第6話 崖崩れ
ハルクートを目指す二人が前方に見たのは、そびえ立つ大きな二つの山だった。
山と山は大きな裂け目のように開いており、そこを道にして行き来できるようになっている。
その手前に一つ町があった。
大きな山を越える前や、山の向こうからやってきた人の休憩場所として栄えている。
2人も山を越える前にそこで一度休憩をとることにした。
町の名前はダクハ、山で取れる鉱石が名産品だ。
ダクハについてすぐ、人通りが多い通りに入った。
が、シラハは前回来た時とは違う光景を見ることになった。
「やけに人が多いな」
1か月以上前の事になるが、前回ここを訪れて通った時は程よい人で、混雑は起きていなかった。
それが今回この町を見てみると、多くの人が滞在しているようで、どうやら行商人の馬車などが多く停まっている。
「やぁ…お前さんたち旅の者かい?」
大通りの様子を見ている2人に、道端のベンチに座った髭の長い杖を持った老人が話しかけてきた。
「えぇ、先ほどダクハについたところです」
「そうかそうか、ダクハへようこそ。と言いたいところだが、今は少し状況が悪いでの」
「というと…?」
「ちょうど1週間前だったかの。土砂降りの雨が降り2日ほど降り続いたのだが、その時にどうやらがけ崩れが起きたようでな」
「なるほど…この人が多いのは、がけ崩れによる足止めを食らった人という事か…」
「そういう事じゃ」
その老人はデングという名前で、詳細を話してくれた。
もう細かな落石やら土砂はどけてあるそうなのだが、とても大きな、そして非常に硬い石がどうしても壊せないのだという。
爆薬を使った破壊も、この町にいる腕っぷしを向けて魔力をあてても壊れない石で、作業にあたっている人を悩ませている。
その石が壊せない限り、その道は通ることができないようで、今は国に向けて要請を出しているところだと言う。
「その石、見せてもらうことは可能でしょうか?」
「ふむ、お前さん少しは腕に自信があるようじゃの?」
「多少なりは。何かお役に立てるかもしれません」
「そうかえ、ならちょいと待ちんさい」
老人は座っていたベンチから少し後ろにある家へと入っていく。
家に入ってからしばらくして、また老人は家の外へと出てきた。
「今現場にいる詳しいものに連絡を取ったでの。大通りにあるこの町の役所の前で待つといい。ドルハークスという男が迎えにくるじゃろう」
「わかりました、ありがとうございます」
老人に別れを告げると、指定された場所へと向かう。
町の中にひと際しっかりとした外装で、綺麗な青い屋根の白い壁の建物が見えた。
「あれか」
入口付近にたどり着き、中には入らず外で待つ。
すると待つこと数分、シラハたちに近づいてくる影があった。
「お前たちか、デングじいさんからの紹介ってのは。俺はドルハークス、普段は鉱石採掘現場の監督をしている」
「シラハ・クレーエという。こちらは妻のシズハだ。先ほどたまたま旅行中でここに立ち寄った際、落石との情報を聞いた」
さらっと、流れるような口調で妻のと紹介が入り、シズハはペコっとお辞儀をした。
何も言うことはないが、初めて他人に妻だと紹介される事に少し身体がムズっとなる。
「あぁ、聞いているかとは思うが、本当に硬いんだ。今まで幾度となくこの町を訪れた者たちが挑戦していったが、全く歯が立たなかった」
「爆薬や魔法も効かないと聞いてるが」
「効かない…、多少魔法で表面に傷がついたことはあったがその程度だ」
そんな硬い石は珍しい。
もし加工することができれば、良質な武器の材料になるに違いない。
「良ければ壊すのを試してみてもいいだろうか」
「かまわないが、何か策でもあるのか?」
「見てみないと何とも言えないが…、おそらく大丈夫だと思う」
「ふむ、まぁこちらとしては破壊してもらえるならなんでもいいのでな。案内する」
ドルハークスに連れられ、町を出てから15分ほど歩くと、遠くからでも目に見えて大きな石が見えた。
「でかいな…」
さすがにシラハもこんなに大きいとは想像していなかったらしい。
人間が米粒ほどの大きさに見えるような巨大な塊。
これほどの大きな石が落ちてきた時は、雨が降っていたにも関わらず地面が揺れ、地鳴りがしていたらしい。
とはいえ、見えて行ける範囲の様子を見てきたシラハは物怖じすることはなく、シズハを少し離れた大きな木の下に連れて行き、ここで待っているように促した。
「これから作業をしようと思う。危ないからしばらくここで待っていてほしい」
「…はい。旦那様もお怪我なさいませんよう、お気をつけて」
「荷物を置いていくから、しばらく見張っててくれるか?」
「はい、大丈夫です」
大きなアタッシュケースの中から手のひらくらいの小箱を出すと、ガサガサと何かを探し始め、そこから何かを取り出すとシズハに荷物を預けて現場に向かった。
周りにいた採掘場で働いていた人が見守る中、大きな石の前にたどりつくと、シラハは持ってきた小さなキューブ状のものを地面に2つ転がした。
【汝に命を与えよう…。目覚めよ…捜査機械、”エレクトラ” ”アルキュオネ”】
シラハが呪文を唱えると、地面に転がっていたキューブとその周りに魔法陣が出現し光った。
その2つのキューブは変形し、アルキュオネは羽が生え、エレクトラは足が生えた。
そして一方は上空の落石が起きた付近へ飛んでいき、一方は目の前にある巨大な石へと登っていく。
隣で見ていたドルハークスは驚いた顔でシラハを見ていた。
「少し調査させてもらう。この石の強度、がけの崩落に関する事、この石が何でできているのか…。それを知らずに闇雲にやっても仕方ない」
見た目は本当にただの石なのだ。
そこらへんに転がっている、たたけば壊れる石と何ら変わりのない、大きさだけが違う石。
捜査は機械にまかせ、データを収集するまでシラハはシズハの近くに戻ってきた。
「旦那様は特殊な技術をお持ちなのですね…」
「あぁ、これでも昔は一つの国を持っていた、機械を作るのが得意なゲシックト種族の末裔なんだ」
「そうなのですね。じゃあもしかしてカロッソさんも?」
「そうだ。昔俺の祖先が治めていた頃に、仕えてくれていた家臣の子孫になる」
「…あ、だからカロッソさんが…王子と…」
「まぁ…今はもう没落貴族だから…」
「でも、時代がまだ続いていたらそうだったと考えると…なんとなく納得がいきます…」
「…何に?」
「え!?いえ…あの、立ち振る舞いとか…綺麗な…顔立ちとか…」
「…っ」
「あぁいえ…!その…へんな意味とかではなくて…」
なんとなく照れ臭くてお互いに顔を背けながら、シラハはデータを映し出す機械を操作し内容を見ている。
「ほぉ…なるほど」
「何かわかりました?」
「あぁ…あの石、魔力で強化されてる。中にあるものを守るために」
「中に何があるのです?」
「おそらく…卵だ」
「たまご!?」
シラハの予想としては、この世界に住むドラゴンの卵ではないかとのこと。
衝撃を与えては砕けないので、壊すとしても順番があるらしい。
「少し時間はかかるが、割れると思う。ただ、やっぱり危ないからここから動かないでほしい」
「わかりました」
手順を理解したシラハはまた石の前に戻った。
「あんちゃん何かわかったのか?」
戻ってきたシラハにドルハークスが問う。
「あぁ…、この石は魔力で強化されている。だから壊れないんだ」
「で、壊し方は?」
「大丈夫だ、手順がある。その通りにやれば壊れるはずだ」
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