第97話 皇の秘めていた武器、それをも

 すめらぎは、おれの電撃をまとった形態の【ミリアド】をプライドを捨てて“避ける”と、自身の武器を破壊した。


 今しがた破壊されたのは、金と銀に塗り固められた目立ちたがりが好むような槍だが、その性能の良さは見て取れた。

 おそらく額も相当なものだろう。


 そんな槍を破壊し、中から持ち出した武器。


 持ち手部分は破壊前と変わらず、中から出てきたのは細い槍。

 今までの派手な槍からは一転、真っ黒に染まった細長い槍だ。


 だが、


「……!」


 視界に入っただけで伝わってくる、この恐怖とも呼べるほどの威圧感。

 能力、強さは見るだけでは分からないものの、明らかにと直感できる武器。


 素人目にも凄いだろうと分かる武器だが、見る目があるほどにその真価に気づく。


「なんだ、それは……!」


「【グングニル】。神話のオーディンから取って付けた名だぜ。かっけえだろ」


 かっけえ、とかそういうレベルじゃねえ!

 

「はあああッ!」


 キンッ!


「どしたい? そんなに焦ってよ」


「くっ!」


 雷をまとった【ミリアド】は、振り下ろす力が強いほど、遠心力でどこまでも電撃が伸びていく。


 そのリーチ差を生かして戦うはずが、おれは皇の武器を見た途端に冷静さを失い、突撃してしまっていた。


 早々に決着を付けなければならない、そう直感させられたからだ。

 しかし、そんな単調な攻撃では防御に破れるはずもなく。


 そうして、一旦距離を取ったところで、


「じゃあ【グングニルこいつ】、お披露目していいか?」

 

 皇はやり投のように武器を構える。

 そして、ポイッと槍を投げた。


「!」


 ガキィィィン!


「なっ!?」


 皇の放った【グングニル】。

 それは螺旋らせんを描くようにしながら、おれに向かって飛び、両手に持つ【ミリアド】と交差する。

 

 自動追尾!

 神話の【グングニル】再現ってかよ!


「──っらあ!」


 それでも、目一杯の力を込めてなんとか弾き返す。

 おれに弾き返された【グングニル】は、また皇の右手に勢いよく収まった。


「お~、やるじゃん」


「ふう……」


 ただ軽く投げただけの槍が、今の威力かよ。

 これは、まずいことになった。

 

 言わずもがな、皇は複数<スキル>による絶対防御に守られている。

 先程は、あと一歩というところまで電撃【ミリアド】が押し込んだが、また回避されればダメージを与えるのは難しい。


 その状況で、次は【ミリアド】と同等クラスの自動追尾武器だって?

 冗談も大概にしてくれ、まじで。


「気に入ってくれたかな? 天野あまのかける


「嫌になるほどな」


「それは良かった」


 皇は槍を投げ、またも両手を横に広げた舐めプ態勢に入る。

 いちいち舐めた態度を取らないと気が済まないのかよ!


 それでも、


「ぐぅっ!」


 この【グングニル】が厄介なのは事実。

 くそっ、これならあいつの言う通り、一発目で決めておかなければならなかった!


 それほどに、この最強の矛と盾は強力だ!


「こんなことも出来るんだぜ?」


「!?」


 皇は、自身の手を上下左右、また握り、開くのを繰り返す。

 って、これ、まじかよ!


「──!」


 【グングニル】の遠隔操作か!

 ちくしょう、これが攻撃に移れない!


 どうする!?


「翔!」


 そんな時、模擬戦場入口から、おれを呼ぶ声が届く。


 少し高く、透き通るような声。

 それでも、今も鳴りやまない歓声にも紛れることなく、はっきりとおれの耳に届くこの声。


 目線を移す必要もなく分かる。

 麗さん……!


 戦闘中であるおれは、目線を外せない。

 それでも構わず声を掛けてきたのは、おれが声だけで麗さんだと分かるだろうと、あちらも理解しているから。

 

 今も絶賛戦闘は継続中だ。

 そんなおれに、麗さんは一言だけ。


「勝て!」


「!」


 その一言だけで、視界が広がる。

 視野的なものではなく、思考的なものだ。


 そこでやっと気づく。


 目の前に全て集中を向けども、時々耳に入る大きな歓声。

 模擬戦ではなく“本番”という中での戦闘。


 おれは最初から、雰囲気にのまれてしまっていた。

 それも【グングニル】を目にした時からは、より一層焦っていたのだろう。

 それからずっとあいつのペースだったんだ。

 

 情けない。

 気に入らない相手だろうと、戦闘では常に冷静でいるべきだ。


「──ッ!」


 皇が操作し続ける槍を弾きながら、頭をフル回転させる。


 おれがあいつに勝つには?

 何かアクション、それも今までのおれを超える形で起こすしかない。


 じゃあ、おれ自身の持ち味はなんだ?

 どんな武器も使いこなす器用さ、加えて『魔法』と<スキル>の量。


 【ミリアド】には今、『魔法』が付与されている。

 これ以上、この武器で出来ることはないか……


「!」

 

 いや、ある!

 ……だが、異世界で勇者をしていた時も、二つを交互に使うことはあっても、同時に使うことは無かった。


 『魔法』と<スキル>の同時使用。


 おれに出来るか? いや、やるしかない!

 現代に戻って来て、みんなと多くのことを乗り越えて、多くのことを学んできた。


 異世界で学んだものもかけがえのないものではある。

 だがそれは、現代ここでも同じだ!


 魔王を倒し、極めたと思っていた戦闘も、みんなのおかげでさらに多くの戦いを学んだ。

 確実に言える、おれはあの全盛期をもまだまだ超えていけると!


「見せてやる」


「ほう」 


 バチバチッ!


 激しく閃光をまき散らす【ミリアド】を右手に、おれは皇に向かって踏み出す。


「あ? また同じか?」


 突進する俺に、当然皇は槍を放ってくる。

 多少の警戒からか、思いっきりぶん投げてきた。


 しかし、


「──は?」


 それを俺は弾く。

 先程までは打って変わり、今はが乗っているからだ。


 バチバチバチッ!


 だがその動きの速さから、【ミリアド】の制御の難易度が一気に増す。

 ……それでも!


「いけえええ!」


 暴れ狂いそうになる【ミリアド】を必死に抑え、おれは自然と走る剣の動きに身を任せた。


三剣刃トゥリア・ラミナ


「──がはぁっ!」


 激しい電撃をまとった【ミリアド】。

 それを用いて放った<スキル>は、皇の絶対防御を破った。

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