第96話 プライドを捨てた皇帝

 すめらぎ聖斗あきと

 はっきり言って、おれはこの男を好きにはなれない。


 けど、その実力は間違いなく本物。

 接戦だったれいさんとの対決を、<スキル>を解放することで難なく倒し、おれを前にしてもまだその憎たらしい態度を崩さない。


 こいつと正面から向き合って、ようやく自分の気持ちに気づいた。

 おれは、ワクワクしてる。


「回復は済んだのか?」


「ああ、もう問題ないぜ。さっさとかかってこいよ、三下さんしたが」


 麗さんとの戦いの後、皇は一度回復を施された。

 傷があったのもそうだけど、連戦だからな。


 それでも、


「手は抜かないぞ」


「俺様は抜くけどな」


「減らず口め」


「はっ! てめえこそ!」


『それでは大将戦、天野あまのかける対皇聖斗、開始!』


 審判員の合図と共に、おれは相棒の【ミリアド】を抜く。

 まずは通常形態にして最も使い慣れた形、剣だ。


「──はああっ!」


 キィン!


「無駄だって言ってんだろ」


「うるせえ!」


 皇に備わるという<スキル>の前に、おれのステータスと【ミリアド】を以てさえも、簡単に弾かれてしまう。


 この絶対的な防御力は分かっていたことだが、やっぱり自分の目と体で確かめてみないとな!


「てめえ程度に、俺様の<スキル>が破れるかな?」


「やってやるよ!」


 皇は槍を自分の隣に突き差し、両手を横に広げてあおってくる。

 何もしなくても破られません、ってか!


 たしかに、おれの<スキル>を使ってもどうにもならないかもしれない。

 ならば、やることは一つ。


 おれは天に手を構え、『魔法』を繰り出す。


『上級魔法 雷撃槍らいげきそう


「あ! 私の『魔法』!」


 国探のメンバー側から、妖花あやかさんの声が聞こえてくる。


 そう、これは三年A組との模擬戦で、妖花さんがおれに使った『魔法』。

 あの模擬戦を決定づけることになった【ミリアド】の電撃状態、あれを創り出した『魔法』だ。


 さらに言えば、現状【ミリアド】が喰べたことのある『魔法』の中で、一番威力を持っているだろう。

 

「来い!」


 おれが手をぐっと掴むと同時に、上空から放たれた雷の巨大な槍は、おれに一心に向かってくる。

 それを【ミリアド】で受け止める!


「うおおお!」


 カッ! バチ、バチッ!


 【ミリアド】と『上級魔法 雷撃槍らいげきそう』が交わり、一瞬の閃光の後、激しい音を立てて衝撃が走る。


「はあっ!」


 ばくん!

 衝撃を抑えきった【ミリアド】は、雷の矢を吸収。


 そうして完成するのは、


「あの時のやつか……!」


「見てたのか」


 おれの前で激しく放電し、柄からは雷を形作ったような電撃が飛び出す無形の武器。

 【ミリアド】の真骨頂である、『魔法』そのものを操る形態だ。


 魔力パラメータやMPの問題から、妖花さんの『魔法』を飲み込んだ時にはまだ及ばない。

 それでも、目の前の憎たらしい奴を倒すには十分に思える威力だ。


「怖かったら避けることだな」


「はっ! 言ってろよ!」


 口は相変わらずだが、皇の目付きが明らかに変わった。

 多少、この形態にビビっているようにも見える。


 だが、全力のぶつかり合いだ。

 容赦はしない。


「うおおおー!」


 両手で上段に構えた【ミリアド】を、思いっきり振り下ろす。


 無形の武器であるがゆえに、今の【ミリアド】の射程は目では計れない。

 振り下ろす力が強いほど、遠心力でどこまでも電撃が伸びていき、相手を上から叩きつける。


 実際に、今おれが剣を振るったのも皇とは10メートル程離れた距離からだ。

 おれ自身扱いきれていないこの形態を、今はただ思いっきりぶつけるだけでいい。


「ぐあぁっ!」


 皇まであと50cmというところで、【ミリアド】が止まる。

 皇の<スキル>の防御範囲だ。


 だが、


「ぐ、うおぁ!」


「うおおおお!」


 じりじり、と皇側に押してはいる。

 だが、皇の体までは到達しない……!


 ギリギリのところで粘られている!

 あと一息なのに……!


「やるじゃねえか……よ!」


 ドガアア!


 【ミリアド】の雷撃は地面に叩きつけられる。

 皇が防御態勢から一転、【ミリアド】を横に避けたのだ。


 結果的に、攻撃は当たりはしなかった。

 だが、


「避けないんじゃなかったのか?」


「っせえ!」


 皇のプライドを捨てさせた。

 傲慢な男との戦いで、この意味は大きい。


「ならもう一発いくぞ?」


 しかし皇は笑った。


「天野翔。今ので決着を付けておくべきだったな」


「何が言いたい?」


「てめえになら、かもな」


 皇は、自身の武器である槍をぶん殴って破壊した。


「何を……してるんだ?」


 麗さんとの戦いでも、ほとんど使っている姿を見せなかったその槍。

 それなりの高性能を備えているだろう、それははたから見てるだけでも分かる。


 しかし、それは外殻がいかくに過ぎなかったのだ。


 皇は、槍の中から真の武器を取り出す。


「来いよ、天野翔。相手してやる」


「面白れえ……!」





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長らく更新をお待たせしてしまい、申し訳ありません!

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