第73話 鍵と限界

 国立探索者学校、月曜午後。

 今日から本格的な「上級生との対抗戦」へ向けた実戦的授業が行われている。


小日和こびより!」


「うん!」


『上級魔法 豪火炎』


 豪月ごうつきが隙を作り、華歩かほは溜めていた『魔法』を相手チームに放つ。


「私が出る!」


 華歩の『魔法』に対して、相手チームである夢里ゆりがアサルトライフルを持って前に出た。


(視えた!)


<急所特定> <五点バースト> <精密射撃> 


「「「おおっ!」」」


 華歩が時間を短縮して放った『魔法』の不完全な部位を瞬時に見つけ出し、その点を正確に撃ち抜くことで夢里は宙で魔法をき消した。


星空ほしぞらさん……!」


 この夢里の技術には、同じチームである凪風なぎかぜも観客席にいる生徒と同じ驚いた反応を示す。


「夢里ちゃん! ……でも」


「!」 


「本命はこっち!」


 華歩の手元をよく見れば、今の『魔法』は左手で放っただけであり、杖を介していなかった。

 華歩は元よりずっと溜めていた、杖を握る右手の『魔法』を解放する。


『上級魔法 聖者せいじゃの光』


「「くうっ!」」


 華歩より放たれた『魔法』の光に飲み込まれ、ダメージを受けることは無くとも凪風の持つ小刀、夢里の持つアサルトライフルが破壊される。


「そこまでだ! 小日和・豪月チームの勝ち」


「「「おおおー!」」」 


 観客席の生徒は、クラス内でも屈指の実力者たちの戦いに大いに盛り上がりを見せる。


 その中で、引率のヒーリ先生と共に授業の様子を覗きに来ていたにも変化が起こる。


「あれは……聖者の、光?」


「! 分かるの? シンファちゃん」


 ヒーリ先生はシンファの肩に手をついて詰め寄るが、彼女は首を横に振る。


「なんとなく、名前が、出てきただけ」


「……それでも立派な進歩だわ」


 シンファの肩から手を離し、ヒーリ先生は再び模擬場へ視線を移す。


(シンファちゃんの記憶を戻す鍵は、もしかすると……)


 ヒーリ先生は遠くから華歩をじっと見つめる。







 時を同じくして、ここは大阪ダンジョン。

 かけるが階層を進めながら素材を集めているところだ。


「ちょ、ちょっとカケル! 今日の目標はもう済んでるじゃない! まだ進むって言うの!? さすがに無理し過ぎよ!」


 朝十時ごろから大阪ダンジョンに潜り始め、ダンジョンの外ではもうすぐ夜の十時を過ぎようとしている。


 カケルには出来る限りの協力はしたいフィだが、今日はこれでカケルを止めようとするのは三度目。

 

 翔は長時間の探索で何度もMP切れを起こしたが、その度にMP回復薬で全開にしてフィを再召喚してきた。

 フィは翔のMPさえ吸収すれば疲労を感じることはないが、翔自身の疲労はもちろん溜まる。


「フィ、おれはもっと強くなりたい。そのために早く素材を集めて早く武器を作るんだ。そのためにも」


「ただでさえ、かなり大変な予定なんだよ! これ以上無理してどうするの!」


 フィは珍しく本気で怒っている。

 無論、翔のことが心配だからだ。


「それでも──」


「カケル!」


 ついに体の限界が来たのか、翔はふらついている。


「──! 誰!?」


 そんな中でフィは背後から迫る者を感知して後方を振り返る。

 魔物ではない、翔と同じ探索者の気配だ。


「ボロボロじゃないか」


「……?」


 ここにきて急に疲れがどっと出始めた翔は、意識をもうろうとさせながらも声を掛けてきた人を見上げる。


(誰だ? この。うっ──)


「おっと」


 男は倒れ込んだ翔の肩を拾い上げ、転移装置ポータル方向に足を向けた。

 フィがこの男をすんなりと通したのは全く悪意を感じられなかったからだ。


案内妖精ガイドピクシー、だよね? 転移装置ポータルまで案内してもらえる?」


「!」


 うんうんうん! と勢いよく首を縦に振ったフィに続き、翔に肩を貸す男は引き返していく。




 

「……ん」


 疲れが取れたのか、ゆっくりと目を覚ます翔。


(ここは……宿か? おれの部屋ではないみたいだけど)


 起き上がって周りを見渡し、借りている宿とは似つつも違った雰囲気に戸惑う翔。


「気が付いたみたいだね」


 そんな翔に反応して、いじっていた端末から手を離したのは翔を助けてくれた男だ。


「あ、さっきの」


「そうだよ」


「ありがとうございました。それで、えっと……あなたは?」


 翔は感謝を伝えて男の顔を見る。


(同年代くらいの人だ。大人ではなく、おれと同じ高校生ぐらいに見える)


「そうだね、なんて説明したら良いかな。ここはすめらぎ聖斗あきとの友人A、とでも言っておこうかな」


(あいつの!)


「何の……用ですか?」


 翔は皇に対する嫌悪感から男を少し警戒した。


「あ、ごめんごめん。友人と言っても君に危害を加える気はないよ。ただ、君にお願いをしたくて」


「お願い?」


「そう」


 男は一つ息をつき、再び翔と目を合わせた。


「君には、皇聖斗に勝ってほしいんだ」

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