第98話 勝者

 俺の『魔法』による電撃をまとった【ミリアド】、その形態のまま<スキル>を放った斬撃は、ついにすめらぎの絶対防御を正面から崩した。


 確かな感触と、皇の上げた声。

 直後に後方から人が倒れる音が聞こえ、勝利を確信した。


『そこまで! 勝者、国立探索者学校、天野翔!』


 突然の出来事に会場中が息を呑むも、その審判のコールで今まででも一番の大歓声が上がる。


「「「──っわああああ!!」」」


 歓声を上げているのは大きくは国探側。

 それでも、関西側からの声援も少なからず聞こえてくる。


 途中、目黒めぐろの不自然な行動の数々もあったが、最後には良い戦いを見せられたのではないか、とそう思う。


 小っ恥ずかしいが、やってみるか。


 俺は、今なおバチバチッ! と稲光りが起きる【ミリアド】を上に掲げて、歓声に応えた。


 柄じゃないんだけどなあ、とは思いながらも……


「「「わああああ!!」」」


 歓声がまた応えてくれる。

 き、気持ち良い~!


「似合わないね」


「! お前は」


 目黒とばりだ。

 彼は、倒れる皇を抱えて声を掛けてくる。


 こいつとは結局誰とも武器を交えることなく、終始謎のままだった。


「あんたはおれに、皇に勝ってほしいと言った。これで満足なのか?」


「ええ、大いに。ありがとうございます。これでまた一歩、に近づきました」


「計画? 一体何を──」


 意味深な目黒に聞き返そうとするも、同じく席から降りて来た仲間達がそれを許さなかった。


「かーくん!

かける!」


「おわっ!」


 一番に走って寄って来たのは華歩かほ夢里ゆり


 危険な【ミリアド】を咄嗟とっささやに収め、最後に勝利を飾ったおれに、大胆にも抱き着いて……は、こなかった。

 

 途中までそんな雰囲気で走ってきたのに、上がり続ける歓声で我に返ったのか、勢いを弱めてしまった。

 結果的に、腕を前に広げたまま、おれのすぐ前で立ち止まる。


「抱き着いてもいいぞー!」

「青春だねー!」


 ちらほらと聞こえてくる、声援にも嫉妬しっとにもとらえられる声に、二人ともうつむいたまま赤面してしまった。


「可愛いわね」

「ほんと、ほんと」


 そんなおれたちに、余裕の態度を見せる少し年上のお姉さん方。

 “三傑”、妖花あやかさんと大空そらさんだ。


「けど、可愛い人がもう一人いるようで」

れいは抱き着かなくて良いのかな~?」


 そんな二人が視線を送る先は、模擬戦入口から歩いて来る麗さん。


「……誰が抱き着くものか」


 そうボソッと呟いた麗さんの顔も少し赤く、目線を合わせてくれない。

 なんとなくの気まずさから、まずは声を掛ける。


「麗さん、大丈夫でしたか」


「ああ、問題ない。あの時は少々無理をしたツケが回ってきただけだ。止めてくれてありがとう」


「いえ、その、あの時は体が勝手に動いたって言うか……」

 

「ふっ、それが翔なのだろう」


「!」


 いつもの、少しだけ口角を上げた笑顔。

 それを以て、ようやく麗さんは目線を合わせてくれた。


「きゃー」

「青春だねえ」


 妖花さんと大空さんは相変わらずのようだけど。


「うるさいぞ、そこ」


「ははは……」


 国探側は完全なる穏やかムード。


 そんな中で、おれは関西側まで歩き、先程まで戦っていた者に口を開く。

 一種のけじめというやつだ。


「次は万全の状態でやろう」


 言葉の先はもちろん皇。

 対して皇は、


「……っせえ!」


 怒号にも聞こえる言葉をおれに浴びせる。


 おれが言いたかったことはこれだけ、そう思いながら皇に背を向けると、後方から続く声がした。


天野あまの翔」


「なんだ」


 皇に背中越しに顔を向ける。


「次は……殺す」


 それだけ言い残すと、目黒に肩を貸されている皇もまた、おれに背を向けた。


 次は「倒す」ではなく「殺す」。

 そう言うところが、またこいつらしいなと思ってしまう。


 そんな皇だが、剣を交えて分かることがあった。

 彼もまた、このステータスが全てのダンジョン社会で生まれてしまった、悲しきモンスターのようなものなんだ。

 

 生まれた時からすでに最強、ゆえに傲慢ごうまん

 今度どんな形で会うかは分からないが、その時はちゃんと向き合えるようになりたいと思う。


 なんて考えるのは、甘すぎるだろうか。


「翔、お前らしいな」


「何がですか?」


「あいつのことまで、気にかけるところがだ」


「いや、まあ……」


 皇のように圧倒的な力を持っていたわけではないが、異世界で勇者としていた時も傲慢な奴は嫌というほど見てきた。

 そんな者の辿り着く先は、決まって破滅だ。


 仲間からの裏切り、自滅、敗北など色々あるが、傲慢を貫いて良い事はない。

 そんな思いから、救ってあげたいと心の隅で思ってしまった。


 だがまあんな風に肩を貸してくれる友もいる。

 大勢の前で負かされたおれに対しては憎しみもあるだろう、後は周りがなんとかするだろうさ。


 一度敗北から立ち上がれば、人間は一皮むけることが出来る。


『国探側4対関西側1。東西対抗戦は、国探側の勝利! 礼!』


「「「ありがとうございました!」」」 


 こうして、東西対抗戦は幕を閉じた。







「わー、わー」

「ぎゃー、ぎゃー」


 普段お上品のはずの国探生も、今はかなりのお祭り騒ぎ。

 なんたって、


「「「改めて、おめでとう!!」」」 


 東西対抗戦に勝利した、お祝いのパーティーなのだから。


 国探校舎内の、パーティー専用の会場。

 なぜあるのかすら分からないその施設は、こういったイベントのためらしい。


 この会には十人の選抜メンバーはもちろん、多くの国探生が参加している。

 どうやら、東西交流会が終わった後の恒例のイベントなのだと。


 ただ、そんな中でも


「麗様! 感動して前が見えませんでした!」


「妖花さんの『魔法』、本っ当に痺れました!」


凪風なぎかぜくん、サインくださーい!」


 相変わらず人気者の周りは人が集まり、もはやサイン会と化している。


「凪風の奴、人気すぎんだろ」


「上級生からは特にだねー」


 隣で優雅にジュースをたしなむ夢里と、上級生女子に囲まれる凪風を眺める。


「かーくん、羨ましいの?」


「べ、別に?」


「はっはっは! 天野、顔に出ているぞ!」


「うるせえなあ」


 華歩・豪月ごうつき共に、おれをあおる煽る。

 たしかに「ちょっと邪魔になっちゃうかもだから」とか言いながら、このテーブル席を離れていく凪風は、ほんの少~し羨ましかったけどさ。


「まあまあ、翔もかっこよかったよ」

「そうだよ、自信を持って」


「なんかなぐさめられてない? おれ」


 そんな会話をしながら、上級生の余興などもあった会を楽しんだ。

 

 最初こそ来なかったものの、後でそれなりには女子生徒がおれの元に集まったので、心の平穏は保てた。


 なお、それを見た華歩や夢里は面白くなさそうだったが。

 二人にもいっぱい男子生徒が集まって来てたのは、おれもちょっと心がズキッときたけどね。





 そうして、会もそろそろ終わりを迎えようという頃。

 おれは、そっと抜け出して一人の女子生徒と会っていた。


 気になるどうこう以前に、おれには真実を突き止める使命がある、そう強く感じていたからだ。


「話、聞かせてくれるんだな」


「……」


 後ろから声を掛けると、彼女は振り返ってこくりと頷く。

 東西対抗戦中、おれの耳元でたしかに「シンファ」と告げた彼女、七色ななしきさんだ。


 この話が、のちにおれの行く先を決める大きなきっかけとなるのであった。

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