第63話 きっかけ

 フィが案内する後に続き、おれたちは歩を進める。


 フィが高らかに宣言した後、簡単な話し合いから満場一致で『魔法の書』は華歩かほに譲ることになった。

 もちろんおれもそれが一番だとは思うが、


「ん、何かな?」


凪風なぎかぜは『魔法』には興味は無いのか?」


「そうだね。そりゃあ無いわけではないけど、小日和こびよりさんが授かるのが一番というのは本心だよ。頼れる仲間はどれだけ増えてもいいからね」


 そんなもんか。凪風も良い奴なんだよな。


「……」


夢里ゆり? どうかしたか?」


「! ううん、何でもないよ!」


 なんだろう。少しぼーっとしていたように見えたが気のせいだろうか。





「はあッ!」


──ギャウゥン!


 第16層に出現する魔物、【バークウルフ】。群れで行動している魔物だが、それをものともせず瞬く間に斬り倒していくれいさん。


 目を惹く輝かしい金色の細剣に、全身綺麗な銀色をした速さ重視の軽めの装備。

 速すぎる戦闘スタイルも相まって、戦闘時は金・銀の輝く色が彼女の周りで美しく飛び交う。


「終わりだ!」


 麗さんはあっという間に【バークウルフ】の群れを殲滅せんめつした。


 速さを生かした戦闘スタイルという点では、凪風と似ている部分がある。凪風はそんな麗さんの戦闘から目を離せないでいる。


「すごい……」


「ふっ、素直に褒められると照れるが、直で見るのはとても大切な事だ。見てしっかりと学ぶんだな」


「はい!」


 このパーティーでは豪月ごうつきのような耐久力に優れた前衛はいないが、麗さん・おれ・凪風という前衛から超攻撃なパーティーとなっている。


「すごいなあ……」


 夢里が感心の声を漏らしたのが聞こえる。

 嫉妬や焦りが混じった声であったのは気のせいではないだろう。


「よーし、行くわよ!」


 戦闘が終わるや否や先頭に躍り出るフィ。

 調子の良い奴だ。


「……夢里? 大丈夫か?」


 パーティーが再び進み始めた中、足取りが重い最後方の夢里に声を掛ける。

 なんとなくだが、今日の夢里は元気が無い様に見える。


「あっ、ごめん! 全然大丈夫だよ、私たちも早く行こう!」


 彼女はおれを追い抜くようにパーティーの方へ走っていくが、少し覗かせた表情と今見ている背中から、やはり何かを抱えている様に感じた。





「うーん、こっち!」


 フィは両手の人差し指で道を示してくれる。


「もう少しみたいだね」


「! わかるのか? 華歩」


 フィほどではないが、何かしらを感じ取った様子の華歩。

 おれの質問に自信がなさそうにこくりと頷く。


「なんて言うのかは分からないんだけど、なんだか呼ばれてる気がするっていうか」


「それ、シンファも言ってたわねー」


 空中で横に寝そべるような姿勢をしながらフィが言う。


「たしかに言ってたかもな。『魔法』を主とする者同士、何かあるのかな」


「いや、でも! わたしのはほんとに気のせいかもしれないっていうか……」


 慌てふためく華歩に言葉を添えたのは麗さんだ。


「きっと気のせいなんかではないぞ、華歩。そういった感覚は、このある意味非現実的なダンジョン下では起こり得る話だ。その感覚を大事にするんだ」


「は、はい!」


 自信を持て、そう言われたことに嬉しそうな顔を見せる華歩。


「……」


 やり取りの中でちらっとパーティーの最後方を振り向く。

 やはり気になるな。


「この先だわ!」


 フィの言葉を聞き、再び視線を前方に戻す。


「この先って。どう見ても壁だけど」


「ぶち壊しちゃって!」


「良いんだな?」


 うんうん! と期待を膨らませたような表情で勢いよく頷くフィ。それを見ておれは剣を構える。

 ダンジョンの壁というのは基本的にものすごく硬い。それこそ勇者時代の装備と力があっても全て破壊して一直線に進むことは出来なかったほどに。


 だが、フィが言うなら間違いないだろう。

 この壁は、壊せる!


 バキンッ!


「は?」


 目の前の光景が信じられず、思考が停止していたのかもしれない。

 おれは情けない声を出したまま、折れた剣を目で追うことしか出来なかった。


「カ、カケル……」


 弱々しく口を開いたフィの方をゆっくりと振り向く。


「えっとー。……うん、これ『魔法』じゃなきゃ壊せないかも」


 てへっ、と舌を出して自分の頭をこつんと叩くフィ。


「このやろう!」


「ギャー! ごめん、ごめんって!」


 この剣、そこそこ良い値段するんだぞ!

 国探入学に合わせて新調したばかりだし!


 その後、華歩の『魔法』で割と簡単に壁は壊すことが出来た。

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