第74話 大阪遠征の成果

 大阪ダンジョン第30層ボス部屋。


「うおおお!」


四刃の剣グラディウス・クローバー


 レベルアップにより、四連撃<スキル>を使えるようになったおれの猛攻で【煌炎おうえんタートル】は倒れ、その巨体がダンジョンへと取り込まれていくのと同時にアイテムがドロップする。


 東京ダンジョンよりも難易度は低いとはいえ、本当に一人で第30層を突破出来るとは。

 フィの助けはもちろん、全て知っている魔物だったのも大きいかな。

 

 だがそんなことより今は、

 

「これで……」


「「終わったー!」」


 大阪遠征最終日の金曜。おれたちはついに指定された素材を集めきった。








「無事に集まったんだね。お疲れ様」


「おかげさまでな。ありがとう」


 金曜の夜。おれは宿から、あっちは多分家から華歩かほと通話をしている。

 予定よりも早く終わったことでおれはすでに宿に帰ってきており、その旨をメッセージで送ったところ、秒で華歩から通話がかかってきた。


「ところで」


「うん?」


 ちょっと華歩の声が低くなった気がする。


「かーくんのことだからつい無理したり……してないよね?」


「え、えっとー、してない……と思うよ。あはは」


 なんとなく誤魔化しながら、おれは左手で開いた<ステータス>を眺める。




<ステータス>

天野あまの かける


覚醒職アルティメットジョブ “多種武器使いマルチウェポンマスター

アビリティ:あらゆる武器種の潜在能力を引き出す。レベルアップ時全パラメータが上昇


レベル:21


HP :700/700

MP :203/203

筋力 :141

敏捷力:158

耐久力:125

運  :119

魔力 :147




 ……無理してますね、これ。

 帰ったら言い訳を考えておこう。


「ふーん、本当かな。まあ、とにかく無事ならそれで良いんだけど」


「ああ、大丈夫だよ。予定通り明日には帰るからさ」


「うん、わかった。明日は素材を持ってダンジョン街には行くだろうけど、休んだ方が良いと思うよ。どうせ宿題も鬼のように残ってるだろうし」


「そ、そうですね……」


 見透かされ過ぎてて怖い。


「じゃあまたね」


「ああ、また」


 おれは通話を切り、宿の机の上に放置されている宿題に目を向ける。


「……はあ」


 無理だ。【煌炎タートル】三体を同時に相手している方がまだましに見える。

 ってうわっ! 今度はなんだ。


「また通話?」


 と思えば今度は夢里ゆりれいさんからだ。

 今の今まで華歩と個人通話していたから繋がらなかったのか。


「……宿題は明日にしよう」


 ごろんと横になり、それから夢里と麗さんとも通話で報告をした。 


 大阪遠征。色々あったが、思い返してみればこの一週間はあっという間だった。

 すめらぎ聖斗あきとの友人Aという男からは、あの後これといった話をされることもなく、「ただ勝ってほしい、それだけ」と言われ部屋を出された。


 助けてもらったことには感謝をしているが、どこか不気味で異様な雰囲気が漂う男だったのは覚えている。

 あれ以降すれ違うこともなく、特に気にしているわけでもないが、またどこかで会う気がしている。







 目の前に広がる店の数々、行き交う探索者の多さ。

 一週間違うダンジョン街にいただけでこうも見る目が違うものか。

 

「んー! やっぱりこっちの雰囲気も良いわね!」


「こっちだと魔物料理は食べられないぞ?」


「そうなのよ。それだけがもったいない点だわ!」


「ははっ、フィは気に入っていたもんな」


 大阪ダンジョン街から直通の新幹線に乗り、おれたちは久々に東京ダンジョン街に帰って来た。 


「早速行くんでしょ? 例の場所」


「なんかいやらしい言い方するなよ……。でも、そうだな。まずはまつりさんに素材を届けてから家に帰るよ」





 相も変わらず綺麗な店が並んだ商業エリアを抜け、目的地に向かって真っすぐに進む。


《オーダーメイド》


 ……この看板だけはどうにかならないものかな。

 店主のじいさんのこだわりなのかもしれないけど。

 

「すみませーん、天野あまのです。天野かけるです」


 今では珍しい引き戸を開けて店中に入っていく。

 奥からドタドタと音を立てて出てきたのは祭さんだ。


「あ、天野さん! 帰って来たんですね! お疲れ様です!」


 両手を胸の前で合わせてねぎらってくれたのは大田おおだ祭さん。

 今回のオーダーメイドを担当してくれる同い年の職人さんで、国探産業科の一年生だ。


「かなり大変だったのでは? 無茶言ってしまってごめんなさい」


「いや、こちらも無理を言って作ってもらってるのでこれぐらいは当然だよ」


「それにしてもよく一週間であれだけの量を。やっぱりすごいなあ」


 キラキラとした真っすぐな目で見つめられる。

 ここままでいるのもなんだか恥ずかしいので、おれは早速ストレージから素材を順に出していった。


「ふむふむ。【煌炎タートル】の輝く甲羅に【一本牙コブラ】の毒牙五十本……ってすごお! これほとんどが指定した数よりも多いですよね! この鉱石も出来ればって感じで出したと思うんですけど」


 祭さんはおれが出した十数種類の素材の数々に興奮している。

 まあな。その点は、


「うちには優秀な頭脳がいるので」


「えっへん!」


 機を見計らっていたかのようにフィがひょいっと登場。


「え! 案内妖精ガイドピクシー!? かわいいー!」


 早速祭さんはフィとじゃれ合う。

 やはり女の子には大人気だな。


「ところで祭さん。これで出来そうですか?」


「! はい、任せてください。必ず期待に応えてみせます!」


 どん、と胸をたたいて決意の顔を見せる祭さん。

 これは期待が持てそうだ。


 みんなから上級生との対抗戦の話は聞いた。

 皇聖斗、あいつを倒すためにはまずは学校の代表メンバーに選ばれなければならない。


 月曜日に武器が間に合うかは分からない。

 それでも、全力で挑むのみだ。

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