operation 1 任務の受理
コツコツと音を響かせる廊下は暗く、自らの姿すら視認するのに苦労するものであった。
「また……汚れた、執務長に代えの隊服を用意して頂かないと……」
私は、体に付着した血の量を見て洗濯等では取り除くことは出来ないと悟り隊服の上着を脱ぎ捨てる。
血で重くなった隊服を脱ぐと少しの解放感が全身を脱力させる。
ふと、目の前に現れたのは髭面の執事服を纏った老紳士パルムである。
「おや、ツヴァイ殿早かったですね。流石は我々の組織最強の部隊である諜報暗殺部隊 ワカバの副隊長様」
「その名前で私を呼ばないでって、言ったわよね……」
私はパルムに殺意を向けながら睨みつける。
しかし、パルムは長年の経験と実力からか怯むことも顔色を変える事も無くこちらを見透かした。
「これは、失礼を致しました……数100歳というのに永遠に近い時間を生きるエルフの末裔メスティス殿」
「もう良いわ、貴方とお喋りをする程の時間は無いの……次の任務があるか」
私はパルムを横切り通路の最奥に佇む扉を開ける。
「やぁ、メスティスもう任務は終わったのかい?」
部屋の中には赤髪と緋色の目、そして紅色を基調した煌びやかなスーツを着た無表情に近い優男であった。
「はい、任務は完了しました。我々の存在を探っていたのは西の町にある小規模ギルドでした……どうやら貴族に依頼されて捜査していたのでしょう」
「そうか、もちろん始末して来てくれたのだろう?」
「はい、今回の関係者の中で名前の割れている者は情報を割り出した後処分致しました。こちらがその資料です」
シワひとつ無い資料は上司に対しての忠誠と信頼を示す証でもある。
しかし、暗殺等の任務では流血や返り血等によって貴重品が汚れる事があるがこの界隈の場合は仕事の出来ない無能として消される場合が殆どである。
汚れがない資料には貴族の隠していた
「なるほど、君を買った奴隷商の商品はあの貴族達から仕入れていたという訳か。つまり君は一種の復讐を成し遂げたという訳かおめでとう」
「勿体無いお言葉に感謝しております……」
赤髪の男は単調な拍手を少女にしており、少女は地面に跪き深く男の行動に対して感謝する。
「帰還して早々次の依頼だが、君に任せる事は出来るだろうか?」
「閣下の命令とあらばこの身の疲労等とるに足らない物です」
「そうか、しかし今回の依頼を受ける前に少しだけ休暇を持たせよう。と言っても一日足らずだが」
「いえ、直ぐにでも依頼を遂行して参ります」
すると、閣下と呼ばれた男は優男のような無表情に近い顔色を変えてこちらに殺気とオーラを当て覗き見る。
「おい? お前は誰の所有物だ?」
「申し訳ございません! この身この力余す事無くディアボルス閣下様の物です」
「ふむ……すまない、悪い思いをさせてしまった」
ディアボルスはこちらに向けた圧縮された殺気とオーラを一瞬にして掻き消し元の無表情に近い優男の顔に戻る。
「今度の依頼は君にも関係があるはずの大切な依頼だ」
「私に関係がある?」
「そう、君の出自に関する依頼でありこの世界の理を捻じ曲げる可能性がある依頼」
今まで私に対して閣下が「大切な依頼」と言ったのは大戦を起こそうとしていた数十の国家にいる貴族や王族の暗殺及び内部工作と破壊を要する依頼であった。
その際、私の部隊を含めた諜報暗殺部隊は100名近くの死者と行方不明者を出した物であり、私自身も数ヶ月昏睡状態となった。
「──転移者にして勇者……タカサキ・ヒトミをこちらの仲間にするもしくは始末する事、それが今回の依頼だ」
「──!!」
転移者にして勇者タカサキ・ヒトミは人間ながら魔王を単独で討伐した怪物であり、私の父と母だった人を殺害し、自らの同胞を全て根絶やしにした勇者である。
「しかし……転移者タカサキ・ヒトミは100年近く前に行方をくらませており、確固たる情報は掴めずにいます。それに、勇者は人間……数100年の長い月日を生きる事など出来る筈が──」
「可能なのだよ、100年以上の月日を人間でも生き続ける事は」
人間は長くても八十歳を超えると身体的機能が著しく低下し、自らの技量のみに頼った達人でも無ければ生活を続けていく事すらこの世界では厳しい。
「──あるいはそれが勇者に課せられた呪いでもあるかもしれないね……」
「……呪いですか?」
「これは恐らく私を含めた数名しか知らないと思う事だが勇者が授かった《神力》は強すぎるがあまり能力の発動と同時に代償を払う必要があるらしい。この、代償の内容と共に君に調べて来て欲しいのだ」
「代償……その代償のせいで勇者は100年経った今でも生き永らえていると言う事ですか?」
勇者の持つ《神力》がこの世で最も恐ろしい事はこの世界にいる者のほぼ全てが知っている事だが、代償を必要とする事は誰も知らず無敵の能力に弱点があるという事が分かり、依頼を完遂する鍵になった。
「そういう事だな。改めてお前に問おう、命の補償は出来ない危険で大変な依頼だがお前は受けてくれるか?」
「──了解致しました……ディアボルス閣下」
私はディアボルス閣下を一瞥し、踵を返すように部屋を後にした。
扉の近くにいた老紳士ことパルムは居なくなっており、私は自分の部屋へと戻る事にした。
◇
ディアボルス閣下を中心としたこの組織には役職や階級に近いものが存在しており、粛清や事故、暗殺、自決によって組織表が変更されるのは日常茶飯であった。
「──今日の階級表は変更無しか……」
────────────────────
・特位階級 統括閣下 ディアボルス
補佐元帥 ペンネ
部隊司令長 アダマン
・特位階級(部隊) 暗殺諜報部隊ワカバ
侵入情報部隊シキ
・第一位階級 執務長 ガルラ
監視長 ロイ
・第一位階級(部隊) 経理事務部隊ポンド
人材教育部隊ペレ
・第二位階級 部隊専用室長 レナーデ
部隊物資補給長 パンク
・第二位階級(部隊) 医療部隊 ポーラー
調理部隊 ファト
以下の階級は
────────────────────
階級表を確認し、自分の部隊が白呼と黒呼になっていない事に少し安堵した。
白呼と黒呼は任務失敗による階級の降格によるものであり、白呼と黒呼になった者は次の階級表の更新まで重要事項以外を口外する事が出来ず、他の部隊や階級からの命令を
私自身、閣下に買い取られ部隊に配属された直後に何度も失敗を繰り返し、白呼と黒呼に降格された事があったが、あの時の恐怖と苦痛は今となっても忘れられない。
「おっ、組織のエリートにして期待のエースツヴァイさんじゃねぇか?」
私の目前に姿を現したのは侵入情報部隊シキの
「アリシア、こんな所で何してるの?」
「にしし、期待のルーキーメスティス様が黒呼に落ちていないか確かめに来たってだけだ」
「あら、アナタこそ白呼か黒呼に落ちていなくて良かったわね」
「はっ、言ってくれるなこの野郎」
アリシアは組織に入ってからも明るい性格と男の子のような口調は変わらず、いつも周りを笑顔にさせるのが得意なムードメーカーである。
彼女は仕事と私事に区別が付いており、私が落ち込んだ時や辛い時に親身になってくれた部隊の中で最も尊敬できて信頼出来る親友であった。
「アリシアは次の依頼まであとどれくらい?」
「そうだな、あと数日位で休暇が終わるからその後からだな」
「なら、街に行きましょうよ! 私もあと数日のうちに次の依頼があるから」
「もちろんいいぜ! ってかお前の次の依頼はなんなんだ?」
私はアリシアと街に行くことが楽しみで閣下から承った自分の依頼を忘れる所であった、多いに反省をしておこう。
「えっと、私の次の依頼は単独でターゲットの確保もしくは暗殺よ」
「へぇ、お前も何かと大変だな」
「アナタ程では無いわよ、情報を手に入れて来るのはただ暗殺するよりも難しいから」
「ははっ、まぁそうだけどな。ちなみに私の依頼はな、とある冒険者の情報の確保つまりの所そいつの元で弟子になるって事だな」
冒険者はギルドから多額の懸賞金や権利の提供によって儲かる仕事であり、今最も人気のある職種でもある。
冒険者の称号は銅、銀、金、プラチナ、ダイヤモンド、オリハルコン、レジェンドに分けられている。(鉱石名等の有名な名称によって簡略化するため)
冒険者は自分の意思を引き継ぐ者達を弟子として迎え入れる事が多いがその殆どがダイヤモンド級冒険者の近くで甘い汁を貰いたいだけである。
しかし、組織が情報を欲するのであるなら裏社会に関係ある、もしくは組織に敵対するギルドである事が多いと聞く。
「私が情報を入手する冒険者は前から探りを入れていたんだけど、何人かが行方不明になっていて私が出る事になったの」
「そっか、やっぱ大変なんだ。でも、何があっても無理だけはしないでね。私、アリシアが居なくなったら寂しくて冷たいだけの殺戮マシーンになっちゃうからね!」
「メスティスは本当に面白いわね、いいわ絶対帰って来てあげるだからさっさと血まみれの下着を脱いで街に行きましょ」
冗談を入れた談笑をしてから、私は部屋に戻り血まみれの下着を脱ぎ捨て、執務長にから受け取った隊服を部屋のハンガーに掛ける。
そして、街に行くための私服を用意し、アリシアが部屋をノックするまで少しの仮眠を取ることにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おやおや、次の舞台は町のようですね〜
次回はほんのちょっぴりバトル要素もあるみたいなのでお楽しみに( ^∀^)
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