operation 2 任務前夜
私は仮眠をしている最中に閣下の言った事が無性に気になっていた。
『今回の任務は君にも関係がある大切な依頼だ』
私は、組織に入る際に過去の記憶を一部無くした。
閣下によると劣悪な環境を過ごしたせいで記憶の一部を自分から消去してしまったらしい。
だから出自や過去について覚えていないが正直に言えばどうでも良かった。
暖かい布団、豪華な食事、ある程度の休暇、任務をこなす事で全てが手に入る。
任務をこなす事だけを考えていれば良いのだ……
──コンコンコン
「メスティス、私は準備が出来たから早く出てきて」
個室の外からはアリシアの声がする。
この部屋は個室なので防犯用に鍵が仕掛けられており、部屋の住人以外が扉や窓を開ける事が出来なくなっている。
「うん、分かった……少し用意(仮眠)してたから、すぐに……ふぁっ……開けるね〜」
少し大きめの
アリシアは明るく男の様な振る舞いをみせるが、礼儀や約束事に対して少し厳しい方だ。
聞かれると「自分から誘っておいたのに!」って少し説教される。
私は特に寝起きが弱いので面倒事は避けて起きたかった。
ベッドから起き上がると急いで髪を整えて帽子を被り、貯金を持って部屋を出た。
「お待たせ、アリシア」
「遅いよ! メスティスはいつも時間にルーズなんだから、私との約束くらい守ってよね」
仮眠していた事がバレていなくて良かったと心から安堵したが、実際の所疲れが少し緩和されただけなので帰ったらすぐに寝ようと思った。
◇
東の国エルグンデ
私達の組織が根城とする国であり、文明的な点だけで見ればかなり上の国である。
街はかなり賑わっており物の行き交い(合法の物から違法物)までが出回っているが、組織の資金源となる為に規制する司法に対しては根回しをしている。
「やっぱり、この街はいつ来ても楽しそうで良いよね」
アリシアは街にいる民衆を見ながら話しかける。
実際、この街にいる市民は豊かな方であり、私のいた闇市場のある国よりもマシである。
「いつ消されるのか分からない私達と比べると気楽で幸せよね」
私達の職は対価こそ多いが平民が一生働いても数日しか味わう事が出来ない程の高待遇である。
故に毎日命を危険に晒し、仲間を失いながらも実行する価値があるのだ。
「コラっ、そういう暗い事言わない。折角の休暇なんだから私達もあの人達みたいに楽しみましょ」
アリシアは私の額に軽くデコピンを喰らわした後、行列が出来ている方へと私の手を引いた。
「ここは、甘味店?」
私は、外出を最近は避けて任務に没頭していたせいなのか新しい物や娯楽に対しては
「ブ〜、半分当たり半分外れ!甘いのは合っているけど甘いだけじゃなくてしょっぱくもあるらしいんだよ〜」
どうやら、謎かけのようであった。
甘くてもしょっぱいなんて食べ物など聞いた事も無かったから正直緊張してしまう。
「私取って来るからメスティスはあそこのベンチに座っていて」
私は言われるがままに店から少し離れたベンチに座った。
◇
一時間後、アリシアは紙袋を持ってこちらに向かって来た。
仮眠を取っていたので待ち時間については気にならなかったが、そこまで待って買う程の物なのか定かではなかった。
「メスティス、お待たせこれが最新のスイーツらしいよ」
そう言ってアリシアが袋から取り出し私に渡して来たのは串に茶色い蜜がかかった玉が4つ刺さっている物であった。
匂いは甘く、香ばしいものであったがこのスイーツの為に一時間を無駄にするのなら他の店に行こうと思う見た目であった。
「これ、みたらし団子? っていうらしくて北の国グルスコから伝わったスイーツらしいの」
みたらし団子という珍妙なネーミングであるが、買ってしまったものは仕方が無いので食べる事にした。(正直に言うとまともな食事が久しぶりであった)
「何これ、美味しいんだけど!?」
私は久しぶりに感動した。
甘いく香ばしい匂いを放つ蜜はねっとりとしており、甘さを塩味が引き立てていて丸い玉との相性が最高であった。
「ねっ、美味しいでしょ?」
「うん、信じられない程美味しい……」
私はみたらし団子と呼ばれたこのスイーツを一口で好きになってしまい、自分の世界を作り出していた。
「ねぇ、折角の外出だし時間も限られているから他の場所に行きましょう」
「ええ、分かった……」
自分の世界を作り出していたが、私自身も長い暗殺経験から気が付いていた……
◇
私達は、みたらし団子を腕に抱えて裏路地の方に来ていた。
「メスティス、気が付いているでしょ」
「ええ、後ろに二人、路地の出口辺りに五人動きからして民間人の可能性は無し」
外出をする際に大体は狙われる事があったが今回は人数が多いので報復よりも懸賞金が掛かった依頼だろう。
もちろん、ミスをした事は一度も無いが名前だけなら裏社会で出回っている事は基本的に多い。
「じゃあ……行きますか」
「まぁ、なるべく綺麗にね」
私とアリシアは一瞬にして刺客の前から姿を消した。
「なっ!? どうやって消えた!」
「くっ、近くにいるはずだ!!」
刺客は目の前の状況に対して理解出来ずに辺りをキョロキョロと見渡す。
しかし、そうやって行動を起こした時には既に遅いのだ。
「はい、お二人さん残念──」
「襲う相手を考えて来世は行動しようねお兄さん♡」
──ゴキリッ
刺客二人は一瞬にして
「休暇なのに殺ししていたらなんか調子狂うよね」
「仕方無いよアリシア、私達の仕事上は殺し殺されが当たり前だから……」
「この調子で刺客をどんどん殺していこう」
「うん……」
──ゴキリッ、バキッ、グチャ
◇
「おや、情報を受けてお迎えにあがりましたがその必要は無かったようですね」
裏路地の奥からこちらの方へと来たのは執事服を着た老紳士パルムであった。
どうやら監視として付けられていた黒呼からの情報により向かった様であったが正直意味は無かった……
「あっ、ごめんねパルムさん!! 仕事奪っちゃって」
「いえいえ、アリシア殿とメスティス殿の力量を考えればこちらに向かう必要などありませんが仕事ですので問題ありません」
アリシアは基本的に誰とでも仲良くなれる人材であり、パルムとはたまに任務の手伝いをする程の仲らしい。
「アリシア殿メスティス殿、閣下からの伝言です『少し早いですが明日、任務に向かって貰う』との事です」
どうやらこうして町を見ている間に任務決行の日付が決定したらしい。
明日から任務が始まるのなら帰還し、睡眠と準備をする必要がある。
「うん、分かった。閣下からの伝令なら仕方が無い帰還しようメスティス」
「うん、暫く会えないと思うけどまた任務が完了したらみたらし団子食べに行こ」
「あっ、やっぱりハマったな!!」
この少しの談笑の後に帰還するが組織に戻る際は規定された場所まで行き、情報漏洩を防ぐ為睡眠薬を服用してから帰還するので実質この会話が最後の会話となるので談笑を私は楽しんだ。
◇
──数時間後
私は目を覚まし自らの武具の中でも最も強い物と特殊隊服、携帯食糧を用意し、卓上に置かれた資料に目を通す。
「伝説にして最強の勇者タカサキ・ヒトミ……資料の中を見る限り果ての山脈辺りの何処かという事は分かる……」
資料は一度目を通した後直ぐに破棄するので入念に資料からターゲットの位置と情報を確認する必要があった。
資料から分かったのは勇者は果ての山脈付近に身を潜めている事、勇者の《神力》は不明という事、他に仲間がいる可能性は無いという事だ。
──コンコン
部屋の扉を叩く音が響く。
扉を開けると黒呼がその場に立っており、顔を見ることは出来ないが何か言いたそうな事は分かる。
「どうしたの? しゃべって良いわよ」
「はっ、はい! 閣下からの勅令により今すぐ出発する事になりましたのでメスティス様は準備をお願い致します」
初めて見るような幼い風貌をしていたので、恐らくではあるがこの黒呼は組織に入ってからの月日が浅い子供なのだろう。
「了解した。君は新入りなのかな?」
「はっ、はい! 私は以前第ニ位階級の部隊に配属されましたが失敗をしてしまい黒呼になりました」
素直で優しそうな子供という事は分かったが、この組織の中で生き残るには少し素直過ぎるかもしれない不思議な魅力を持った黒呼であった。
「そう、大変だと思うけど頑張ってね」
「ありがとうございます! メスティス様」
私は子供の黒呼に踵を返し身支度をする。
もうすぐ世界最強の勇者と対面するのだ、生半可な装備や武器では一瞬でやられてしまうだろう。
私は用意した持てる限りのアイテムと武具を魔道具に詰め込み準備を完了させたのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〜あとがき〜
読んでいただきありがとうございます♪
次回はついに物語の要である最強の勇者登場!?
果たしてチートを使わずにどのような攻撃を仕掛けて来るのでしょうかお楽しみに!
執筆をする励みになるので星や感想お待ちしてます♪
ぜひぜひ宜しく御願い致します( ´∀`)
そして、明日は描き溜めたいので少しお休みさせていただきます(予定なので不明)
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