第22話 エルデ
焦げ茶色で巨大な体は、人間を軽く5人は乗せて飛べるだろう。
世の中にドラゴンにまつわる伝説や物語はいくつも残っているが、実際に人間が近くで接しコミュニケーションを取ったいい報告は少ない。
それもそうだ、ドラゴンはこの世界では神に近い、または神として崇められるような存在なのだ。
だが、過去にはその内なる好奇心を抑えられなかった者や、その力に魅力され自分の物にしようとした人間は、ドラゴンの大人ではなく子を狙い実験をした。
結果、反感を買った人間の街を滅ぼしたという記録も残っている。
この目の前にいるドラゴンが人間に対してどういった感情を持っているのかはわからない。
自分たちに向かって攻撃をしてくる可能性もある。
「気をつけろ…」
そう言いながらシラハは先頭に立ち、ドラゴンを無闇に刺激しないよう少しづつ近寄る。
それであってもドラゴンは自分の周りに何かが来たことに気付き、閉じていた目を開けた。
「そうこそこそせんでもよい…、汝らがこの空間を繋ごうとしていた事はとうに知っておった。こそこそしたところで何も変わりはせぬ。して人間よ…我に何用か」
このドラゴンはすぐに攻撃をしかけてくるタイプではないようだ。
警戒を解き自然な体制で立つと、シラハはドラゴンを見上げ話しかけた。
「勝手に立ち入った事ご容赦願いたい。俺はシラハ・クレーエという。今この周辺の地域に水を運ぶため皆で協力して工事をしているのだが、隣にある地底湖にて水位の変化がみられており、その調査のためにここへ来た。もし可能ならこの場所も調べさせていただきたい」
「ふむ…。我はエルデ、ここは一時的な我の寝床としている。…がそろそろ旅立とうと思っていた所だ。調べるというのなら好きにするがよい」
ドラゴンの許可もおり、心置きなく白羽達は辺りを調べ始めた。
その様子をドラゴンも見守っている。
穴があいていることで空からの光が降り注ぎ、この場所は他のところより調べやすい。
「何か分かった?」
ある程度辺りを見回ったところでシズハが尋ねるがシラハは首を横に振った。
「先程から見ていれば、奇妙な力をそのシラハとやらは使う。ゲシックト族か?」
見守っていたドラゴンがシラハの技術を見てそう言った。
シラハがそうだと返すと、ドラゴンはさらに続ける。
「ゲシックト族…ふむ、汝はゲシックト族がどのようにして今の技術を得たか知っておるか?」
「遠い昔に当時の王になった人が、この技術を研究しそれが発展していったと俺は聞いている」
「そうか、半分正解だが伝わっていない事があるようだ。当時の王は我のようなドラゴンとの契約によりその力を得ている」
「なんだって…?」
昔『クロウ』という名で機械のドラゴンがいたという。
その機械のドラゴンは古代の技術により廃棄されていたものが、ドラゴンとして形を成し出来たのだという。
そしてゲシックト族が誕生したのは、そのドラゴンは何等かの方法で人間と契約を結んだ時だ。
エルデは詳しい事はよく分からないらしいが、そういう事があったというのはドラゴンの間で伝わっているようだ。
機械を操れるようになったのも、そのクロウとの契約のおかげなのだろう。
シラハもしらないゲシックト族の事。
ドラゴンは長命種という事もあるため、もしかしたらいつかそのクロウというドラゴンにも会えるかもしれない。
「とりあえずこの場所はエルデがいる事もあって、何か他の者が細工をしたりすることは出来なかったはずだ…。そうなると別に原因があるかもしれないな…」
「私…まだ旦那様に言ってなかったのですけれど、少し地脈が読めるので、探ってみましょうか?」
「そうか、それなら頼みたい」
シズハは精神を整え呪文を言い、辺りの自然の流れを調べた。
対象を水に絞り地面の中の状態や流れを確認する。
魔力をその流れに沿って流し、地底湖の周りに何か原因になるようなものがないかを確認した。
その調査中、奇妙な光景がシズハの中へと流れこんでくる。
それはそう遠くない過去の出来事を映し出したもので、男性が二人地底湖を形作っている大きな水の流れの上流付近にいる時のものだった。
「イウロ…埋めておけ」
「しかしモブリシャス様…そんな事をしたらあの場所は…」
「かまわぬ、対して価値のない場所だ。作り直すために一時的に止めればよい。そうすればあの土地は完全に私たちが好きにできる。金もかけず出て行ってくれるならそれでいい」
シズハはそれを読み取った瞬間、地脈の流れを調べる事ができなくなりふらついた。
「シズハ…!」
倒れこむところをシラハに支えられ、少し朦朧となっていた意識が元に戻り始める。
「大丈夫か…?」
「あ…旦那様、すみません…ご迷惑をかけてしまって」
「俺はいい、何かあったのか?」
「はい…、少し過去の事になると思いますが、地脈を読んでいる最中でモブリシャスとイウロという人が何か話しているところを読み取りました」
見た内容とその場所、台詞を伝えるとそれは横にいたディスフィアにも伝わり、その事はディスフィアの顔を少し歪めた。
「なるほどね。予定より買収を早めなくてはいけなそうだ…」
「要は…自分達が好き勝手に商業ルートを作り替えたいから、水の流れを変え水不足に陥らせた挙句、街ごと人を追い出し再開発をしようとしていたという事か…」
今水路を繋ごうとして工事している事も、モブリシャスはうまくいかないだろうと分かっていたのだ。
埋めてしまった水脈を復活させることは容易ではない。
もし水がなくなってしまいその地域の人が苦しんでいようと、自分に影響のない範囲なら関係ない。
最終的に水不足になった事が自然のもので、住めなくなった住人が出て行ったとしても、それはモブリシャスにとって好都合なのだ。
再開発ができてしまえば、少額しか納めない民ではなくその場所を通らざるを得ない人々から金をぼったくればよいのだから。
「わかった、二人とも調査に感謝するよ。モブリシャスとイウロの事は、僕に任せておいて」
ディスフィアは二日後、ラブルで会おうと言い残しその場を後にした。
「シズハも少し休んだ方がいい。この場所から戻ろう」
近くで見守っていたエルデに状況を伝えその場を後にしようとすると、シラハは引き止められる。
「ふむ、少し待つがよい」
言われた通りその場所で待機していると、近くにあった木々と地底湖のほうからエルデはエネルギーを吸い上げ、一つの塊にしていく。
「この地は水に困っておるのだろう、我の力を少し使ってオーブを作った。オーブから水が出るようになっている故ここに置いていく、好きに使うといい。だが一つ忠告しておく、この空間から動かせばそのオーブは力を失う。どのようにするかは汝ら次第。では…さらばだ」
そう言ってエルデは飛び立つと、上空の穴から出て行った。
気まぐれで作ったのだろうそのオーブは、淡い光を放ちその場所に浮いていた。
そのままそこへ置いておくのも不自然なので、シラハはそのオーブに触ると地底湖の近くまで移動させ、簡易だが台座を作りそこに置く。
するとそれを見計らったかのように水がオーブから流れ出し、地底湖へと流れこんでいった。
これでもう、モブリシャスによって埋められた水脈も問題なくなるだろう。
「とりあえずは…これで水の問題も解決だな」
作業を終えてからシズハの元へ戻り抱き上げると、近くにあった休憩室へと運びベッドへと寝かせた。
2日間、ラブルで会うことになったディスフィアを待ちながら水路の工事を完了させ、ラブルにいたグロシとファルズの家に繋がる通路も作った。
後は、この地に住む人々が問題なく過ごせるように連絡を待つだけだ。
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