも勇者だからな……まぁ強いって言ったら強よいけど」
「御願いします!! 皆んなの仇が取りたいんです!!」
私は幼女のように目をキラキラさせて勇者の方を見る。
生まれて初めて自らの発育の悪さに一生で一回の感謝をしていた。
「そっか、嬢ちゃん名前は?」
「私は、メスティスと言います!! どうか宜しくお願い致します!!」
「ふーん、メスティスねぇ。【
勇者は意味の分からない言葉を発し、何も無い空間を布越しに見つめる。
その次にニヤリと笑うとこちらに向かって来る。
「嬢ちゃん、どうやら俺とお前は昔少し知り合いだったみたいだぜ?」
「……どう言う事ですか?」
勇者は初対面の人間(まぁエルフだけど)を知り合いだったと言っているが私には全く覚えが無かった。
「あの、私と勇者様は初対面なのでは知り合いじゃあ無いと思うんですが……」
「じゃあ、嬢ちゃんは記憶を無くしているだけかもな」
この男の言っている事は全く理解出来ないが、可能性としては少なくは無い。
私は私自身で記憶に蓋をしてしまい空白の100年が記憶の奥深くに眠っているのだろう。
「まぁ、鍛えて欲しいって事だったら知り合いだったって事で任せておいてくれて構わないぜ」
「あ、ありがとうございます!!」
「じゃあ早速だけど修練場に集合な。この部屋を出てからすぐ横の部屋に修練場があるから」
勇者はそれだけ伝えると、修練場の方へと向かっていった。
しかし、疑問や疑念は残り積もっていくままであった。
「私の過去に一体何があったか分かんないけど、早い所任務を片付けて帰還した方が良いわね」
私は寝込みを襲う為、今は身も心も可憐な幼女の振りをして訓練をする事にした。
しかし、私は今幼女なのだからそう厳しい訓練はしないだろう。
上から目線勇者の鼻っ柱を思いっきり折ってやろうか──
◇
「──ギャアアアア!!」
私は完全に甘く見ていたこの勇者は怪我をした健気な幼女アピールをした私を一ミリたりとも幼女だと思っていない。
「ほらほら、どうしたどうした!? そんなんじゃ仇を打つ事なんか出来ないぞ!!」
かれこれ一時間以上は走りっぱなしであるが少しでもペースダウンをするようなら訳の分からない重圧に押し潰されそうになった。
しかも修練場の床板は尖った石だけが散りばめられており、足から激痛が込み上げてくる。
「よし、じゃあ今日の訓練はここまでだから少し休んだら調理場に来てくれ」
「ハァ、ハァ、フュウ……!(絶対に、殺してやる、この鬼畜勇者を)」
◇
私は休んだ後、調理室で勇者の料理を手伝っていた。
鉄鍋や釜戸を使用した簡素なキッチンであったが、見た事も無いような調味料等が沢山置かれていた。
そんな中、鍋で野菜と肉を煮るヒトミは野菜を切る私に対して調味料を取るように頼む。
「メスティス、醤油取って」
「えっ、あっ、はい」
しかし、調味料に書かれている文字はさっぱり読めず、そもそもショウユ?と言う物は初めて聞くような調味料であった。
とりあえず、ショウユと呼ばれるなら少なくとも油に関係しているはずだろう。
私は油の匂いがした棚の方へ行き、透明で綺麗な油を見つけ、それを渡す。
「はい、どうぞショウユです」
「うん、ありがとう」
私が渡した透明の油は目隠しをした勇者に気化しないハッカ油だと言う事を気が付かせなかった。
◇
調理が終わり、私と勇者は居間と呼ばれる部屋に行き食事を始める。
「それじゃあ頂きます」
「いっ、頂きます?」
私は勇者のした行動に対しての意味が分からなかったが、勇者と同じく手を合わせる。
私と勇者の目の前にはスキヤキ?と呼ばれた透明の肉を煮た物が置かれていた。
「うん、うん? ギャアアアア!!」
嬉しそうに勇者は口に運ぶが、次の瞬間には昼間の私が上げた叫びよりも大きな物を響かせており、勇者は机にぶつかり鍋は私の方へとひっくり返った。
「えっ? ギャアアアア!!!」
私はひっくり返ったスキヤキをただ眺め動く事が出来ず汁が飛散し、私自身も悲惨な光景となってしまった。
目は燃えるように熱く、涙と充血のせいでエルフの美的容姿が完全に台無しである。
「うう、【治癒《ヒール》】!!」
しかし、勇者が言葉を放つと同時に痛みと熱さが引いて行きとても楽になった。
「えっと、何でスキヤキがこんなにヒリヒリするんだ? メスティス、スキヤキの色は何色だった?」
「えっと……透明っぽかったです」
「それでヒリヒリするって事は……」
勇者は調理場に行き私の取ったショウユの量を確認する。
「おい、これ特別用なハッカ油だけど……何か弁明はありますでしょうかメスティスさん?」
「えっと、子供だから分かんないや〜」
「罰として明日のメニュー量十倍にするね」
「そ、そんな〜!!」
私は、理不尽な訓練メニューの宣告と寝込みに襲おうとしている時に『残すのももったい無い』という理由で食べさせられたスキヤキのせいで
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うん、メスティスさんはお茶目ですねw
次回はどうやらメスティスが能力のような物を得るみたいです!
次回も楽しみに!!
作品を執筆する上で励みとなりますので感想や評価をお願い致します!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます