第62話 次なる武器

 時刻は昼の十二時を過ぎる頃。少し延長された授業がようやく終わり、今日の時間割はこれで終了。昼食の時間が設けられることなく放課後となる。


 ダンジョンに関する授業ならば良いが、普通の高校生が習う様な授業もハイペースで進んで行くので、中々大変だ。それでも学校が早く終わるのはやはり嬉しい。


「今日はどうするかな」


「ダンジョン、行く?」


 机の上で腕を伸ばすおれに話しかけてくるのは隣の席の華歩かほ

 手の平で頬杖をついてこちらを見てくる。


「そうだなー。階層を進めるのも良いけど……」


 もちろん階層を進めるのは、効率の良いレベル上げにも繋がるので重要。

 だが、今の適正レベルに到達していないような状態で登るのも危険な気がする、というのも本音だ。

 ダンジョンはあくまでパーティー行動。おれ一人だけ良くてもいけないのだ。


「まあ、とりあえず誰かしらを誘ってダンジョン街に向かおうか」


「うん、そうしよう」





 放課後となったばかりということもあり、まだガヤガヤしている教室の中でいつメンに声を掛けていく。夢里ゆり凪風なぎかぜからは了承を得られた。

 あと残るは……


「おーい、豪月ごうつき!」


「む、天野あまのか」


 いつもより声がほんの少しだけ低く聞こえる。

 機嫌が悪そうには全く見えないので気のせいかもしれない。


「今からおれたちダンジョン街に行くんだけど、一緒にどうだ?」


「悪いな。今日はやめておく」


「えっ。お、おう……わかった」


 そう言って大きな背中をおれたちに見せながら豪月は去って行く。

 予想外の反応におれもつい戸惑った返事をしてしまった。


「珍しいね。豪月くんが断るのって」


「まあ、模擬戦だったり他の用事も色々あるからね」


 女子二人が話している中、凪風だけは豪月が去った後をじっと眺めていた。


「……」


「何かあったのか?」


「さあ、ね」


 小声で凪風に聞いてみるも、答えてはもらえなかった。何か誤魔化しているようには見えたが、深くは言及しないでおく。


「まあとりあえず仕方ない。今日はこの四人で──」


「私ではダメか」


 廊下を出た先、その声に反応して咄嗟とっさに横を振り向く。


れいさん!」


 そこには一年教室の前にはいるはずのない麗さんがいた。


「おい、あれ清流せいりゅう 麗だ」

「わざわざ一年教室に?」

「くそっ、天野か。あの野郎仲良いんだってよ」


 周りの声がモロ聞こえだが、ここは聞こえないふりをしつつ話を続ける。


「どうしたんですか?」


「ふっ、どうしたとはひどいな。ただかけると一緒にダンジョンへ行こうと誘いに来たのだが、たまたま今すれ違った彼との会話が聞こえてな」


 豪月との会話か。塞いではいなかったが、廊下との扉の近くで話していたから聞こえたのだろう。


「あ、あのー、麗さん」


「なんだ? 華歩」


 華歩が麗さんに下から窺うように話しかける。


「もちろん大歓迎なのですが、、じゃないですよね?」


 華歩は麗さんに聞いた後、ちらっとおれの方を見る。


「ふっ、そういうの、とはなんだ?」


 華歩の問いに対してわざとらしく麗さんが聞き返す。

 この顔は絶対に分かってる。


「まずい、正妻戦争だ」

「まさか清流 麗なのか?」

「二人だけでも羨ましいのにあの野郎」


「そこ! 黙ってなさい!」


 顔を赤くした夢里が、耐えられずクラスの奴についに言い放った。


「では、麗さんぜひお願いします! これで五人、フルパーティーですね」


 周りの視線も集めてしまっているので、一刻も早くこの場を抜けるべく少し早口に感謝を伝えて、強引に玄関の方へ足を向ける。

  おれたちはそのままダンジョン街へと向かった。




 

 ダンジョンへと行く前、五人で今日の目的・目標などを話し合う。


「あれ、今日は階層進めないの?」


「ああ。麗さんもいるし大丈夫だとは思うんだけど、気になることがあってさ」


 華歩に伝えた後、おれは呼び掛ける。


「フィ、いるか?」


「ふあ~あ。はいはい、いますよ~」


 フィはあくびをしながら、腕を上に伸ばした態勢で現れた。随分と眠そうだ。

 こんな状態で悪いが、聞いておきたい事がある。


「フィ、お前、前に第20層まで探索を進めている時に一瞬止まったタイミングがなかったか?」


「え~、なんのこと?」


 開いていない目をこすりながら気のない返事をするフィ。

 この……いや落ち着け、確かあの時は、


「華歩の方を向いていたような」


「う~ん、華歩? あ、あー!」


 あれね! と思い出した様子で急に目を開いたフィ。


「あれを取りに行くのね。そうと決まれば行くわよ! 第16層!」


 フィはすうーっと飛んで行く。

 相変わらず無茶苦茶な奴だが、その気になってくれたなら良いか。


「だ、大丈夫なのか?」


 麗さんが少し心配そうに聞いてくる。


「大丈夫ですよ。ああ見えて頼りにはなりますから」





 今日の目的を決めたおれたちは、ダンジョン入口の転移装置ポータルから第16層へと転移する。

 麗さんの一件が終わり、調査も済んだらしいここの封鎖はとっくに解かれている。


「で、この階層に一体何があるって言うんだ?」


 一応フィなりに警戒をしたのか、ここに着くまで情報を口に出さなかったフィ。


「ふっふーん。驚くんじゃないわよ」


 自慢げな態度から上に掲げた人差し指を、ゆっくりと前へと降ろしていき、自分の前でぴたっと止める。


「この階層に眠っているのは『魔法の書』よ!」

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