第八話: レースに絶対は無いのだ


※ この話では、視点が各自に変わります


――――――――――――――――――




 ──朝、何時ものように目を覚ました時……なんとなくだが、昨日とは空気が違うのを彼は感じ取った。



 レースが始まる日は、以前から耳にしていた。



 正確な日数を口にはしないが、『近づいている』、『もうすぐ』、『来週』、『明後日』といった感じの雑談が耳に入ってくるから、嫌でも分かる。


 さすがは、日本ダービーというやつか。


 これまでも、レース当時の日は職員たちが浮足立っているというか、何処となく落ち着いていないのが見て取れたが……今回ばかりは、前とは違うのだろうと彼は思った。



『……いよいよだな、ホワ』



 なにせ、普段は何だかんだ言いつつも飄々としている置田までもが、何処となく緊張を隠せていない。


 ベテランと思われる置田ですら、こうなのだ。


 首筋を摩るその手が、僅かばかり震えているのが……彼にはよく分かった。


 馬になった今だからこそ、本当によく分かる。図体は人間よりもはるかに巨体だが、人間と同じくらいに敏感なのだ。



(……う~ん、なんか逆に冷静になってきたな)



 普通ならば、職員たちの緊張感に引きずられて、馬の方も緊張し始めるところなのだが……あいにく、彼の場合は他とは違う。


 伊達に、人の心が、人の魂が、インストールされているわけではない。


 気分はまるで、アレだ。自分より慌てる者を見て我に返り、冷静になる……アレだ。



 おかげで、彼は思いのほか冷静であった。



 馬の身であるからこそ言葉を伝えられていないが、仮に彼が人の言葉を話せたならば、『落ち着けよ、走るのは俺だぜ』と声の一つは掛けていただろう。


 それぐらい、彼の精神は冷静さを保てていた。ただ、それは他人事というわけではなく、むしろ、逆だ。


 これから行うレースが如何に特別なのか、それが置田たちにとって……彩音たちにとって、如何に特別なのか、それを彼はしっかりと認識している。


 だからこそ、彼は……来たるその時まで、静かに熱を内に溜め込み続けた。



(おかげで、頭は冷静だけど身体がカッカと熱いというか……どうにも武者震いがするというか……早く走りたいぜ)



 身体を洗われ、ブラシを掛けられ、マッサージをされて……それから、職員たちが集まって、ジッと観察される。


 レースの日は、練習などは無い。まあ、当たり前だ。本番当日に練習して体力使うような意味不明な馬鹿などしないだろう。


 替わりに何をするかって、それはまあ色々あるが、要は競馬場へと出発する前の最終チェックだ。


 全体的な体毛の色艶に、発汗具合。前日から続いて小便糞便の状態に、動きに異常が見られないかを確認する。


 この時、異常が見られたら場合によっては出走取り消しである。


 もちろん、何でもかんでも中止にするかと言えば、そんなわけもない。


 だが、職員よりくまなく全身を観察される時間、その熱量を前に、彼もこの時ばかりはタジタジになって時が過ぎるのを待った。



 ……。



 ……。



 …………そうして、馬運車へと乗り込んだ彼は……何時ものように、己だけの小さな箱の中で、静かに力を溜め込んでいた。




 ──レースが、近づいている。




 泣こうが喚こうが一度限りの大レースが近づいている。


 なのに、不思議と……彼は、乗る前から少しも緊張感が湧き起こっていないのを自覚していた。


 どうしてかは、分からない。


 だが、心は何処までも冷静さを保っている。


 眠っているのか起きているのか、フワフワした頭で……彼は、もうすぐやってくる戦いに心を向けていた。



(……待っていろよ、みんな)



 たぶん……魂が、理解しているのだろう。



(絶対に勝って、みんなに……日本ダービーを勝った馬を育てたって、自慢させてやるからな!)



 これから始まる死闘を前に、僅かばかりの無駄な体力すら使ってはならないのだということを。


 彼は、無意識の内にそれを察して……少しでも体力を残す為に、心を何処までも平坦に保ち続けていた。




 ……。


 ……。


 ……………。


 ……。


 ……。




【日本】第○○回東京優駿実況スレ【ダービー】



1 競馬一筋12ハロン


 出走時刻まで、もう間もなく

 皆様は、どの馬に夢を乗せているのでしょうか

 私の夢は、ホワイトリベンジです



2 競馬一筋12ハロン


 >>1乙

 ワイの夢も一緒に乗せて送るんやで


3 競馬一筋12ハロン


 >>1乙

 うん年ぶりに競馬スレにキタで


4 競馬一筋12ハロン


 俺もそうなの……



5 競馬一筋12ハロン


 ソーナンス!!!



6 競馬一筋12ハロン


 実際、そういう人多いんじゃないの?

 同僚からホワイトリベンジの話を聞いていなかったら、俺だってそのまま競馬引退歴継続中だったぞ



7 競馬一筋12ハロン


 ワイもやな

 所詮、競馬は賭け事やからな

 競馬には競馬の魅力はあるんだけど、ここしばらくの競馬は他の賭け事とほとんど変わらなくなったなあと思っていたんやで



8 競馬一筋12ハロン


 >>7

 せやな

 昔は大手といっても群雄割拠みたいな部分があったし、あまり聞いた事のないところからすげー馬が飛び出してきたりとか、ドラマがあったんやで

 今も無いとは言わんけど、何やっても最終的には『ああ、また、あそこか……』みたいな感じで、ちょっと白ける部分があったからな



9 競馬一筋12ハロン


 昔は○○○だとか××××だとか、まだ色々あったけど、今は伊藤牧場一強だからな……

 まあ、競馬の世界も結局は資本主義だから、資本力と時の運に恵まれたところが徐々に勝ち残っていくのが自然の流れではあるけれども



10 競馬一筋12ハロン


 良いか悪いかは別として、○○○は自然災害で、××××は色々な不手際に加えて強い馬に恵まれなかった事が続いて、結果的には伊藤牧場が残ったって感じやね



11 競馬一筋12ハロン


 とんでもないマネーが絡む世界だってのは分かっているけど、もはや今の競馬って何処かビジネス臭が漂っているよね



12 競馬一筋12ハロン


 だいたいのGⅠレースに伊藤牧場の息が掛かっている時点でビジネス以外の何だと言うのかね?

 多少通用する馬が現れても、伊藤牧場の壁は大きくて分厚いぞ



13 競馬一筋12ハロン


 ダービーで最後に伊藤牧場以外の馬が勝ったの何時だっけ?

 っていうぐらいに、本当に伊藤牧場の馬だらけだったからな……一時期は



14 競馬一筋12ハロン


 そこに現れたホワイトリベンジ、そりゃあ人気出るだろ

 日本人の好みの真ん中ドンピシャな経歴の馬だぞ

 おまけに葦毛だから目立ちやすいときた



15 競馬一筋12ハロン


 歯車一つ狂っていたら殺処分だった3流馬&勝ち星に恵まれず引退直前だった騎手 VS 選ばれし血統を受け継ぎ育てられた馬&全てに恵まれた天才騎手


 ↑ これがおまえ、日本ダービーでバチバチやり合うライバルとか現実に起こり得ると思う?



16 競馬一筋12ハロン


 起こっとるやろがい!



17 競馬一筋12ハロン


 字面にしたら映画化決定路線過ぎて草

 なにが凄いって、何一つ誇張じゃないっていうのがまた……



18 競馬一筋12ハロン


 しかも、互いに1勝1負けという戦績やからな

 この前出た雑誌のコラムに伊藤将騎手のコメントが載っていたけど、クレイジーもバチバチにホワイトリベンジを意識しまくってるというアレ



19 競馬一筋12ハロン


 >>18

 馬がそんなの意識することあるんか?



20 競馬一筋12ハロン


 >>19

 あるで

 とある馬に連敗していた馬が、その馬の名を聞く度に滅茶苦茶不機嫌になるって逸話が残ってる

 曰く、その馬の名前が出ると厩務員たちの顔が暗くなる(そりゃあ、負けちゃっているから)のを見て、その馬を悪い奴だって思ってたって話



21 競馬一筋12ハロン


 >>20

 あの馬か

 でもアレ、あくまでもその名前が嫌なだけであって、肝心のその馬とはけっこう仲良かったっていうアレやな



22 競馬一筋12ハロン


 そりゃあお前、これまで無敗が当たり前だったのが、ポッと出てきた葦毛の馬に手も足も出ずにボロ負けしたんやぞ

 脳みそ焼かれて、頭の中完全にベジータ状態よ



23 競馬一筋12ハロン


クレイジーボンバー「ホワイトリベンジ、何をふぬけている! お前を倒すのは、この俺……クレイジー様だ!」



24 競馬一筋12ハロン


 馬にも負けず嫌いな性格はあるから……クレイジーからすれば、たった一度の敗北も耐えがたいぐらいなんだろう

 とりあえず、倒すべき相手の名として『ホワイトリベンジ』を記憶しているのは間違いない



25 競馬一筋12ハロン


 実際、調教中でもホワイトリベンジの名前を出すとスルッと言う事聞くらしいからな

 厩務員からも「ホワイトリベンジに勝って雪辱を果たさねば、クレイジーの心にシコリが残る」って零しているぐらいだし



26 競馬一筋12ハロン


 伊藤将騎手「クレイジーは生まれて初めて、挑戦者として戦おうとしているのだろう。悔しいけど、クレイジーの瞳に映っているのはホワイトリベンジの後ろ姿だけさ」



27 競馬一筋12ハロン


 >>26

 サンキュー伊藤騎手!



28 競馬一筋12ハロン


 実際、パドックでもそうだし、コースに出ているところでもそうだけど、やっぱ滅茶苦茶意識しているよな……



29 競馬一筋12ハロン


 プリンセスにも迫られたけど、アレはクレイジーにとっては何か違うんだろ



30 競馬一筋12ハロン


 ポンポコ産駒の話はやめろぉ!



31 競馬一筋12ハロン


 プリンセスと言えば、ホワとクレイジーより少し離れたところからジッと見ているけど……仕草が完全に推しを前にしたヲタクだわwwwww



32 競馬一筋12ハロン


 プリンセス「やだ……推しと推しが互いを睨み合い(ビクンビクン)ぃぃぃぃ!!!!」



33 競馬一筋12ハロン


 もうやだこの馬(呆れ顔)



34 競馬一筋12ハロン


 なんにせよ、良血統の結晶とも揶揄されたクレイジーが勝つのか、主流から外れた雑草魂のホワが勝つのか

 はたまた、あっと驚くダークホースが勝利を掻っ攫うのか


 レースに絶対は無いという格言もあるし、早く見たいぜ



35 競馬一筋12ハロン


 もう始まってる!



36 競馬一筋12ハロン


 始まってねえよ!




 ……。


 ……。


 ……………。


 ……。


 ……。





 ──ざわり、と。



 その瞬間、彩音は……仕方がないことではあるが、プロ騎手として恥ずかしいことに、少しばかり気圧されてしまった。


 東京競馬場にて出走の為に、相棒であるホワと共にコースへとやってきた彩音は……これまで経験したことがない強烈な熱気と圧力に、思わず息を呑んだ。



 人、人、人、人、人。


 それはまるで、人間で構成された空気の壁。



 覚悟はしていたが、皐月賞の時以上に……いや、比べ物にならないぐらいの『力』が、『視線』が、『夢』が、コースへと……優駿たちへと向けられているのが分かった。



 ……本日の来場者は、なんと10万人を超えているらしい。



 その事を、雑談がてら教えられた彩音はその時、純粋に驚いた。


 だって、競馬から人々の関心が離れ始めているのが危惧されてから、それなりに月日が経っているからだ。


 彩音が騎手を目指そうと夢見た幼き頃、競馬というのは野球などのスポーツと並ぶぐらいには人気のある催しであった。


 さすがに平日にやっている新馬戦や未勝利戦を見に来る人は少なかったが、GⅠレースが近づけば連日CMが流されるぐらいには人々の関心を集めていた。


 でも、それは昔の話だ。少なくとも、彩音はそう思っていた。


 かつては、様々な逸話なり呼び名なりを持った馬が全国紙の新聞に掲載されていたものだが……だからこそ、同時に、彩音は……置田よりこっそり教えられた事に、ふうと息を吐いた。



(暫定だけど、一番人気はホワイトリベンジ……みんな、見たいのね)



 ──クラシック第一冠を制した皐月賞馬が、続けて二冠目となるダービーの称号を得るのを。


 そう、ダービー馬の称号は、ダービー騎手ジョッキーの称号は、金では買えない称号……と、同時に、そこに更なる特別が追加される。



 最も速い馬が勝つとされる、『皐月賞』。


 最も運を持つ馬が勝つとされる、『日本ダービー』。


 最も強い馬が勝つとされる、『菊花賞』。



 距離にして順に2000m、2400m、3000m。


 諸説あるが、皐月賞という激戦を終えてたった一か月後にて、更に距離を400mも伸ばして戦うのだ……実力だけでなく、持って生まれた運が求められるのだろう。



(考えてみれば、これまで何戦も走って無事にダービーに出られるだけでも、かなり運を持っていないと駄目なのよね……)



 そう、心の中で呟いた彩音は……普段と変わらず冷静にコースの中を歩いているホワの首筋を撫でる。


 パッカ、パッカ、パッカ。


 尻より伝わるホワの力強さ、相変わらずの乗り心地の良さ。歩調に異常はなく、発汗の具合も問題なし、落ち着いていて、呼吸も正常。


 あくまでも騎手としての視点だが、コンディションは万全だと彩音は頬を緩め……ポンポン、とホワの首を叩いた。



「……ホワ、頑張ろうね。勝ちたいけど、それは私たちの勝手。ホワは、キナコさんの為にも無事に帰って来るのが仕事だからね」


 ──ヒン! 


「ふふふ、ホワは賢いね。まるで、私の言葉に返事をしてくれたみたい……うん、良し、良し、それじゃあ、もうすぐだよ」



 そんな感じで、逸る己の心を宥めながら、出走の時刻まで待って──っと、思っていたら、一頭の馬がヌルリと顔を寄せてきた。



「──く、クレイジー?」



 突然の事に、彩音は目を瞬かせた。


 『クレイジーボンバー』……乗った事がないので性格が分からないけれども、気性が荒いという噂は聞かないが……いや、そうじゃない。



「──すまない、柊騎手。クレイジーが妙に言う事を聞かなくて……」



 視線を向ければ、クレイジーボンバー……クレイジーの騎手である伊藤将いとう・まさ騎手が軽く頭を下げていた。


 その手は、必死に……とまでやると馬の機嫌を損ねてしまうので軽くではあるが、それでも手綱を引いている。


 なのに、クレイジーは欠片も言う事を聞かずに、ホワへと顔を寄せている。



 それは、伊藤騎手にとっても想定外の状況なのだろう。



 飄々とした雰囲気を保ってはいるが、「ほら、どうした、落ち着けよクレイジー」普段よりも少しばかり焦っているのが声色から見て取れた。


 正直な話、かなり危険な状況だが……ホワは不思議そうにしつつも、特に気にしていないのを見やり、彩音は深々とため息を吐いた。



「……今日は随分と入れ込んでいますね」

「ああ、分かる?」

「分かりますよ、でも、珍しいですね……雰囲気に呑まれているんですかね?」



 とりあえず、無理やり引き剥がそうとして興奮させると危ないので、クレイジーが落ち着くのを待ちながら雑談をする事にした。


 どうせ、時間が来れば職員も来る。クレイジーは賢いので、それで気持ちを切り替えるだろう……というのが、伊藤騎手の話であった。



「……雰囲気じゃないな。こいつは、ホワイトリベンジに夢中なんだよ」



 そうして、ふと……彩音がそう尋ねれば、伊藤騎手は思わずといった調子で苦笑と共にそんな感想を零した。



「夢中、ですか?」



 彩音が首を傾げれば、「そう、クレイジーはホワイトリベンジに首ったけなのさ」伊藤騎手はそう答えて、クレイジーの首を撫でた。



「お前も知っての通り、クレイジーは強い。秘めた力もそうだし、血統もそうだし、負けん気の強さも申し分ない」

「……それで?」

「クレイジーにとって、勝つのが当たり前だった。実際、同年代だとコイツに立ち向かえる馬が一頭もいなくてな、ボス馬ってやつだ」

「……あ~、つまり、それって」

「そう、クレイジーにとって初めて黒星を付けたのが、ホワイトリベンジだ。それも、最初から最後までずっと追い付けなかった……おかげで、あの日からずっとコイツの心は燃え上がりっぱなしだ」



 ぽん、と。


 クレイジーの首を軽く叩いた伊藤騎手は……改めて、彩音へと向き直った。



「柊騎手……今年のダービー馬の称号は、クレイジーの物だ。こうなったクレイジーボンバーは、最強だぜ」



 そう、彩音へと宣言をすると同時に……出走時刻を前に、職員あたちの号令が……コース上へと響いた。



 ……。


 ……。


 ……………。


 ……。


 ……。



・東京競馬場 ―18頭出走―

・芝 2400m左回り

・天候(晴れ)

・馬場状態(良)



『見事な快晴の下、盛大なファンファーレがここ、東京競馬場へと鳴り響きました。さあ、今年のダービー馬に輝くのは、どの優駿なのでしょうか』


『……全頭ゲートイン。少しばかり7番のクレイジーボンバーが入れ込んでいたようですが、それ以外は何事も無く出走準備が完了致しました』


『間もなく、出走となります』


『二冠目となるクラシック第二戦、『日本ダービー』……その頂きに立つための激闘が……今、ゲートが開かれました!』


『各馬一斉に好スタート! さすがは若き優駿たち、各馬動揺も遅れもなく、穏やかな陽気の中を幾つもの弾丸となって駆け抜けて行きます!』


『先頭を行くは……ホワイトリベンジではない! 一番人気のホワイトリベンジはスルスルッと加速を緩めて後方スタート! 中団より後ろに構えて冷静に前を見据えるようです!』


『対してライバルのクレイジーボンバーは前よりの中団位置から! 王道を王道のままに攻め込むつもりなのでしょうか、鞍上の伊藤騎手が不敵に笑っている!』


『これは早速波乱の展開! 鮮やかな逃げ切り勝ちをしたホワイトリベンジの後方スタートに、各鞍上の騎手たちは攻めあぐねているようにも見られます!』


『ハナからシンガリまで順位がほとんど変わらないまま、こう着状態が続いております。1000mを通過……58秒5! 睨み合いが続いたまま、勝負は最後の直線になるのでしょうか!』


『動かない! 各馬不気味な沈黙を保ったまま第三コーナーを通り、間もなく第四コーナーへ――っと、入った! 7番クレイジーボンバーに鞭が入った!』


『エンジン始動! 危険なエンジンに火が灯る! 一気に先頭へと躍り出たクレイジーに続けと言わんばかりに、各馬一斉に鞭が入る!』


『溜めに溜め込んだ足が開放される! だが、届かない! 一頭だけエンジンが違う! クレイジーボンバーだけが、グングンと各馬を引き離して独走状態に――いや、大外より飛んできた!』


『ホワイトリベンジだ! 葦毛の雑草魂飛んできた!』


『その後ろをポンポコプリンセスが追いかけるが、届かない! ポンポコプリンセスをあっという間に引き離し、前を行くクレイジーボンバーへとロックオン!』


『逃げるクレイジーボンバー!』


『追いかけるホワイトリベンジ!』


『奇しくも皐月賞とは逆! しかし、頂上争いはやはりこの2頭! 天才と雑草、意地と意地のぶつかり合い! 残り300を切った!』


『ポツンと飛び出した2頭を追いかける各馬! しかし、届かない! クレイジーボンバーとホワイトリベンジの一騎打ち――いや、ホワイトリベンジだ!』


『並ばない! 並ばない! あっという間に抜き去った! あっという間の出来事だ! ホワイトリベンジ抜け出した!』


『鞭を振る! 鞭を振る! クレイジーボンバー懸命に追いかける! 差し返すか!? 差し返すか!? いや、届かない!』


『ホワイトリベンジ粘る! 粘って伸びる! 並み居る優駿たちを背後に、栄光の頂へと一直線!』


『ホワイトリベンジだ!』


『ホワイトリベンジだ!』


『ホワイトリベンジだ!』


『ホワイトリベンジ! 1馬身以上の差を広げ――あっ、えっ、ええっ、ええ!!!?!?!?』


『――こ』


『故障です! 故障発生! ホワイトリベンジ故障!』


『なんという事だ! なんという事だ!』


『ホワイトリベンジ外へ行く! 大外に居たおかげで、衝突事故は避けられそうです!』


『――遅れて、クレイジーボンバー! クレイジーボンバー1着! 2着にポンポコプリンセス! 3着以降はほぼ横並び! 写真判定になりそうです!』


『ホワイトリベンジは競走中止! なんという事だ、ダービーを目前にホワイトリベンジ無念の競走中止!』


『嘶いています! ホワイトリベンジ嘶いています! 柊騎手が下りてホワイトリベンジを支えて――今、救護用の馬運車が到着致しました!』


『――ええ、波乱のままに決着となりましたGⅠ・第○○回東京優駿、1着と2着が確定、3着以降は写真判定の後に発表されます。お手持ちの馬券を廃棄せず、結果が出るまでお待ちください』


『繰り返します』


『1着・クレイジーボンバー。2着・ポンポコプリンセス。3着以降は写真判定の後で発表となります。お手持ちの馬券を廃棄せず、結果が出るまでお待ちください……』


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