第5話 ショッピング

2人が上陸したのは大きな都市、ヴァネッサ。

水産業が盛んな他、織物も有名で、複雑な模様が描かれた絨毯や、身につける衣装なども凝った物が多い。

街をみているシズハの目は初めて見るものだらけで輝いていた。

2人は商店街に立ち寄り、旅にあると便利な物を揃えた。

シズハに至っては何も持っていなかった為、買ったものをしまえるショルダー付きのバッグと、着替え、他女性が必要そうな物を購入した。

ふと、出店形式で展示されていたアクセサリーのお店が目に付き、シズハは足を止めた。


「いらっしゃい、うちのはみーんな手作りだから、一点物だよ!よかったら見てって!」


可愛いマフラーやタペストリー、小物入れやピアスなど、シズハも見ていてワクワクしている。

ふと、店の隅に、白く長いリボンが垂れ下がっている。

リボンの先には羽の形をした装飾が施されており、どこかにつけたらゆらゆらと揺れて可愛いこと間違い無しだ。


「何か気に入った物あったのか?」


後ろで様子を見ていたシラハが声をかける。


「…はい、コレが可愛いなと…」


シラハに見つけた白いリボンを見せる。

お店の人曰く、切れにくく柔軟性もあり、汚れにくい素材を使用しているのだと言う。

するとシラハは購入する意志を店の人に告げ、お金を支払った。


「いいのですか…、他にも私の為にいろいろ買って下さったのに…」

「旅の思い出、1つくらいあってもいいと思う」

「ありがとうございます、大切にします。でも、どこに付けましょう…少し悩みます」

「なら、俺が決めていいか?」


そう言われリボンを手渡すと、シラハはシズハの髪に触れ、慣れた手つきで前髪を少し多めに取り、そこに巻き付けて縛った。


「うん、よく似合ってる」


お店に置いてあった鏡で確認する。

黒い髪にアクセントになったリボンが交差されながら結ばれ揺れている。

思った通り、先についている飾りが揺れて、とても可愛かった。


「嬉しい…。凄くいい位置につけていただけました」

「納得してもらえたなら甲斐が有る。他に必要な物はないか?」

「あ…よければ、杖とランタンが欲しいです」

「ふむ、なら探そう」


言われるがまま店を探し、長めの杖とランタンを探す。

シズハは金属の杖と、一般的なランタンを購入すると、近くにあった公園に立ち寄りたいと言うので、シラハはそれに付き合った。

公園にあったベンチに座ると、先程買った杖を細工し始める。

魔力で杖を変形させ、買ってきたランタンも自分好みにデザインし直し、それを杖の先に付けた。


「驚いたな…デザインセンスがいい」

「そうですか?!嬉しいです。これからもしかしたら暗闇を歩くこともあるかと思いまして、私の魔力で光るようになっています」

「なるほど、実は地味に嬉しい機能だ。魔法具としても使えるのか?」

「はい、あまり攻撃系は向かないので、私は後ろで旦那様のサポートをする事になると思います」

「そうか、それでも何かあった時は助かる」


ニコッとシズハが笑う。

完成した杖と荷物を持ち、また2人は歩き出した。

気付けばもう昼時で、辺りでいい匂いのするお店がある。

ふと、シズハが足を止めた先にホットドッグのお店がある。


「あ…あの、あれはなんでしょうか!」

「あぁ、パンにソーセージを挟んだ食べ物だ。食べて見るか?」


シズハがこくこくと頷くのを見ながら、シラハがお店に買いに行ってくれた。

紙袋の中に持ち帰りでいくつか買ってきてくれたようだ。

近くに見晴らしのいい休憩所があったので、2人で登り腰掛けて、海を見ながら食べる事にした。

シズハが渡された包み紙を剥がすと、細長いパンの中央に切れ目があり、そこに美味しそうなソーセージが、パンよりはみ出て置かれている。

そしてその上にケチャップとマスタードをシラハが掛けてから、ようやく食べていいと言われ、シズハは今までで1番大きな口を開けて、ホットドッグを頬張った。

齧り付いて食べるのは実は初めてで、さっき店の前でほかの人がそう食べていたのを見て、そう食べるものなのだと学んだ。

お城にいる時は、はしたないから辞めるように教わったので、大きな口を開けて食べることでも、シズハにとっては新鮮だった。


「美味しぃ〜!」


幸せそうな顔をして食べてくれたのがシラハにとってもほっとした。

自分も同じものを食べる。


『これから進むルートでは1度か2度、野宿でもしなきゃならないかもしれないな…』


身投げしたと思わせたとはいえ、シズハは一国の王女だ。

野宿させるのは少し忍びない。

そんな事を考えながら食べていると、シズハが置いてあった紙袋の中身を覗き込んでいる。


「もう1つ食べるか?」

「わっ…えっと、もう少し食べたい気持ちはあるのですが、1個は流石に食べれそうになくて…」

「なら半分こするか」

「どう…やって?」


刃物は一応持ち歩いてはいるが、護身用の剣なので食べ物を切るためのものではない。

できる方法とすれば、どちらかが先に食べて渡すのが無難だろう。


「先に食べたい分だけ食べて、渡してくれるか?」


そう言いながらもう一個渡すと、シズハは包み紙を剥がさずじーっと見ている。


「どうした?」

「あの…私の食べかけでも大丈夫ですか」

「特に問題はない」

「そう…ですか。それならいただきます」


他人が残したものは食べないと教わっていたシズハ。

食べかけの物を貰うことはなかったので少し戸惑ったようだ。

同じように齧り付く。

さっきより少し冷めていて食べやすい。

半分まで食べ進めたところでシラハに渡す。

シラハもそれを受け取りそのまま口へ運んだ。

それを見ながらシズハは恥ずかしそうにしている。

ホットドッグを食べ終わってから、モジモジしているシズハにまたどうしたのかと尋ねると…


「自分の食べたものを…他の方が食べるのは初めてで…少し変な気持ちです」


そう答えた。

でも白羽にとって特別な事ではなかったので、普通の家族では有り得ることだと話す。


「それに昨日から…家族だと思って接する事にしているから」


シラハにそう言われて嬉しくないはずが無い。

しかもそのまま頭を優しく撫でられたら、シズハのの心も落ち着いてなどいられなかった。

シズハはそこでソラと一緒にやった占いの事を思い出す。


【今のあなたに必要な相手に巡り会えるでしょう…その人が運命の相手かも…】


『もしかして…あれが目に止まったのは、そういうこと…?』


そうだったとわかるのはきっと今ではないかもしれない。

でもそういう人に巡り会えるかもしれないと、期待した気持ちは確かにあった。


『シラハ様がその人なら…いいな』


「さて、シズハがいいなら出発しよう」

「はい、大丈夫です」


見晴らしのいい高台から2人は歩き出す。

次の目的地、ハルクートを目指して。


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