第89話 美少女『魔法』コンビ

 東西交流会。

 間違いなく日本一競争の激しい国立探索者学校と、近年力を伸ばし続けて二番手の地位は揺るぎないものとなった関西探索者学校の、交流会である。


 いずれプロ探索者へと巣立っていくであろう生徒たちの貴重な機会であり、ここで出会った者同士が架け橋となり、関東のプロ探索者が関西にも拠点を置く際の足掛かりになった、というのはざらにある話である。


「うーん……ね」


「言い方な」


 凪風なぎかぜの唐突な発言にはさすがにツッコまざるを得ない。

 まあ、言いたいことは分かるが。


「ほな、いきましょうよ」

「ええですって、そんなもんは! とにかく楽しみましょうや!」

「とりあえずついていきますわ!」


 そこら中から聞こえる関西弁と、いつもとは違った賑やかな雰囲気にまれ、校内も見た事が無いような光景になっている。

 “関探”の人たちが来て、単純に人が増えているのも助けとなっているのだろう。


「でもさすがだね。こんな時もれいさんは落ち着いてる」


「麗さん……!」


 おれたちの視線の先には、この学校の会長として丁寧なおもてなしと、的確な指示で誘導を行っている麗さんがいる。


 隣で様子を見守る華歩かほ夢里ゆりも感心している。

 さすがに三年目ともなると慣れてくるのかな。


「「「麗様ー!!」」」


「はは、ありがとう。また後で話す機会がある。今はとりあえず、前に進んでもらえないだろうか」


「「「はい!!」」」


 そして関西の方にもファンは多いようで。


 東西交流会は、このようにこちらの学校で行われ、共に授業を受けたり、両学校の研究発表があったりと、何かと盛りだくさんのイベントである。


「……」


 こうして上から眺めているだけのおれたち一年生に、麗さんたちのような役回りはないが、今年は少し違う。


 この交流会の最後の大イベント、『東西対抗戦』におれたちが出場するのだ。

 それに、おれは一年生では異例の大将。


 麗さんが去年二年生で大将を務めたのすら異例だったらしいのに、それを上回ってしまった。特に威張ったりはしないが、プレッシャーはある。


 国を背負った勇者だなんだと言われてきたが、現代の高校生にもまた違った責任というものがあるんだな、と不思議に思った。


「かーくん、大丈夫? 顔強張こわばってない?」


「……大丈夫だよ。ちょっと楽しみなだけ」


「そっか」


 そう、きっと楽しみなんだな。


「!」


 最後に列を外れて入って来た一人の男と目が合う。

 おれが上にいるのによくわかったな。


「まってろよ」


 口は動いていなかったが、そう聞こえた気がした。

 すめらぎ聖斗あきとだ。


 そう、こいつとやるのが楽しみなんだ。







「「「わああああ!!」」」


 つい最近、三年Aクラスと戦った時を思い出すかのような歓声。

 いや、明らかにそれ以上だ。


「いてまえー!」

「いったれいったれ!」

「関東なんかぶっとばしたれ!」


 野次でない、おそらく応援の言葉があちらこちらから聞こえてくる。


 会場は大満員。

 そして自然と、会場も東側と西側で大方別れているみたいだ。歓声を聞けばそれが伝わってくる。


「いよいよだな」


 麗さんの声でみんなに力が入る。

 緊張で固まっているのはなく、良い力の入り具合だ。


 東西交流会もとどこおりなく進み、いよいよ最後の大イベント、東西対抗戦というわけだ。

 正直交流会があっという間だった、というよりおれがずっとここに意識を向けてたから、早く感じたのかもしれない。


 思っていたよりも交流することによる収穫や意外な気付き、若干仲良くなれた人なんかもいるが、今はこちらに集中しよう。


「まずはダブルス、頼んだぞ」


「任せなさい。ね、華歩ちゃん?」

「はい!」


 妖花あやかさんと華歩。

 大事な初戦は美少女『魔法』コンビだ。




『では、中央にお集まりください』


 これは二回目の招集。

 全体整列は済んでいるので、出ていくのは試合を行う妖花さんと華歩のみ。


 行ってくるよ、そう目で伝えてきた華歩は、自信を持って出ていく。

 こうして見ると、たくましくなったよなあ。


 杖を握りしめて整列する華歩の姿に、安心感を覚える。

 相手は、明らかに前衛っぽい豪月ごうつきのようなガタいの良い男と、同じく杖を持った『魔法』を扱いそうな女の人。

 多分、強い。


 けど……


「うん」


 これは負けない。





『第一試合ダブルス、始めっ!』


 両チーム配置が済んだ後、すぐに試合が始まる。

 さあ、どうなるか。


 って、いきなりかよ!


「『中級魔法 雷陣』」

「『上級魔法 聖者せいじゃの光』」


 相手チームの上方に黄色のまばゆい魔法陣が出現する。


 雷陣。

 その名の通り、上空の魔法陣から落ちる雷が、円の陣を敷くように敵チーム戦地を囲った。


 相手に後衛がいない構成だからこそ囲える範囲だ。

 今回のルールによく適している。

 

「なんだ!?」

「くうっ!」


 雷がひしめく範囲からは、相手二人は出られそうもない。

 相手チームは一瞬にして雷のろうに囲われたのだ。


「はああっ!」


 妖花さんが出現させた黄の魔法陣に、ぴったり重なるよう華歩が白のきらめく魔法陣を出現させる。


 『上級魔法 聖者の光』。

 光を属性として持つ『魔法』は、他のどのような『魔法』とも相性が良い。


 二つの魔法陣が重ね合わさる時、白と黄、混ざり合わさってホワイトゴールドのような色をした魔法陣が完成する。

 疑似的な二重魔法陣だ。


 その威力は絶大。


 ドゴオッ! と轟音ごうおんを鳴り響かせ、相手チームの上空から雷とも光ともとれる『魔法』を炸裂させる。


「「「!」」」


 横をちらっと覗けば、もれなく全員驚いている。

 ダブルスに中衛二人という采配は若干の疑いを持ったが、これには天晴あっぱれだ。


「嘘でしょ……」


 思わず声を漏らしたのは大空そらさん。

 凪風が彼女と似たような表情で驚いていたのは、面白いけど内緒だ。


「まあ……と、当然だな」


 どの目線なんだよ、豪月こいつは。

 相変わらず腕を組んで戦況を見守っている大男。

 腕疲れない? というより、もはやこの姿勢がこの筋肉を育ててるのでは。


「ごはっ……」


 おっと、戦況が動いた。


 ガラガラ、と物体オブジェクトである岩から身を出したのは相手チームの前衛の男。

 防御と同時に、咄嗟とっさに岩で中衛の女の人ごと覆ったか。

 

 さすがに一筋縄ではいかない。


 ……いや、勝負ありか。


 二本の杖が交差し、国探こちらの『魔法』トップ二人から創り出されているのは、バチバチと周囲に電撃を帯びた大きな火の球。

 元々気の合いそうな二人だったが、戦闘においてもここまで息を合わせてくるとは。


「はっ、降参だ」


 相手チームの男は中衛の女の人に肩を貸し、そう告げる。

 女の人がどう見ても戦闘不能だからな。


 審判員も分かっていたかのように宣言した。


『第一試合、国立探索者学校の勝利!』


「「「わああああ!!」」」


 より大きな歓声が会場内に響く。


 すでに響いていたのかもしれないが、おれにはあまり聞こえなかった。

 それほどまでに、彼女たちの『魔法』に魅了され、試合に見入ってしまっていたのだろう。


 妖花さんと華歩は『魔法』を収め、コツン、と両の杖の先を合わせた。

 これ以上ない好スタートだ。


「今年こそは、と思っていたが何もさせてもらえなかったか」


「あんたの咄嗟の判断も、大したもんだけどね」


 妖花さんが相手チームの男に告げる。


 同感だ。

 あの時の咄嗟に後ろを守ろうとする判断は、前衛に必要なこととして最たるものだろう。

 今回は相手が悪すぎただけだ。


 そして、間隔を空けることなく次の試合へと進む。


「!」


 なんだ、この刺すような視線……。

 ちっ、またか。







「さすがに無理だったかー」


「そりゃ無理だろうよ」


 始めから可能性なんて信じていなかったような会話をしているのは、関西探索者学校サイド、代表メンバーの二人。

 それも左端、つまり大将と副将だ。


「そもそも、ここ数年でも去年の君ぐらいしか勝てた試しがないからね」


「あ? そうなのか? まあ、だろうな」


 友人Aと名乗る人物と、皇聖斗である。

 この話の通り、去年も大将戦に皇が勝ったのみで、結局関西は一勝のみだった。


「結局は茶番なんだよな。早く出番回って来いよ。なあ」


 遠く見つめる先は国立探索者学校サイド、代表メンバーの端、大将の座る位置。

 

 皇と翔の大将戦まで、あと三つ──。

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