GⅠ『皐月賞』 中山競馬場・芝2000m右回り・天候(晴れ)、18頭出走
『……4月○○日、午後15時10分。皆様、如何お過ごしでしょうか……本日の実況を務めさせて頂きます、畑山です。よろしくおねがいします』
『解説の、酒井です。よろしくおねがいします』
『本日のメインレースである、中山競馬場のグレードⅠ皐月賞の出走予定時刻まで、約30分となりました』
『新馬戦を乗り越え、数多のライバルたちの先頭を駆け抜け、一つ二つと勝利を重ね、あるいは不屈の闘志でここへ辿り着いた優駿たちが今、その秘めたる力を発揮しようとしております』
『4月に入ったとはいえ、まだまだ肌寒いですからね。観客席の皆様もそうですけど、これを聞いている人たちもしっかり身体を温めて、風邪を引かないように気を付けてください』
『……さて、改めて出走メンバーの紹介を致します。』
『1枠1番クレイジーボンバー。体重は490kg、5戦5勝。前回レースより+1kg。父はクレイジーイダテン、騎手は伊藤将騎手・体重は○○です。デビュー戦から不敗のGⅠ馬、このまま皐月の冠を手にするか、注目の一頭です』
『彼は本当に強いですね。父のイダテンはGⅠ5勝の名馬であり、距離2000は正しく彼にとっての距離でしょう。逃げ寄りの先行でありながら、末脚もけして無視できません。一番人気である事も、その実力の証でしょう』
『2番……、3番……、4番……』
『5番ガンバルゾイ。体重490kg、4戦2勝。前回レースより±0。父はアジェスタ、騎手は××騎手・体重は○○kgです。前回、前々回と惜しくも勝利を逃しましたが、ここで皐月の冠を得られるか』
『これまでの戦績を見ましたところ、距離2000はガンバルゾイにとってベストの距離ですね。体重の増減はなく、色つや良好。これまで全て中団からの差し切り勝ちですので、上手く馬群の壁に阻まれずに行けたら冠は彼の頭でしょう』
『6番……、7番……、8番……、9番……』
『10番ジェントル。体重477kg、4戦1勝。前回レースより-3kg。父はダテオトコ、騎手は××騎手・体重は○○です。新馬戦を除いて全て2着、実直に逃げに徹する彼は、ここ中山競馬場の皐月でも逃げるのでしょうか』
『この逃げは脅威ですよ。一度先頭を取ったらどこまでも悠々自適に逃げ切る馬です。背後からのプレッシャーにも強く、親のダテオトコは天皇賞秋の名馬。最後まで逃げ切り勝ちの可能性がありますよ』
『11番ワクチンコア。体重502kg、4戦1勝。前回レースより+2kg。父はトクベツワクチン、騎手は××騎手・体重は○○です。勝利から遠ざかっておりますが、彼も掲示板入りは外さない孝行馬です』
『王道の競馬と言えば、彼でしょう。体格も良くスタミナもあり、他の馬とぶつかり合っても怯まない根性もあります。ただ、寂しがりやな性格なのか馬群の中に入ろうとする癖がありますので、騎手の手綱さばきが勝利の分かれ目でしょう』
『12番……、13番……』
『14番ポンポコパレード。体重487kg、3戦2勝。前回レースより4kg増。父はポンポコレジェンド、騎手は××騎手・体重は○○kgです。前回のレースでは狂気の大逃げにて1.5馬身差の勝利となっております』
『いやあ、良い馬体ですね。艶もあってトモも太い。調子も良さそうで、これは好走が期待出来そうですね。ただ、ポンポコパレードはこれまで1200~1400しか走った経験がないので、スタミナが持つかが不安視されています』
『15番……、16番……、17番……』
『最後になります、18番ホワイトリベンジ。体重は487kg、5戦4勝。前回レースより-10kg。父はマッスグドンドン、騎手は柊彩音騎手・体重は○○です。地方からの刺客である彼は、クレイジーボンバーへのリベンジ叶うでしょうか』
『この馬はね、夢がありますね。主流から外れた血統でありながら、エリートへ立ち向かう。良血統の結晶とも言えるクレイジーボンバー相手に、惜敗の涙を勝利の涙に変えられるか、非常に気になる一頭です』
『……以上、全18頭となります。中山競馬場・GⅠレース皐月賞、出走時刻まで、もうしばらくお待ちください』
『それでは解説の酒井さん、今回の皐月賞、期待の一頭はずばりどの馬でしょうか?』
『そうですね……やはり、クレイジーボンバーでしょうか』
『クレイジーボンバー……父の父は二冠を取り、その血筋は全て名馬の中の名馬……母方も、数々のGⅠを取っている馬ですね。戦績も、全てのレースにて力強い勝ち方をしております』
『文句なしの優勝候補だと思いますよ。どの馬たちも優駿に足る実力を持っていますが、このクレイジーボンバーに関しては抜きん出ている……と、評しても良いと思います。一番人気になっているのが、その証拠でしょう』
『なるほど、ありがとうございました。では、そのライバルになり得る馬はどれだと思いますか?』
『ライバル……と、なれば、それはホワイトリベンジ以外にはいないと思います』
『ホワイトリベンジ……ホープフルステークスにて惜敗の涙を見せた、葦毛の馬ですね』
『はい、ホープフルで敗北、前回のレースにて辛勝。まあ、前回のレースは放牧でよほどリラックスしたのか、体重が一気に太って凄い事になっていましたけど……』
『アレは驚きましたね。私も映像を見ていましたけど、あんなに極端に体重が増えることってあるんですね』
『普通はそこまでいきません。ですが、皐月にてしっかり体重を落とせたということは、それだけ食欲旺盛でしっかり栄養を蓄えられる丈夫さに加え代謝も良い証であります』
『なるほど、ということは……リベンジが成る可能性がある、と?』
『可能性は十分にあり得ると思います。ただ、外枠を引いておりますから、なんとも現時点では……これも競馬ではありますが、もっと内枠だったらさらに可能性が高くなっていたでしょう』
『以前から度々言われておりますが、やはり皐月賞において外枠は不利になりやすいのでしょうか?』
『いえ、そうとも限りません。中山競馬場は直線が短めで、外枠から内に付けようと騎手が思うあまり斜交を取られやすい傾向にあるだけで、データを見る限りそこまでの違いはありません』
『え、そうなんですか?』
『はい、ただ、ホワイトリベンジの鞍上はまだ年若い柊騎手です。騎手としての経験値は多いわけではなく、GⅠレースもこれで2度目。斜交を取られずに素早く内に付けようとしますが、その焦りが出てしまうと……』
『なるほど、そうなんですね』
『同様に、内枠が絶対的に有利かといえば、そういうわけでもありません。結局のところ、速い馬が勝つ……正に、皐月賞にふさわしい馬が勝つ、それだけの事だと思います』
『はい、解説ありがとうございました。それでは、もう間もなく出走時刻となります。ゲート前に集まった優駿たちが続々と定められたゲートへと――っと、あ~れは、18番ホワイトリベンジです。なにやら、1番のクレイジーボンバーに歩み寄っていますが……』
『これは相当に意識していますね。ホープフルでもレースに負けた事を理解して涙を流したとは関係者の話ですが、おそらくは相当に負けず嫌いな性格なのだと思います……柊騎手も分かっているようで、手綱を引いて制御していますが……あ~意識していますね』
『少々入れ込んでいるようにも見えますが……これは、柊騎手は御しきれていないのでしょうか? 』
『いえ、そういうわけではありません。極論を言えば、馬の力は人間の何倍もありますからね。頭が良いから言う事を聞いてくれているだけであって、血が上ってしまったら誰であろうと落ち着かせるのは困難でしょう』
『こういう時、どのように落ち着かせれば良いのでしょうか?』
『ホワイトリベンジはクレイジーボンバーをかなり意識していますから、距離を離すとか、ゲートインの順番を変えるとか、他には騎手がとにかく宥めて落ち着かせるといったところでしょうか』
『なるほど、これはレース前から波乱の展開となりそうです~おっと、どうやら落ち着いたようです。1枠1番クレイジーボンバーからゲートに入って行きます』
『とても賢いらしいですので、本気で怒られてしまう事を理解したのでしょう……いよいよ、皐月賞本番ですね』
『……全18頭、ゲートイン完了。ハプニングもありましたが、無事に発走の準備が整いました』
『――中山競馬場・グレードⅠレース・皐月賞。芝2000m右回り、天候は晴れ、馬場状態は良、間もなく発走です』
『――スタート致しました!』
『各馬一斉にスタート! 出遅れは無し、最も早い馬が勝つと言われたこのレースに相応しいスタートを決めた優駿たちが、我先にと先頭争いに入りました』
『先頭を行くはやはりこの馬、14番ポンポコパレード! 俺の前を走るのは誰であろうと許さない、狂気の爆逃げが、ここ中山にて炸裂しております!』
『グイグイと加速してゆくポンポコパレードに負けじと、10番ジェントルも逃げる逃げる! どうやら先頭争いはこの2頭の対決、他の馬は2頭の争いを静観――っと、ここで飛び出して来たのは18番ホワイトリベンジ!』
『これは意外な展開! 最外枠より葦毛の雑草魂が追って追って追いまくる! これは掛かっているのか!? 暴走しているのか!? あっという間に馬群は二つに分かれ、葦毛を交えた3頭が第1コーナーへと差し掛かる!』
『速い速い速い! まるでスプリンターレースを見ているかのような超特急! 2馬身、3馬身、4馬身……狂気は1頭だけではなかった、中山には3頭の狂気が大爆走しております!』
『苦しい坂道なんのその、後方集団を置き去りにした3頭はそのまま最初の坂を登り終え、直線コースへと――っと、これは苦しいか!? ポンポコパレードの足が目に見えて鈍くなってきたぞ!』
『頑張るかポンポコパレード! もうひと踏ん張り行くかポンポコパレード――失速! よく頑張った! ポンポコパレード息切れ! 狂気の大逃げから1頭脱落――続いて、他の2頭も苦しそうだ!』
『10番ジェントルと18番ホワイトリベンジの先頭争いとなりましたが、続々と後方集団が距離を詰めて行きます! 緩やかに加速を始めたクレイジーボンバーが、不気味に前へと出て来ているぞ!』
『その後ろを……、続いて……、……、おっと、11番ワクチンコアがグングンと加速してゆきます。これは、1番クレイジーボンバーのマークに入ったか!? その後方より馬群の隙間を縫うように5番ガンバルゾイが前に出て来たぞ』
『……、……、最後方は……、さあ、先頭集団の2頭は――ジェントル苦しい! ホワイトリベンジ苦しい! 第3コーナーに入った辺りで、ジェントルの足が鈍ってきた!』
『ポンポコパレードが後方集団に捕まると同時に、ジェントル脱落! 先頭を走るは18番ホワイトリベンジ! しかし、余裕は4馬身! 中山の恐ろしさは、最後の直線にこそあるぞ! これは逃げ切れるか!?』
『続々と後方集団が加速を始めて行く中、最初に飛び出して来たのが1番クレイジーボンバー! その後方より10番ワクチンコア! すぐ後ろを5番ガンバルゾイ! 鮮やかにカーブを曲がり、先頭へと突き進む!』
『さあ、18番ホワイトリベンジは第4コーナーを曲がり、最後の直線へ! 栄光まで残り300m! しかし、立ち塞がるは高低差約2.4mの坂! 逃げに逃げたトモに足は残っているのか!?』
『後方より我慢を重ねた優駿たちが一気に末脚を炸裂させてゆく! タップリ溜めた足をここで使わず何時使うのかと言わんばかりに、各馬一斉に振るわれたムチを受けて、グングン距離を詰めて行くぞ!』
『クレイジーボンバー伸びる伸びる! 他馬を置き去りに、その名の通りの爆発力で栄光へと迫る! ワクチンコアも追いすがるがいっぱいか!? ガンバルゾイも負けじと迫りワクチンコアを抜き去り、クレイジーボンバーへ!』
『逃げるホワイトリベンジ! 追うクレイジーボンバー! 負けるかとガンバルゾイ! 栄光への争いはこの3頭――いや、クレイジーボンバーが前に出る! 後方との差が広がり、狙うはホワイトリベンジのみ!』
『捲って上がる! 捲って伸びる! クレイジーボンバー2馬身から更に1馬身! 1馬身からさらに――さらに――さらに、伸びない!?』
『粘っている! ホワイトリベンジ粘っている! 何処に足を溜めていたのか、隠していた二の足にて最後の坂を駆け上がる! 懸命に追いかけるクレイジーボンバー、残り100!』
『内にホワイトリベンジ! 外にクレイジーボンバー! 1馬身から縮まない! 遠い1馬身の距離を詰められない! ホワイトか! クレイジーか! ホワイトまだ先頭!』
『ホワイトか!? クレイジーか!? ホワイトか!? ホワイトだ!? ホワイトだ! ホワイトリベンジだ!! ホワイトリベンジ1着!!!』
『18番ホワイトリベンジが逃げ切った! 皐月の冠を手にしたのは、葦毛の復讐者ホワイトリベンジ!!! 雑草魂見せ付けた!』
『見事! お見事! ホープフルステークスの雪辱を晴らし、クラシックレースの最初の冠を手に、最も早い馬としての称号を手にしました!』
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