第3章 飛躍編
第61話 再始動
「うおおっ!」
盾でガードを張る【ダークスケルトン】の構えを真っ向から砕き、そのまま顔の前に手を差し向ける。
──ギャヤッ!?
『初級魔法』ではあるが、異世界で数え切れないほど使った経験で培った熟練度もあり、おれの『魔法』は【ダークスケルトン】の骨を焼き切る。
これで一帯の魔物は全て倒しただろう。
「よし。今日はこの辺にしとくか」
おれは後方にいるパーティーメンバーの方を振り向く。
「うん、それがいいかな」
「賛成っ! まだ無理をしても仕方ないもんね」
ここは東京ダンジョン第21層。
先日第20層ボス部屋を抜け、おれたちは新たな域へと足を踏み入れた。
第1・2層を表す名称は特にない。
ダンジョンではチュートリアルのようなものだからだ。
次に、第3層~第20層は“表層”と呼ばれる。
主に初心者、慣れてきた中級者が探索をする場所であり、全体から見ても表層を主軸とする探索者の割合は最も高い。
そして、第21層からは“中層”。
中級者の中でも上位、または上級者が探索をする領域である。もちろんダンジョンごとに難易度は変わってくるわけだが、どれも中層からぐっと魔物が強くなるという点では共通している。
<ステータス>に関してもレベル20からはかなり上がりにくくなり、その代わりにレベルアップ時にはこれまでとは一線を
また“アビリティ補正”という機能も追加されるなど、「20」という数字はダンジョンにおいて重要な
「うーん! 今日も頑張った!」
テーブルの上で腕を前に伸ばす夢里。
くつろいでいるのはもちろん、いつものダンジョン街のカフェ、いつもの席だ。
「やっぱり第21層は全然違ったね。あれが中層かあ」
彼女のお気に入りであるここのバニラシェイクをちゅーっと飲みながら話す華歩。
「やっぱりしばらく第20層に潜るべきかな?」
「いや、私は進みたい。こんなとこでのんびりしていたくないよ」
「わたしも夢里ちゃんと同じだよ」
二人は強い気持ちで答えた。
彼女たちの目は変わった。前からダンジョンに対して情熱も向上心も存分に持ち合わせていた彼女たちだが、ここ最近はさらに燃えているように見える。
きっかけは本人たちに問うまでもない。
おれと麗さんの模擬戦だ。
ほんの数日前、おれは麗さんに
悔しさから、いつでも
────
「うおおおお!」
「はああああ!」
「くっ──!」
やはり押し負ける翔だが、こうなる事は想定内。
翔はとにかく今使える<スキル>で翻弄し、なんとか隙を見つけ出すしかない
麗の振り払いを逆に利用して距離を取る翔。
その場に転がる
<
麗に向かって多数の瓦礫を剣で弾いて飛ばす。<スキル>補正により、その一粒一粒が麗を正確に狙う。三対三の実践授業で翔が
「甘い!」
その時の凪風は岩陰に入ったのに対し、麗は一瞬も
翔はそうくるのを予想していたかのように宙から<スキル>を発動させた。
<
「それは一度見たぞ!」
「なっ!?」
翔が飛ばした十字の斬撃を、針に糸を通すような
翔は
<
人は焦った時、慣れている行動をする。
翔が使う<スキル>まで読み切っていた麗は一段階上の<スキル>を発動させる。
<
「──ぐぁっ!」
三度、互いの剣が激しい音と共に交わるが、翔の<スキル>持続が切れた後、麗の四連撃の最後の突きが炸裂する。翔は勢いのまま宙から地面へ落とされた。
(熱気?)
落下した翔に追撃をかけようとする麗だが、翔が落下して上がった
「──!」
「ハァ、さすがに当たらないか……ハァ」
砂埃から姿を現した翔は広げた右手を麗に向けている。
『上級魔法 豪火炎』を放ったのだ。しかし、単発の当てずっぽうでは麗に着弾するはずもない。
「『魔法』まで持っていたとはな。やはり君は面白い」
「当たらなければ意味ないですがね」
焦りはしながらも思考を巡らせ続ける翔。
(<未来視>と<空間把握>が使えれば当てられるかもしれないが、使えない現状じゃ『魔法』も厳しいか……!)
<スキル>を
(ならばあれしかない!)
翔は一息つき、乱れた呼吸を整える。
雰囲気の違いを感じ取った麗は翔の正面を向き、細剣を前に構え直す。
「あれは……」
観客席にいる凪風は、構えから翔のやろうとしていることに気付く。
「オレがやられた技だな」
それは凪風の隣で様子を見守る
今の翔は、入学式の日に豪月を倒した技と同じ構えをしている。
「あの時は何をされたか分からなかった。じっくりと見させてもらうぞ、
両者構えを取ってから数秒。
時が止まったかのように動かず、互いにじっくりと様子を
その均衡は翔の踏み出しによって破られる。
「──!」
「──!」
<瞬歩>
翔が麗に向かって飛び出す。一直線ではなく左右に揺れながらだ。
<瞬歩>
麗も遅れることなく<スキル>を発動する。警戒からか、態勢は守り寄りだ。
「──うおお!」
<威圧> <
思考力を持たない魔物に対してはほとんど意味のない<威圧>。
だが、それは思考力を持った魔物、もしくは対人戦で真価を発揮する。効果により今の翔の圧は猛獣そのもの。
そこに上半身を狙うかのような、上方への縦斬りの<
そしてここからが本命。
<曲刀>
大胆な縦斬りを途中まで見せることで、相手は上方に意識を取られて構えを取る。
縦斬りと見せかけた滑らかな引きの剣筋から、がら空きの下方を勢いを殺さぬまま斬り去る。
これが翔が豪月との一戦で見せた剣技。
だが──
ガキンッ!
翔にとっては聞こえるはずのない金属音。
かつてに比べれば速さも十分でないとはいえ、翔は動揺を隠せない。
剣が交わる接近戦で気を抜けば、それは負けを意味する。
ましてや相手は麗だ。
「終わりだ」
<
翔も一瞬で気を取り戻し、知っている<スキル>に対して先読みで剣を置くが、発動した<スキル>の威力にただの剣で立ち向かうのは無謀。
麗の八連撃の前に翔はそのまま敗北した。
────
「なにぼーっとしてんの?」
「おわっ!」
視界の斜め前に夢里の顔があった。
思いの外、顔が近くて
「かーくんも疲れてるんだよね」
「! そっ、そうかもな」
華歩の優しい目にもドキっとしてしまう。
ダメだ、最近は色々と心臓が持ちそうにない。
「そろそろ帰ろっか。明日もまた学校があるからね」
「そだね」
「おう」
華歩の掛け声でおれたちは帰りの支度をする。
麗さんには負けた。
しかし、模擬戦を終えた周囲の反応は予想とはまるで違い、多くが「あの
もしかすると学校の外にもそのように伝わっているかもしれない。
さらに今回の模擬戦で、今のおれの強さをより明確に認識することが出来た。
得たものは大きい。
そんな模擬戦に感化されて華歩や夢里、周りの意識もより高くなったように思う。
おれはまだまだ強くなりたい。次に麗さんとやる時は勝ちたい。
ここから、再始動だ。
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