自宅にてー日記

 ○月○日――


 自宅にて。

 アリアに追い出されるようにして、たった一日で帰ってきた。

 しばらく仕事を休むので、時間がある。ゆっくり書く。


 アリアの心配が、よくわからない。

 どうやら、私は女性に対して馴れ馴れしすぎるようだ。あまり、優しいからといって、頼りきるのも問題なのだろう。

 だが、どうしても不安ばかりで、優しくされるとつい頼ってしまうのだ。

 それがまずいのだろうか?

 椎の村人たちは、皆、知り合い同士。何十年と顔をあわせているのだから、今更、恋愛事が生じるとは思いがたい。新たな顔は、興味深いだろう。確かに恋の相手には絶好かも知れない。

 気をつけなければ……。


 そう思ったのが災いしたようだ。


 家に帰ってきた日には、まだまだ動けないと思ったが、シアが心配して様子を見に来てくれた。

 アリアが言う通り、私は頼りなくて放っておけないタイプなのだろう。申し訳ないことだが、まだまだ一人暮らしになれていないし、胸の痛みも取れていないので、ありがたかった。

 だが、変な態度を取ってしまった。

 食事も用意してくれて、掃除もしてくれて、水も瓶いっぱいに入れてくれたというのに。

「いろいろしてくれてありがたいのですが、私はあなたの気持ちには応えられません」

 誤解のないようにはっきり言ったのだが、シアは目を丸くして「はぁ?」とだけ言った。

 どうやら、彼女の眼中に私はいなかったらしい。帰りがけに、ラインヴェールに頼まれて来たことを打ち明けられて、恥ずかしかった。


 少し、自意識過剰になっているかも……。

 シアにとって、私はきっとおかしな男に映ったことだろう。


 昨日今日と、村の人たちがお見舞いにきてくれている。

 たった数日間、それも役立たずの教師だったのに、期待してくれているようだ。

 マリの心配を考えて、リューマの子供たちに悪い事態にならぬよう、転んで崖から落ちたことにしておいたが……。そそっかしいと思われるのは、あまり気持ちがよくないことだ。

 それにしても、村の人たちの期待を考えると、もうやめてしまいたい……とは、言い出せない。

 だが、もう教師を続けるのは、私には無理だと思う。

 どうしたらいいのだろう?

 学び舎から呼び出しでもかかればいいのだが、そんな前例は聞いたことがない。

 どうしたら、学び舎に戻れるのか……。

 そればかりを考えてしまう。

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