第24話 会えたら
テレビの画面では、圭が、インタビューに答えている。
『天才ピアニスト役ということで、役作り上、どんなところが、大変でしたか?』
インタビューをしているアナウンサーの女性が圭にきく。
『そうですね。ピアノの練習は、かなりやったんですけど。なんといっても、天才役でしょ? 正直、ちょっと、不安でした。それも、どちらかというと、“技術面での天才”ではなくて、“その音色で、人の心を開く天才”という設定なんですよ。それって、どんな音色だろう?って。いろいろ考えました』
圭が、いつもの柔らかな笑顔で答えている。今は、少し低めの声で話している。
普通にしゃべっているときは、圭の声は、少し高めで、甘い。
でも、インタビューに答えるときや、少し真面目な場面で、人と会話するときは、低めの落ち着いた声で話す。
演じる役やシーンによっても、彼の声はいろいろに変わる。
今は、穏やかに笑いながら、真面目に答えている感じがする。
圭が、唇の両端を少し上げて優しく、ふっとほほ笑んだので、インタビュアーの女性が、すかさず、
『それです~! そのほほ笑み! それもこのドラマの見どころだって、ハマる人続出って言われてますよね』
『え、そうなんですか。いや、ちょっと、照れちゃいます。いやあ、ありがとうございます。
でも、見どころと言えば、演奏会のシーンで使わせていただいているコンサートホールも、けっこう注目してほしいところなんです。小さくても、音響効果の素晴らしい会場が多いんです。会場の音響のすばらしさプラス、ピアノの音色の良さ。
どの会場でも、調律師の方が、とても素晴らしいお仕事をしてくださって、そのおかげで、演奏シーンが、何倍にも素敵になってると思います』
『演奏会のシーン、ピアノの音色が素晴らしいって、それに、妹尾さんのピアノに向かう表情が、ほんとに美しいって、とっても評判ですよね」
インタビュアーが熱心に言う。
(なんか、インタビュアー個人の感想もかなり入ってるような気がするのは、気のせいかなあ?)
佳也子は思う。
『各地のグルメの食べ歩きシーンも話題ですよね。
いろんな自治体がぜひうちに来てほしい、ってロケ地候補に名乗りを上げてるって聞きましたけど』
『そうですね。ありがたいことですよね。相方の伊原さんとも、今度は、何が食べられるかな?って、いつも楽しみにしてます』
マネージャー役の芸人さんの名前を、嬉しそうに口にする。プライベートでも、仲がいいのだという。
プライベート、か。
佳也子が知っている、圭のプライベートの姿は、ほんの少しだ。
彼の、東京での姿は、テレビの中の姿だけだ。
日常は、知らない。
圭が、よく行くお店や、美味しいと思っているもの、素敵だと思った景色、そういうものを、彼は、こまめにメールで送ってくれる。
けれど、普段、圭が、どこに行って、誰と会って、どんな顔で、誰と話して、何をしているのか。
佳也子は、何も知らない。
見ることができるのは、画面の中の圭だけだ。
インタビューならまだしも、ドラマの中の圭は、やはり、ドラマの中の人物だ。
佳也子は、時々、本物の、圭本人に、会いたいと思う。
いや、正直に言おう。
時々、じゃなくて、もっといっぱい、会いたいと思う。
毎日が無理でも、1週間に1回でもいいから、目の前で笑っている、圭に会えたらいいのに、と思う。
ここにいるよ。
ここにいるよ。
だから。
だから、
……会いに来て。
佳也子は、心でつぶやく。
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