ぱっといけって、ぷー!(3)


「マリ、実は……お願いがあるんだ」

 ハールは、少し言いにくそうに言い出した。

「え? 何?」

 急な話の変化に、マリはきょとんとした。ハールは、少しうつむき加減だった。

「実は……マリの時間がほしい」

「え? どういうこと?」

 ハールは、情けなさそうな顔をあげた。

「申し訳ないが……。私は、まだまだ未熟な先生らしい。マリに合わせて授業を続けるつもりだったけれど、そうできそうにないから」

 ラインヴェールの言葉を思い出した。

 自分のせいで、ハールは先生として失格だなんて……。そんなの、嫌だ。

 今度はマリがうつむいた。

「いいんだ、先生。あたし、授業を受けられなくても」


 大事なのは、授業じゃない。

 一緒に学ぼうと言ってくれた先生がいること。いつも、側にいてくれること。

 だから、もっと小さな子供たちのクラスでもかまわないし、学校に行けなくてもいい。それでもきっと、学べることがある。

 ハールが、椎の村にいてさえくれたら……。


「……じゃなくて、どうしても授業についてきてほしい。いや、そうさせるから……補習の時間を作ってほしい」

 マリは、口をポカーンと開けてしまった。

「い、いや、マリが忙しいのは、よくわかっている。時間がないだろうことも。でも、どんな時間でもいい。休みの日でも、授業のあとでも。場所だってどこでもいい。馬小屋でも、馬車の中でも。だから……」

「で……でも……」

 マリは、山ほどあった書類の山を思い出した。

 補習となると、あの書類がさらに増えることになるだろう。

 それって、先生の負担が大きくない?

 みんなにえこひいきって、思われない?

「できるだけ早く、みんなに追いついてほしいんだ。差し出がましいのは、わかっているけれど……」


 えこひいき……って、思われても……。

 ま、いいか!


「先生、大好き!」

 マリは、ハールに飛びついて叫んだ。

「え? えええ!」

 その衝撃で、ハールはひっくり返ってしまった。

 マリは笑った。

 ハールは、やっぱりちょっぴり頼りない感じ。カシュのようなたくましさがない。でも、カシュと同じように……いや、それ以上に温かい胸だ。心臓の音がドキドキと妙に早い。

「先生、ありがと。それと……ごめんなさい。ひどいこと、言って」

 マリは、やっと素直に謝ることができた。

「え? ひ、ひどいこと?」

「うん、あたし、先生にひどいこと、言ったと思う。でも、本当は、先生が一緒にって言ってくれたこと、すごくうれしかったんだ」

 ハールがいなかった日々の寂しさを思い出して、マリはぎゅっと抱きついた。

「い……いや、その……。気にしていない」

「よかった。あたし、先生があのまま、もう戻ってこないかと思っちゃったよ」

「まさか……あははは……」

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