第7話 報酬

大きな岩を水で覆う。

その水を徐々に温めていき、人肌くらいの温度まで上昇させた。

そのまま少しの間放置する。

すると周りを覆っていた岩にひびが入り、周りを覆っていた水が茶色く濁った。

ゆっくりとその水を下に流すと、周りにあった石も砕けて一緒に流れていく。

ただ、それで終わりではない。

今度は黒い黒曜石のような輝きを放つ石が現れる。

するとシラハは借りてきたヴァイオリンを取り出し、石の前で演奏し始めた。

傍から見たら、何をしているのだろうと思われるような行動でも、シラハは確信して行動している。

演奏し始めてから少し経つと、黒い石は上から砕け、下へと落ちていく。

そしてこれでまだ終わりではない。

今度は真珠のような輝きのツルツルの石が出現し、今度は回復魔法を石を対象に詠唱する。

が、そこでシラハは少し眉をひそめた。

回復魔法は唱えられるが、得意とする分野ではなかった。


「…効果が薄いか…」


自分だけではうまくいかないことを察したシラハが、まわりにいた者たちに協力を頼むが、それでもあまり効果がないようだ。

仕方ない…という表情をしながらシズハのもとへ向かう。


「すまない…ちょっと手伝ってもらえるか?」

「…はい!」


そばにあった荷物を持ってシラハと一緒に石の前へと向かう。

状況を説明され、回復魔法が必要なのだと言われると、一緒に唱えることになった。

シズハが加わったあとは効果覿面だった。

そこにいる全員の回復と同じ量を1人で出すことが出来た為、石は崩れ次の段階へと進んだ。

火で炙り、その後水をかけ、打撃を加え…と、順番にやっていくうちに、どんどんと石は小さくなっていった。

最終的に人と同じサイズにまで変化した石。

そして、最後は手でコンコンとノックすると、周りを覆っていた白い石が剥がれ地面に落ち、本体である卵が姿を表した。

大量の岩や石が辺りに転がってはいるものの、細かく砕かれた塊は、数日あれば皆でどかせそうだ。

石が砕かれた光景を見て、周りにいた鉱夫や関係者達からは歓声が上がっていた。


「あんちゃん凄いな!皆大喜びだし、砕いた石は武器や道具色んなものに使える。それに、街で足止めを食らっていたやつらも片付けと安全が確認され次第通れるようになるだろう。いやぁ、お手柄だ」

「役に立てたならよかった」

「ここまでしてもらったんだ、よければ飯と泊まる場所くらい用意させてほしい」

「ふむ、すぐに通れそうにはないし、ちょうど泊まるところも決まっていない。お言葉に甘えさせてもらえると嬉しい」


ドルハークスはすぐに手配をしてくれた。

街中にある町の中では高級そうなホテルを用意してくれ、食事は岩が壊れたことによる宴会を開くらしく、とある酒場へと案内される。

中では豪華な料理とお酒、美味しそうな果実やデザートが並べられ、ドルハークスや町長等が迎え入れてくれた。

しかしシラハはお酒が弱いらしく、すすめられても飲もうとはしなかった。

周りにいい気分になった大人たちがはしゃいで騒いで楽しそうにしている。

町長から、岩を壊してくれたお礼にと、何が欲しいか尋ねられた。

シズハは何もしていないので、特に欲しいものはないと告げる。

シラハは少量の良質な鉱石と、ドラゴンの卵をもらいたいと話した。

町長は快く了承し、明日の朝日が昇ったら取りに来るようにとのことだった。

ドルハークスはシラハが使った技術にとても興味を持ったようで、よかったら技術を提供してくれないかと頼んできたが、白羽は自分がゲシックト族の末裔であることは明かさず、本で読んだ知識と、それを作った人が別だから協力できることはないと断っていた。

宴会が終わり宿泊の施設に着くとシズハは率直な疑問をぶつける。


「周りの方にゲシックト族の末裔だと告げると都合の悪い事があったりするのですか?」

「ゲシックト族は、今だからこそその名前を聞いてもあまり知らない人も多くなったが、100年くらい前に国が滅びた時は、その機会技術によって恐ろしい種族であることを当時の戦争相手の王が広めてしまったんだ。出会ったら殺される、とんでもない拷問具を作り出している、無慈悲なやつばかりだとね」

「そんな…カロッソさんも旦那様もそんなことありませんのに…」

「恐怖心を煽って相手は悪なのだというプロパガンダが成功してしまえば、あとは戦いねじ伏せるだけだ」


政治は綺麗なものではない。

自分こそが最強なのだと言う者が、あの手この手を使い奪い取ろうとする。

それは自国だけでなく、他国だったとしても。

金や権力を欲するが故に、本来犯罪である行為にも手を出してしまう。

そしてそれが成功し、常識となってしまった者が王位についてしまえば、あとは国民を騙せばいい。

そうやって色々な国が出来ては消えていく。

ゲシックト族もそんな国に巻き込まれてしまった国だったのだ。


「俺たちの種族は技術を高めることに喜びを感じているし、同じ仲間を大事にするんだ。当時の王は国民を逃がし、潜伏して過ごすように命じた。いずれまた来たるべき日に備えて」

「でも全員が逃げられたわけではないのですよね…?」

「そうだ、国に半分くらいの民は残った。当時は奴隷として捉えられ、罪人として扱われ、悲惨な死を遂げた者も多くいる。世代が変わり、ようやく少しずつ奴隷ではなく一人の国民として扱われるようになったが、もうララシュトの国ですらゲシックト族という存在を見る事も珍しい。多くは他の国でそれぞれの暮らしをしていると思う」


船にいたカロッソ曰く、生き残った一族はクレーエ家が王としてまた国を持つことを望んでいる。

シラハの気持ちはどうなのだろうか。

国が滅亡して100年が過ぎ、没落貴族が国をまた持つという事はとても難しい。

仲間を大事にして、心優しい種族なのであればなおさら、復活を遂げるのは容易い事ではないだろう。


「旦那様は…いつかまた自分の一家が王族になり、種族が国を持つことに対してどういうお気持ちなのですか?」

「どう…だろうな…。少なくとも今の俺は王になりたいなんて気持ちは微塵もないし、自分がその役割を果たせるだけの人間だとは思っていない。少なくとも俺の代で国が復活するなんて夢の夢だと思っている。ただ、いつかその願いが叶い生き残った一族がまた集まって、楽しく暮らせる日が来ることは願っている」

「そうですね…、その願いが叶うといいなと、私も思います」

「現状いまの王は俺達没落貴族の事に関しても、バラバラになった種族に対しても理解があるし、悪いようにはしていないからなおさらかもしれないな。さあ、話はこのくらいにしてそろそろ休もう、今日は疲れただろう」

「私は何もしておりませんので、大丈夫です。旦那様のほうこそ、お疲れさまでした」


2人はそれぞれのベッドに入り横になった。

今日は2つのベッドで寝ているが、今後宿泊した際にもしダブルベッドだったらどうしようなんてことを考えながら…。

それはその時に考えればいいか…と思いながら眠りに落ちていく。

窓から差し込む優しい月明りが二人を照らしていた。

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