一生分の絶望

 白い女。私にはそれしか頭に浮かばなかった。

 肌に貼りつくような薄絹。白いワンピースを細身に纏い、髪だけが黒々と闇に溶け込んでいた。

 抱けば折れそうな肢体には重さというものがなさそうだった。


「月が綺麗」


 女は一言そういうと、ふわりと部屋に上がりこんだ。足音は聞こえない。


 何か用ですかと、私は凡庸な質問をしたようだ。

 女は顔を俯けて肩を震わせた。


「約束は昨日だったのに。私一人、遅れてしまった」


 平板な声なのに、一生分の絶望を吐き出したように聞こえた。

 そうですかと、私は答えたのだろうか。


「ごめん。時間がないの」

 女は身を揺すり、ワンピースを床に落とした。

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