第五話: 千金の涙
彼は、これまでと同じく坂道ダッシュを行い、たっぷり飯を食べて、たっぷり睡眠を取り、イメージトレーニングを欠かさず行ってきた。
理由は、只一つ。勝つためだ。
勝って、勝ちまくって、賞金を得る事。
沢山稼いで、自分を育ててくれたキナコさんの為に、みんなの為に……かつては出来なかった親孝行を、どんな形であれやってあげたいという意思が、彼を走らせた。
人の心を持つおかげか、それとも身体そのものが突然変異、あるいは女神様のウッカリがもたらした特別仕様なのかどうかは、定かではない。
なんにせよ、彼は強かった。強く、成れた。
少なくとも、これまで走って来たレースで彩音に注意されて気を付けようと思う事はあっても、危うく負けるところだったと肝を冷やす事は一度としてなかった。
なんとなく、分かるのだ。というより、無意識に感じていたのだろう。
──こいつら相手なら、勝てる、と。
事実、彼は無意識にそう思っていた。初戦こそ未知ゆえに身構えていたが、3戦目を勝利した辺りで、彼は無意識に天狗になっていた。
馬としての本能か、人としての驕りがそうさせるのかは分からない。
だが、トラブルにさえ気を付ければ、彩音さんが背に乗ってくれるのであれば、己は負けなしの向かうところ敵無しだと心の何処かで思っていた。
(……こいつ!)
だが、その日。
これまでと同じく車に乗せられ、これまでと同じく退屈な時間を過ごした後、さあ今日も勝つぞとレース場へと足を踏み出した彼は……瞬間、ギョッと目を見開いた。
(分かる……こいつ、強いぞ!)
集まっている他の馬たちだって、強い。
無意識の驕りこそ自覚出来てはいなかったが、彼は今日も勝つつもりでいた。
これまでと同じく、彩音さんを背に乗せて、快勝と賞金を咥えて帰るつもりでいた。
しかし、その馬を目にした時。
彼は……『ホワイトリベンジ』と名付けられた彼は初めて、『勝てないかもしれない』と思った。
一言でいえば、その馬は品のある馬であった。
色は栗毛と目立つソレではないが、立ち振る舞いが違う。立ち昇るオーラが違う。明らかに、場違いな気配を持っている。
見た目は、馬だ。
当然ながら、彼がこれまで目にしてきた馬と、己と、そこまでの違いがあるようには見えない。そりゃあ、馬だから。
しかし、違う。上手く言えないが、違うと思った。
一目で、彼はソイツが別格なのだと理解した。
(やべえな……こんなやつが出て来るとは思っていなかったぞ)
……足を止めた彼は、その馬を見やる。
彼の内心の警戒、その証拠と言わんばかりに、ソイツの周りには馬が一頭もいない。ソイツと、ソイツの綱を引く人を除いて、空間が生じていた。
その理由は、考えるまでもない。他の馬は、怯えているのだ。
ソイツは、何もしていない。ただ、係員などの指示に従って、悠然と歩いているだけだ。
なのに、どの馬も怖気づいてしまっている。逆立ちしたって勝てない馬だと、本能的に気付いてしまっている。
だから、距離を取っている。人間に例えるなら、同じ空間に筋肉隆々の男が立っているようなものだ。
何かをしたわけでもないし、何かをされたわけでもない。
ただ、本能的にビビッてしまい、失礼だとは思うけど遠巻きにしてしまう……ソイツは、そんな状態になっていた。
『──お~い、ホワ。どうした? 気になる馬でもいたか?』
黙って見つめていると、己を引っ張る男……名は、置田(最近、覚えた)。
その置田が、困ったように彼の首筋を撫でる。置田がそんな反応を見せるのも、仕方がないことである。
なにせ、これまで彼は一度としてレース場などで反抗的な態度を取らなかった。指示には従順に従い、歓声が響いても気にすることなく佇んでいた。
興奮や驚くあまり暴走しかける他の若馬に比べたら、如何に御し易いか想像するまでもない。
その彼(置田からすれば、ホワ)が、初めて指示に従わずに足を止めた。
それを見て、置田は彼の視線の先を追いかけ……そこで、悠然とパドックを歩く栗毛の馬に気付き……なるほど、とため息を零した。
『ホワ……お前、凄いな。強い馬ってのが分かるんだな』
(あっ、やっぱり強いのか)
思わず置田へと振り向けば、『ほら、止まっちゃ駄目だぞ』そのまま手綱を引っ張られたので、今度は指示に従う。
さすがに、二度目は止まるつもりはない。
それに、止まらなくても視線を向ければ見える位置に居るのだから……彼は、周りの馬にぶつからないよう気を付けながら、その馬を見つめる。
……何度見ても、別格だと彼は思った。
馬の視力は、それほど良いわけではない。しかし、それでも分かるのだ。分かるからこそ、彼はその馬から目を離せなかった。
──とまぁ~れぇ~~っ!!
そうしていると、号令が掛かった。
少し遅れて騎手たちが……彩音が駆け寄ってくるのを視界の端に捉えて、彼は足を止めた。
『……ホワ、緊張しているの?』
さわさわ、と。
置田と同じく、首筋を撫でられる。その顔が、心配そうになっているのを見て、彼はふんすと鼻息を吹いた。
(……へっ、馬鹿か俺は。相手がなんであろうと、勝つだけだ。彩音さんにまで心配されちゃあ、男が廃るってもんだ)
そう、己を鼓舞しながら……目で、乗ってくれと促す。
相変わらず心配そうではあったが、そんな彼の意思を受け入れたのか、元気づけるかのようにポンポンと首を叩くと、クイッと背に乗った。
『柊、気を付けろ』
再びパドックを回る。
とはいえ、ただ回るのではなく、レース場へと向かうために列を作って回るのだが……そうしながら、ポツリと置田は告げた。
『ホワのやつ、クレイジーボンバーを滅茶苦茶警戒しているぞ。入れ込んでいるようには見えないけど、掛かるかもしれない』
『クレイジー……たしか、セレクトで2億叩き出した馬ですよね。置田さんから見ても、強そうに見えます?』
『見える。トモ(尻から足に掛けての部位)の張りが段違いだ。ダービー馬の血筋は伊達じゃないってことだろう』
『……なるほど、分かりました』
その言葉と共に、パドックを出てレース場へと向かう通路へと進みながら、彩音は……改めて、彼の背中を撫でた。
そうしてやってきた本番の会場。大きく伸びる芝の道を横目に、彼にとっては4戦目となるレース。
それまで3戦全部を足したよりも人々が集まる観客席より広がる歓声。ファンファーレに合わせて行われる手拍子に、一部の馬がキョロキョロと落ち着きなく周囲を見回している。
(……そうか、今日のレースは、おそらく有馬とかダービーとか、そういう特別なレースなんだな)
その中で、彼はビリビリと……これまでにない、張り詰めた空気の中に居た。
別に、天気が悪いわけでもない。気温が極端に低いわけでもなければ、事前に何かビックリさせるような事が起こったわけでもない。
ただ、違うと思った。
観客席から伝わる熱気もそうだが、周りの馬たちの背に乗る騎手たちより感じ取れる気配が、これまでとは違うと彼は思った。
──ヒヒン!
だからこそ、彼は声を上げた。
それは、己に対する戒めでもあり、軽く膝を叩いて気合を入れるといった行為と同じであった。
彼は、今日のレースが競馬に携わる者たちにとってどれほどの価値があるレースなのかを知らない。
前世の人間だった時もそうだし、今でもロクに教えられていなかったから、そこらへんの考えは前世からほとんど変わっていなかった。
ゆえに、彼にとって重要なのは……レースのグレードではない。
彼にとって大事なのは、勝って賞金を得る事だ。
勝って、勝って、勝ち続けて……賞金を得て、キナコさんたちを楽にさせてやりたい、その一心しかなかった。
『……ホワ、落ち着いて』
そんな、彼の高ぶった精神をなだめるかのように、彩音の声が届く。ハッと、一瞬ばかり動きを止めた彼は、振り向いて彩音を見やる。
『ホワ、勝ちたいんだね』
(勝ちたいですよ。勝って、賞金を得て、キナコさんたちを楽にしてやりたいですから)
──ヒヒン、と。
鳴いて肯定すれば、『ホワは、本当に賢いね』彩音はフフッと柔らかく微笑み……不意に真顔になると、ぽんぽん、と彼の首筋を叩いた。
『いいね、ホワ。今回は後ろからじゃなくて前に付けて、そのまま上位をキープしたまま……最後に先頭に出て、そのままゴールに行くよ』
──ここでは、先行で行くのが有利だから。
おそらく、彩音は己に言い聞かせる意味でも、ホワに語りかけているのだろう。まさか、彼が人間の言葉を理解しているとは夢にも思っていないだろう。
とはいえ、言われると共にぽんぽんと首筋を優しく叩かれた彼は……頭の中でイメージを固めつつ、身体をブルッと震わせると、ゲートの方へと歩き出した。
……そうして、ゲートの前で順番待ちをしている時、フーッと鼻息を吹いた彼は……ギュッと、己に跨った彩音の足に力が入ったのを感じ取った。
(彩音さん?)
振り返って顔を見やれば、彩音は何も言わずに首筋を撫でる。青ざめた頬に、彼は……ああ、そうかと今更ながらに理解した。
(彩音さんも緊張しているんだ……はは、前世の精神年齢入れたら彩音さんの倍は生きているってのに……ったく、我ながら情けない)
それを見た彼は……ふんす、と鼻息を吹くと。
ぽっこぽっこと、その場を旋回した。
『え、ほ、ホワ、どうしたの?』
これには、鞍上の彩音も驚いて止めようとした。しかし、彼は止まらずにクルクルとその場を回り……彩音へと振り返った。
……彩音の横顔を確認した彼は、再びクルクルと回る。
普段はそんなことをしない彼に、職員が様子を伺うように近づいてくる。けれども、ゲートを嫌う馬とは違い、興奮した素振りを周りは感じ取れなかった。
『ほ、ホワ?』
クルクル、クルクル、クルクル……ちらり。
それから、2回。
さすがにこれ以上は無理だなと思うまで歩いた彼は、呆気に取られたことで少しばかり血の気が戻って来ている彩音の頬を見て……フーッと鼻息を吹くと、職員に促されるがままゲートの中へと入った。
……。
……。
…………時間にして、10秒程の間を置いた後。
『……ありがとう、ホワ。一緒に頑張ろうね』
その言葉と共に、フーッと……息を吐いて身構えた彩音の気配を感じ取った彼も、同じように身構えると。
──ゲートが開かれると同時に、飛び出した。
──そうして飛び出した彼が最初に感じたのは、全身に叩きつけられる強烈な熱気であった。
しかし、それは暑さ寒さではない。もっと抽象的な、目には見えない、圧力を伴った熱気であった。
周囲を見やれば、どの馬もほとんど横並びだ。体感的には、早くも無く、遅くも無い。
とはいえ、時間にして僅か1秒2秒。
気付けば通り過ぎているような、僅かな一瞬。交差した騎手や馬たちの視線を認識した彼は、もうこの時点で駆け引きが始まっているのを感じ取った。
(──っ、よし、前に付けるんだったな)
どのタイミングで上がるべきか──そう考えると同時に、手綱を通じて彩音の指示が来た。
もちろん、迷うことなく指示に従って、更に加速を続ける。これまで、幾度となく練習してきたのだ。
周りが加速してゆく中でも、徐々に己が一馬身分、二馬身分と距離を開いて前へと向かえば、あっという間に目に映る他の馬は4頭だけ。
普通の馬なら、このままさらに加速を続けようとして、騎手より抑えられるところなのかもしれない。
──今更、この程度で焦りなどしない。
そう、鼻息荒く胸中にて呟いた彼は、指示の通りに少しばかり外を通り、馬群に阻まれないように気を付ける。
上り坂を通りながらも、思ったよりも短い直線を終えれば、そのままカーブへと差し掛かる。中々に、走り難い。
グッと掛かる横からの重圧に気を付けながら、速度を維持して進む。二つの重心に引っ張られることなく、巧みな体重移動によって彼はほとんど重さを感じなかった。
そうして……今度は、下り坂だ。
少し息を入れろと指示が来たので、僅かばかり速度を緩めるよう意識しながら、足の回転を抑える。
上り坂とは違い、下り坂は速度を上げ過ぎるともつれて転倒の恐れがある。
ただ、そのまま足を動かしているだけでもドンドン回転数が上がっていくのが下り坂だ。
(ふー、これだけは未だに慣れないな)
馬の身になった今、けっこうこの下り坂は恐怖である。人間の時なら身体を丸めて受け身を取れるが、馬の身体では転倒=死だ。
死ぬのが己だけなら、まだいい。
しかし、彩音まで巻き込んで死ぬのだけは、絶対に許されないのだ。
(……あの馬、下り坂なのに全く減速しねえ)
だからこそ、下り坂なのに減速せずに一定の速度を……いや、下手すれば速度を上げている右斜め前の……内側を走る栗毛の馬の姿に、彼はヒヤリと背筋に寒気が走った。
名は、たしか……クレイジーボンバー。
置田も話していたが、2億の馬らしい。2億というのが競馬の世界で高いのか安いのかは分からないが、わざわざ口にしていたあたり……高いのだろう。
いわゆる、恵まれた血統馬というやつなのだろう。気付けば、その馬は先頭へと躍り出ているのが見えた。
(──やっぱり、こいつは別格だ!)
追いかけようと、速度を上げよう──として、彼は止めた。
視線を向けるまでもなく、手綱を通じて彩音より『行くな』と指示が来たからだ。
ハッと我に返った彼は、そのまま視線を先に……再び近づいて来るカーブに、フンスと息を吹いた。
──焦るな。
──まだ、焦るな。
──勝負は、最後の直線だ!
そう、己に言い聞かせながらコーナーへと入る。
遠くより聞こえてくる歓声が徐々に近づいて来るのを感じ取りながら、外に膨らまないように小刻みにステップ……そうして、大歓声の前へと──。
『ホワ! 行くよ!』
(──ヨシッ! ぶちかますぞ!)
──躍り出た、その時。
ばちん、と。
トモの辺りにピリッと衝撃が走った。
瞬間、カッと全身の血が燃え上がった感覚と共に、ギュルルンと身体中を流れる血液が加速するのを感じて。
──行くぞ、全部ぶち抜いてやる!
その熱に後押しされるがまま、彼は渾身の力を込めて加速を始める。ギュンギュンと皮膚を撫でてゆく風が強くなる。
合わせて、音も変わる。
煩いとすら思っていた歓声も遠く、己の心臓の鼓動と呼吸の音と、背中に乗せた彩音の存在感だけがどんどん強くなってゆく。
グイグイグイッと、彩音に首を押されて前後する。トレーニングで知ったソレは、己がより速くなる為の方法。
──行けぇぇぇ!!
一頭、また一頭、前を走っていた馬が後ろへと流れて行く。完全とは言い難いが、例の走行をも駆使してさらに加速し、先頭を進む例のヤツへと迫る。
(──ば、バカな!?)
しかし……そこで、予想外の事態が起こった。
それは、クレイジーボンバーとの間に広がっていた空間を、思っていたよりも詰められないのだ。
全身の手応えからして、加速は何事もなく行われている。足腰の調子は良く、例の走行を問題なく行えている。
なのに、距離を詰め切れない。近づいては、いるのだ。だが、他の馬たちは並ばずに抜き去ったというのに、ヤツだけは違った。
純粋に、速いのだ。彼が加速した分だけ、クレイジーボンバーもまた、加速している。だから、抜き去れない。
……クレイジーボンバーは、己と同レベルのエンジンを積んでいる!
それを理解した彼は──直後、レースに出て初めて覚えるかもしれない焦燥感と共に、とにかく前へ前へと足を回転させる。
(やろう、負けて堪るか!!)
初めて感じる、強烈な息苦しさ。吸っても吸っても、『もっと酸素を寄越せ!』と悲鳴を上げる肺の疼きを尻目に、彼は駆ける。
上り坂へと差し掛かり……少しずつ、距離は近付く。
だが、遠い。
近づいているのに、抜かせられない。あとちょっとが、届かない。
同じく息苦しそうに、それでいて必死に走っているのを横目で確認出来るのに、後ろへ流れてくれない。
──もっとだ。
──もっと速く!
──もっと、もっと、もっと!
負けられない、こんなところで負けてはいられない。
もっと沢山勝って、もっと賞金を得て、もっともっと……育ててくれた皆の為にも、俺は負けてなどいられ──。
『ホワ! 止まって!』
──そこまで無意識に思考を巡らせていた、時であった。
(……彩音、さん?)
夢から覚めるとは、この事を言うのだろう。
突如背中より響いた彩音の声に、ハッと彼は我に返る。途端、頭の中をシェイクされるような大歓声が、彼の鼓膜を揺らした。
『落ち着いて、そう、落ち着いて……良い子だから……』
(え、あれ、レースは?)
我に返ると、とてつもなく息苦しい。
無我夢中で酸素を吸っては吐くけれども、バクンバクンと奏でる心臓の音が静かになってくれない。
……あ、もしかしてゴールしたのか?
そこまできて、ようやく彼は理解する。
ついで、手綱より伝わる指示に意識を向けた彼は、緩やかに速度を落としながら……チラリと、彩音を見やる。
彩音は、何も言わない。
彼に負担を掛けないように重心を巧みに動かしながら、労わるように首筋をポンポンと叩いてくれるだけだ。
……。
……。
…………ぐるりとコースを回ってきた彼は、未だ続く歓声が響くスタンド前へ進む。
小走りに、置田が駆け寄って来るのが見える。そこへ向かえと指示が出されたので、そのまま従って……と。
(……ああ、そうか)
途中、己が向かう方向とは違う場所。そこには、大勢の人達が集まっている。カメラやマイクなどを持った者たちの人だかりの中に、彩音以外の騎手が立っていた。
その騎手は、たしか……彼の記憶が確かなら、クレイジーボンバーの騎手だ。見覚えが、あった。
そして、肝心のクレイジーボンバーは人だかりのさらに向こう……騎手よりは少ないが、カメラマンが追いかけて撮影をしているのが見えた。
(俺は……ああ、俺は……)
その二つを目にした彼は……そこで、ようやく理解した。
──己が、負けたのだということを。
そう、認識すると同時に……彼は、彩音を見やった。
これまでとは違い、何かを察したのか……彩音は、スルリと彼の背中より降りると……ギュッと、首筋に腕を回した。
『ホワ……悔しくても、負けは負けだよ』
その呟きは、まるで独り言のような話し方だった。
そのまま己に言い聞かせているのか、それとも彼に語りかけているのか……彼には分からなかったが、彼はそっと耳を澄ませた。
『どれだけホワが凄くても、今日のレースに勝ったのは向こう。負けたのは、ホワ。それだけは、変えられない』
……だからこそ、なのだろう。
『ホワは頑張った。凄く頑張った。でも、勝ったのは向こう。信じたくなくても、そこは変わらない』
その、厳しくも慰めてくれる、彩音の言葉に。
『……悔しいね、ホワ』
気付けば……彼は、大粒の涙を零していた。
傍に来た置田も、写真を取りに来た記者たちも、驚いたように手を止めたが……彼もまた、己の涙を止められなかった。
……ただ、悔しかった。
あと一歩、あそこで加速していれば、別のタイミングだったならば、いろんな考えと後悔が脳裏を過る。
『ホワ、一緒に頑張ろう。この負けを糧にして……リベンジしましょう』
けれども……どれだけ後悔しても、悔やんだとしても。
今日の勝利者は、クレイジーボンバーで。
彼は……ホワイトリベンジではないのであった。
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