第28話 馬車に紛れ込んだ女性
ララシュトの王には1ヶ月くらいは連れていくのにかかるとシラハは言ったが、特に期限が決まっているわけでもないため少しくらいなら大丈夫だろうと、シズハと二人で観光をすることにした。
国が違えば景色や建物も随分異なり、本で見た事よりも実際に自分の目で見たものは記憶に残りやすい。
今はこうして二人で旅をしているとしても、いずれはそれも終わり一国の姫とただの騎士に戻ってしまう。
それならば、ララシュトに着く前に色々な経験をしてもいいのではないか…。
そんな風に理由を付けて、シズハと二人で回る商店街。
今このナゴミという国は新しい文化が入ってきたばかりで、道行く人の衣装もキモノに新しい文化を取り入れたものだったり、食べ物も元々食べられていたものをアレンジして売っていたりと独自に進化しているものが多い。
これは何ですか?あれは何というのでしょう!と言いながら走り回っているシズハを見ていると、まるで子どものようでもありその質問の先に自分がいる事を喜んでいる自分がいて、今まで任務だから仕方なく立ち寄ったという理由でしか、街を見れなかったシラハにとっても新鮮さが増していた。
「旦那様…ええと、少しお腹がすきました」
「ふっ…、あれだけはしゃいでいたら当然だな。何か食べたい物はあるか?」
「実は、先程からすごくいい匂いのするお店が気になっています!」
シズハが指さした方向を見ると、そこには︎︎“うどん・そば安兵衛”と書かれた看板がある。
ナゴミ国では一般の生活に馴染んでいる食事だが、シズハはもちろん食べたことがないだろう。
提案に同意し2人でのれんをくぐった。
明らかに他所からきたと分かる容姿に、店の中にいる人は一瞬びっくりしたようだが、店員が快く案内してくれオススメを2つ注文した。
シラハはナゴミ国のうどんもそばも食べた事があるため、どういうものかということは知っていた。
果たしてシズハの口に合うだろうか?
「はーい、おまちどお!」
専用のおぼんに乗せられてきたうどんはたっぷりと汁がかけられており、アクセントに乗せられたネギと薬味にショウガやゴマなどが小皿と一緒に提供される。
それだけでなくテンプラという大きな野菜や海鮮がうどんに乗せられるのを待っている。
「わぁ!美味しそうです!」
目を輝かせながらシズハはシラハに料理の食べ方と何でできているのかを聞きつつ、熱があるうどんに息を吹きかけ口の中へと運ぶ。
口から鼻に抜ける出汁の香りが、初めて食べたシズハを感動に飲み込んでいく。
弾力があり噛み心地のいい麺と、サクッと揚がっているテンプラはそのまま塩でもうどんに乗せても最高だ。
幸せな時はため息が出ると言うが、今まさしくそういう状態である。
「ほわぁ~…」
「口に合ったようで何よりだ」
「これは…旦那様と一緒でなければ味わえなかったものです…素晴らしい…」
いつもならあまり食べない量の食事をたいらげ、満足そうにしているシズハ。
今なら一国の姫だと言われても嘘だと言われるに違いない。
お腹を満たしたところで感謝を言い、お代を払って店から出る。
すると何やら騒がしい雰囲気がある道で、この国ではサムライという兵士が走り回っているようだ。
「何かあったんですか?」
道の脇に立っている男性に声をかけ、何があったかを聞くとどうやら人探しをしているらしい。
白髪で長い髪の女性らしく、見かけたら連絡するようにとおふれが出ているようだ。
何をやらかしたのかは知らないが、こんなに探し回っているということは重要人物なのだろう。
シズハとシラハにとっては特に土地勘があるわけでもないので、関係ないだろうと思いまたある程度観光をし泊まっている宿に帰った。
部屋に戻る前にアダマスとアルクに会いに行き、餌やりとスキンシップを取った。
-ガタンッ!-
スキンシップを取っている最中、誰もいない馬車の中から物音がした。
シズハを自分の後ろに隠しながら、馬車の中の様子をうかがうシラハ。
「-っ!いたたた…」
そこには白髪で長髪を三つ編みにした同じ歳くらいの女性が、シズハがいつも寝ているベッドから寝ていて落ちたらしく、ぶつけたところをさすっている。
「俺の馬車で何してるんだ」
「わっ!?えっ…あっ…もしかして…この場所の持ち主…」
「そうだが…」
「すまぬ!昨日はよく眠れなかったため、ここならば大丈夫だろうと…ベッドにつられて疲れを取ろうとしただけなのだ…」
「許可した覚えはないが?」
「すまぬ…、勝手に使ってしまった事に関しては謝罪する…」
よく見ると、そのしょぼくれた顔はどこかで聞いた事のある容姿だった。
「もしかして…」
「待て…待ってほしい!私をここから連れ出すなどと思わんでくれないか!」
口に出さずとも、街中でサムライたちが探していた本人がどうやらシラハ達の馬車に紛れ込んでいたようだ。
「何か…訳ありなのですね…?」
シラハの後ろからひょこっと顔を出したシズハに、少しだけその女性も警戒を解いてくれたようだ。
シズハが自己紹介をすると、その女性はフウと名乗った。
「フウさん、良ければ私がお話を聞きますね」
とシズハが言った矢先、フウのお腹がぐぅぅ~と鳴る。
「うぅ…すまぬ…、お腹が…お腹が空いた…」
シラハが何か買ってくると、ケライノを馬車の前に配置させ食べ物を買いに出て行った。
待っている間フウの事について聞くと、フウは家出をしていると言っている。
親と喧嘩をしたようで、黙って抜け出してきたらしい。
ただ、普通の親子喧嘩であれば親や親せきが探すことがあっても、街中に大々的におふれが出るまでにはならない。
サムライが走り回っているということは、おのずとそれなりの身分であるという事を証明していた。
シズハも家出…とは言い難いが、身分があり理由があって帰れない状態が似ていると心の中で共感している。
「どうして家出を…?」
「父上が…許嫁を連れてきて…」
シズハと一緒だった。
自分が望まない人との結婚を素直に受け入れられるかと言われたらそうではない。
シズハも船の上で飛び降りてしまいたいと思うほど、突然変わってしまった状況を受け入れられずにいた。
きっとフウもそうなのだろう。
「父上は私の気持ちなど考えておらぬ…。そんな許嫁より、私はとっくに…」
何かを言いかけてフウが言葉を詰まらせた。
「心に決めていた人でもおられたのですか?」
「なっ…なぜ…なぜわかるのだ?」
「いえ、文脈的にそうかなと思っただけです」
「そう…か。でも…当たっている、その通りだ…」
どんな人なのかを聞くと、もともとは幼い頃から交流のあった幼馴染で、ある程度歳を重ねてからはフウを守るサムライとして傍にいたようだ。
だが、フウの気持ちを知ってか知らずか、フウの父はその男性をフウから遠ざけることを選択し、側近から解雇したあげく国から追放してしまった。
今は離れ離れになってしまったフウはその男性がどこかできっと生きていると信じ、いずれ自ら探しに行こうと思っていたようだ。
その男性について手掛かりはあるのか聞くが、フウは首を横に振る。
「名前をお聞きしていいですか?」
「彼の名は…ふ…フウマと言う…」
「フウ…マ?」
聞き覚えのある名前だった。
それもそのはずだ、シズハの城にその名前の男性がいたのだから。
「えーっと…、容姿は黒髪でポニーテールの藍色の瞳の男性だったりしますか?」
「な…なぜ、なぜフウマの容姿がわかるのだ?まさか、フウマの事を知っておるのか!?」
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