第88話 組み合わせ発表

 土日が明け、月曜日の放課後。

 おれたち一年AクラスAチーム、れいさん三年AクラスAチームを含め、約三十名が集められた。


「ここに集められた者は、東西対抗戦の選抜メンバー候補だ」


 あの人は三年の先生だ。

 先週の対抗戦を踏まえて、ここにいる人たちで最終選考というわけか。


「ここから一週間、各自様々な組み合わせで競い合ってもらう。ただし、各々の時間をそこまで取る気はない。よって、この時間は一日につき一時間のみとする」


 国探はダンジョンに潜らせるために授業時間を短く早くするぐらいだからな。

 対抗戦も楽しみではあるが、正直ありがたい。


「時間はないが、君達なら無駄にすることなく有意義な時間になると考えている。各々集中して臨むように」


 ここにいるのは間違いなく国探でも最高峰の三十人だ。

 一人気になる人物はいるが。


「……」


 まあいいか、彼女もしっかりとした実力者だ。

 今は自分のことに集中しよう。


「では、今日の組み合わせは──」


 こうしておれたちの最終選考が始まる。








「なんというか、あっという間だったねー」


「そうだな。実際に一時間だけだし、授業が一つ増えたぐらいの感覚だったな」


 金曜日の放課後。

 これからいよいよ選抜メンバー、組み合わせが発表される。


「でも副将戦、大将戦は正直決まっているようなものだよね」


 夢里ゆりがこちらをちらっと見る。


「まあ、かーくんと麗さんだよね」


「そうだと嬉しいけどな」


 おれも【ミリアド】を思う存分使ってみたい気持ちがある。

 あの対抗戦以降、色々と試してはみたものの、正直限界ギリギリを出したわけではない。周りの被害が計り知れないからな。


 それに、すめらぎ聖斗あきと

 麗さんがリベンジしたい気持ちもあるかもしれないが、おれはあいつを倒したい。


「私はまず選ばれるかどうかだよー」


 夢里がうなだれる。


「大丈夫だろ。活躍もかなりしていたし、今の夢里のポジションは唯一無二だよ」


「そうかなあ」


 夢里は時々自己評価が低いように感じるが、おれからすれば選考は確実に見える。

 華歩かほ凪風なぎかぜはどう見ても受かるだろうし、豪月ごうつきも心配はない。


 あと気になるのは、


「……」


 おれはの方をちらっと見た。

 いつの間にあんな力をつけたんだ。


「全員、集まっているか」


「!」


 先生の声が聞こえ、集まっている三十名全員がすっと姿勢を正して並ぶ。


「これから対抗戦メンバー、そして組み合わせを発表していく」

 

 思わず唾を飲んだ。

 いよいよだ。


「ではダブルス(二対二)より順に発表していく。呼ばれた者は受かったと思え」


 周りを見れば緊張の色が見える。

 さあ、合格者第一号は誰だ。


「ダブルス。百桜さくら妖花あやか小日和こびより華歩」


「!」

「やった」


 妖花さんは驚いた顔を見せ、隣にいる華歩は小声で喜んでいる。

 『魔法』コンビか。これは意外というか、かなり面白い。


「続いてチーム(三対三)一組目。豪月とう星空ほしぞら夢里、むすび大我たいが


 豪月と夢里だ。


 それに結さんは、三年Aクラスの麗さんたちにサポートをしていた内の一人。

 『中級魔法 身体装甲』などを得意とする人だ。

 攻撃的な二人にとっては申し分ない支援役サポーターだろう。


 あとは、次だな。

 おれの予想だと……


「チーム二組目。静風しずかぜ大空そら凪風なぎかぜつばさ──」


 そして、


七色ななしき彩歌さやか


 やはりか。

 七色さん。彼女はこの学校に来て初めてのチーム戦で、豪月とおれとチームを組んだ人だ。あの時もそうだが、彼女の“召喚士しょうかんし”という力は未知数。


 さらに、彼女は全体的に目立っていた。

 遠征か何かで、対抗戦には三年Aクラスとの対決にしか顔を出していないはずなのに選考に残るインパクト。

 最終選考でもその実力を遺憾いかんなく発揮していた。


 しかし、周りは明らかにざわっとする。

 声を出したり不満を述べる者はいないが、おれたち五人以外の一年生が選ばれたのだ。良くも悪くも衝撃だろう。


「な、なんで……」

「まあまあ、翼。頑張ろうよ」


 凪風は地面に手を付き、大空さんがなだめる。

 あっちはあっちでいつものやり取りだ。


「……」


 だが七色さん、おれにはまだこれ以上の何かを隠し持っているように感じる。

 

「続いて副将戦」


 ここだな。


清流せいりゅう麗」


 これには周りも先程以上のざわつきを見せる。

 なんだかんだ言っても麗さんが大将、そんな気があったのだろう。


 それならば、おれも覚悟は出来ている。


「大将、天野あまの翔」


 余計に負けられない!


 こうして、組み合わせと十人の選抜メンバーが決まった。








「こんな日にまで遅刻ギリギリか?」


「あー? 良いだろ間に合ったんだから。珍しくよ」


「はっはっは、朝はまず来ないもんな」


 友人Aとすめらぎがバスの最後列で話をしている。

 これから国探へ向かうための、関西探索者学校の生徒が乗ったバスだ。


「おい、なんだその口の利き方は。リスペクトってもんを忘れたんじゃねえだろうな」


 皇は友人Aの胸倉むなぐらを掴む。


「やめてくれよ、テンションがちょっと上がってるだけさ」


「ちっ、そうかよ」


 皇は払うように離した。


「ふっふっふ」


「何がおかしいんだ?」


「いいえ、別に」


(本当に、楽しみですねえ) 


 ニヤリとした顔で窓の外を眺める友人Aであった。

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