第23話 上に立つ者
煌びやかな装飾が邸宅にちりばめられており、来客者としてその家を訪れるものはそれに魅了される。
自分や持ち物、そして身の回りにいる者まで着飾ってこそ、自分の権力をこの世に知らしめ従者を増やすことができる。
管理することは大変だが、金が欲しいものや権力に弱いものは扱いやすい。
ある程度の実績があれば胡麻をすって近寄ってくるものだ。
「今月の収入はどうだね?」
モブリシャスは従者にまとめられた報告書を満足そうに眺めている。
思った通り、水の供給量が減ってきているせいか買い求める客も多い。
人間だけでなく動物にとっても欠かせない水ほど儲けられるものもないだろう。
『ふふ…思った通りだ…。必要最低限の水をとめる事はしないでおいてやるが、この町での水の価値は高い。このまま収入が良ければ私の別荘を建てられる日も近かろう。そしていずれ私の名を全土へと広めてやるのだ。一つの国を持つことも夢ではないな』
「モブリシャス様」
報告書をまとめてきた従者が放ったその一言で、ご満悦で報告書を眺めていた顔が真顔に戻る。
「何だ」
「少々下界で不穏な動きがございます」
「ほう…、してそれは?」
「何やら外からやってきた者が、水路工事の事や周辺について嗅ぎまわっている様子」
「ふむ…ゼルガー、お前は鼻が利くな。よかろう…その外からやってきた者は、切るなり売るなり好きにするとよい。それが今回のお前のご褒美だ」
「かしこまりました、では次にご報告に上がる頃には決着をつけてまいります」
――――――
「そういえば…手に入れたドラゴンのたまごはいつ孵化するかわかるのですか?」
「ある程度ならわかるかもしれないが、それも確定じゃない。もしかしたら条件があるかもしれないから、予想してもはずれるかもしれないな」
エルデがオーブを置き立ち去った後、2日間作業と休憩で過ごしたシラハとシズハは、ディスフィアが現れるのを待っていた。
無事に水路が完成し、今は水がきちんと流れるかどうかの試運転を行っているところだ。
流れ始めても最初は生活用水として使うにも時間がかかる。
途中で漏れ出している場所はないか、どこかで溢れそうになってはいないか、行った先できちんと貯水できているか等。
設計がいかにきちんとできていようとも、自然を相手にする以上使う前も使ってからも定期的なメンテナンスは欠かせないのだ。
この水路がきちんと使えるという状態になれば、ラブルもキンネも完成を祝って式典が開かれることだろう。
だがその前に、一つ片づけなくてはいけない事が残っている。
「やぁ、二人とも調子はどう?」
2日後会う約束をしていたディスフィアが帰ってきた。
水路が繋がりラブル側にも通路ができた事を伝え、現在試運転の状態だと言うとディスフィアはとても嬉しそうに話を聞いていた。
「こっちも準備は整ったよ。とありあえずイウロという男は捕えて自供させた。少しは粘るかと思ったんだけど、案外すんなり白状したもんだから少しつまらなかったなぁ。あぁそれと、ジャスティーニっていうのがいるでしょ?あの女性好きの…。あの人ともう1人踊り子の担当してたスカリーナは僕の部下なんだ。情報収集のためにいろいろこの辺で動いててくれてたんだけど、シラハとシズハが来てくれたおかげで証拠集めもしやすくなったし、実際こうやって水路も繋がり皆が生活に困らなくなるまであと少しのところまできた。本当にありがとう」
「いえ、たまたま通りかかったときに助けを求めてきた少年がいたので、泊めてもらうことの交換条件に調査しただけですから」
「ふふ、まぁいろいろ落ち着いたら祝賀会でも開こう。水路の完成、そして僕の治める領土の拡大を祝って!それに…それなりに権力がある人達には名の知れてる、女嫌いだって噂のシラハが結婚して奥さんと旅行してるなんて、僕でも興味あるし…」
「…お手柔らかにお願いします」
これから一番上でのけぞっているモブリシャスを引きずり下ろさなくてはならない。
そのためにディスフィアは一つ案を出してきた。
「街で盛大に祭りを開こうと思う」
実はこの二日間で近隣に住む住民に、モブリシャスの許可は取らず祭りを開催することを知らせてまわっていた。
場所はラブルだがキンネはもちろんの事、ハルクートやテースタからもお客さんが来る予定だ。
しかもディスフィアはその地域の貴族も呼び、盛大にもてなす事を約束した。
食材の確保や材料の搬入などやることは多かったが、普段からディスフィアは商売においても取引が上手で、相手に対する敬意や気遣いも忘れる事はない。
それが功を奏したのか、祭りを開けるほどの人員や材料もあっという間に揃えてみせた。
ディスフィアだけでなく、今回はやる気のなさそうなディスタンスですら動かしたようだ。
これが本来信頼された、上に立つ者の行動と結果である。
そしてその祭ではイベントも行われる。
腕自慢達による賞金ありの剣技大会に、シラハを出場させたいらしい。
それだけ派手に祭りを行っていれば、誰の許可があって開催しているのかと、モブリシャスは怒って前に出てくるだろう。
その時を見計らって、モブリシャスの悪事を公衆の面前で暴くという寸法だ。
「ただ一つ気がかりがあってね、モブリシャスの部下にゼルガーというとても腕の立つ剣士がいる。もしそのゼルガーが前に出てきたら、ジャスティーニですら歯が立たないかもしれない」
ディスフィアが手を出せなかった理由の一つにそのゼルガーという剣士の存在があった。
いつから彼がモブリシャスの元で部下としているのかは定かではないが、腕は確かでありその強さは自然とディスフィアの耳にもはいってきていた。
盗賊を一人で倒してしまった事や、モブリシャスの事を狙う輩がいれば表立ってではなく、いつのまにかその輩が死んでいるように静かに殺したりする…等、相手にはしたくない存在だったのだ。
しかし今ディスフィアにとっても好機のようで、シラハという存在がこちら側にいてくれるのは大きい。
「それで私にゼルガーが出てきた場合も含めて剣技大会に出てほしいと言うことですか…」
「そういうこと、どう?いけそう?」
「あまり目立つ行動をとりたくないので、仮面とマントを用意していただければ…」
「それなら出てくれるんだね?よし、分かったすぐに準備しよう。まぁ…君が負けることは考えてないよ。だって…それなりのところにいる人だからね」
「ゼルガーがどの程度の人かはわかりかねますが、誰が相手であろうと私にも目的がありますので、ここで負ける事はないでしょう。ただ、それなりの報酬は用意しておいてくださいね」
「もちろん、まかせておいて」
話が終わると、シラハはシズハとの2人の部屋を用意してもらえるように頼んだ。
会話を終えて部屋から出て後、後についてくるシズハの顔は案の定暗くなっている。
「不安か…?」
「はい…とても…」
「そうだな…、シズハは俺が戦っているところを見るのは初めてだからな…」
「旦那様の強さは…なんとなくですがわかります。普段の行動、周りを観察する目、実はこそっと一人で身体を鍛えていらっしゃることも…。私も城でたくさんの騎士を見てきましたから、彼らの動きを見ておりましたので、旦那様がそれ以上であるというのはわかります。でなければ私を迎えに来ると言う任務も与えられなかったでしょう…」
「見られていたのか…、まぁ…毎日どこかで鍛錬はしないと身体が鈍るからな…」
「それでも…お怪我をされたらと…考えてしまいます」
シズハはシラハの手をゆっくりを握り、顔を見上げた。
「私にできる事は応援だけですが、待っておりますので…、無事に帰ってきてください」
「あぁ…必ず」
不安そうなシズハを安心させるように、握ってきたその手をシラハは握り返した。
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